宇宙艦隊オッパリオン010話「辺境偵察艦隊」
想定外のニュートレースジャンプの航行距離により、オッパリオン星系から離れた場所にジャンプしてしまったスタティア。
機関部の損傷を直しつつ、できた時間で翔平と奈菜は、オッパリオンの現状を少しばかり知ることとなる。
そんな中、スタティアに黒い影が忍び寄る。
オッパリオンの戦いは始まったばかり。
スタティア一行の運命はいかに!?
【〇一〇 辺境偵察艦隊】
「ダンゼル艦長、レーダーに感あり。艦種不明。推定、メルクコアの艦と思われます。光学に遠景出します」
「……これが本国から連絡のあった輪っか付きか。なるほどな。それ以上の情報はないのか?」
「ありません。機動兵器の搭載数も不明とのことです」
「情報はなしか。はっ、こんな辺境の偵察部隊が相手をするには大物すぎるんじゃないのか?」
「自分にはお答えしかねます」
「まぁいい。千載一遇のチャンスかもしれんからな。ここで手柄をあげればこんな退屈な任務からもおさらばできるってもんよ。ガンザとダラヌに伝えろ、全艦、対艦戦闘用意」
ダンゼルの命令が下ると、僚艦にも通達が走った。
目標にはレーダーに捉えたばかりの輪っか付き――スタティアが見えている。
「どうせ誰かの後始末かなにかだろう。こんな宙域をうろついてるってことは逃げてきたくらいしか考えられん」
「強敵ということでしょうかね」
「わからん。――が、データにない新造艦だ。本国からの勅命は足止めだったな。ということはつまりあの艦を手に入れろってことだろう。後続で応援をよこすと言っていたがまぁあてにするつもりもない」
「自分たちだけで手に入れるつもりですか?」
「メルクコア相手に遅れを取るような俺たちじゃない。この艦の突入部隊にも仕事をさせないとな」
「ほ、本気ですか艦長?」
「言ったろ? これはチャンスだ。おまえだってこのままなにもない宙域の偵察ばかりで退役を迎えたくはないだろうが」
「そうではありますが……」
「ならやってやるまでよ。突入部隊にも準備をさせておけ。相手の機関部に何発か食らわせて止めてから乗り込む。機動兵器部隊も順次発進だ。全機攻撃に向かわせろ」
「りょ、了解です」
長い間辺境の定期偵察という任務に暇を持て余していたダンゼルは心の猛りを感じていた。
自分でも言ったように、これはまたとないチャンスなのだと思っていた。
「主砲発射用意。主砲斉射後、機動兵器を出す。ガンザ、ダラヌもタイミングは合わせろと伝えろ」
「了解」
「しかしあの臆病なメルクコアが単艦で行動しているとはな。僚艦は沈められたのか」
「本国からの情報にはありませんでした」
「知ってる。なにやら訳ありかもしれんな。ますます出世の匂いがするぞ」
本国から直接命令が来るということも珍しい。しかも命令は特殊作戦本部からだった。通常の命令系統とは異なり、これも珍しいことだった。
さらには相手の情報も不明という、本来ならば警戒すべき事態ではあるのだが、ダンゼルは逆に心を滾らせていた。
「目標もこちらを捕捉した模様。警告を発しますか?」
「メルクコアに警告など不要だ。いきなり撃ってやる」
「距離一四〇〇〇、目標、進路そのまま」
「最大艦速で主砲距離まで近づく。仕掛けるぞ!」
「了解」
ダンゼルたち偵察艦隊がスタティアに迫っていた。
◇ ◇ ◇
「状況は?」
アーリアは艦橋の扉を開けるなり、立っていたミストレアに聞く。
「距離一四〇〇〇に艦影です。マーラ帝国のデルーヌ級艦艇です。数は三、本艦に正面から接近する進路を見せています」
「デルーヌ級? なるほど、本隊ではなくて偵察の艦隊ということね。接近してるということはこのままやる気のようね」
「そのようですね。おそらくは後続を向かわせている間の時間稼ぎですね。機関部が通常なら振り切れる相手ではありますが、現状の出力では不可能です」
「わかったわ。このまま時間をかけていたらあちらの思うつぼというわけね。なら、こちらもやるしかないわね」
アーリアの決断は早かった。
その言葉を聞いた奈菜が翔平の袖を掴んだ。
「奈菜?」
「また戦闘になるの?」
「そうっぽい。相手も見逃してはくれないみたいだし」
「この艦、狙われてるの?」
「だろうね」
奈菜の疑問に相づちを打った翔平を見て、アーリアが奈菜の方を向く。
「この艦も狙われているけど、帝国の狙いはZリーヌンス、つまりショウヘイだと思うわ」
「翔平が?」
「そうよ。シャトルを襲ったのもショウヘイを欲しがっていたからでしょうし。だからいきなりこちらを撃沈することはないとは思うわ」
「撃沈……」
奈菜はその言葉にぞっとするものを感じた。
「艦の戦闘力を奪ってから乗り込んで制圧するのが定石ですね。我々も無抵抗でそうされるつもりはありませんので、ご安心を」
奈菜の不安を知ってか、ミストレアがそんなことを言った。彼女の言葉は落ち着いていて、余裕を感じさせる。
「そういうことよ。機関部は不調だけど偵察部隊相手にやられるスタティアじゃないわ」
アーリアの心強い言葉に、奈菜はひとまずの安堵を見せた。
「ショウヘイとナナのために軽く説明しておくと相手のデルーヌ級というのはやや旧型の艦種でね。一線で戦っているような戦艦ではないんだ。だからこうして辺境の偵察や地方の警備などに使われている。この艦からしたら取るに足らない相手というわけだ」
ミィアルーンはどこか楽しげにそんなことを語ってくれた。
「でもこの艦、機関部が不調なんでしょう?」
「だね。修理は進んでいるけど現状じゃ二〇から三〇%程度の出力だろう。でも心配はいらない。主砲の撃ち合いになる前に機動兵器たちで勝負が決するよ。な、アーリア提督?」
「そうしたいところね」
「提督も出撃されるおつもりですか?」
ミストレアは怪訝そうな表情をアーリアに向けた。
「この状況では一機でも多くの機動兵器が必要でしょう? わたしなら大丈夫よ。だいぶ休ませてもらえたわ」
「ならいいのですが……提督はすぐに無理をされますから」
「心配してくれてありがとう艦長」
アーリアはにこりと、ミストレアに微笑んで見せた。それを受け、ミストレアは苦笑する。
「ふむ、見たところショウヘイのZリーヌンスは今は休眠状態と言ったところかな。どうすれば活性化するのかというのも検証が必要ではあるな」
「俺の意志でどうにかできればいいんですけど、自分の中になにかあるくらいの感覚しかなくって。力になれずにすみません」
自分にはこの艦の力になれる可能性があるらしいのだが、自分の意志ではどうにもできないところに翔平はもどかしさを感じていた。
自分のせいで狙われている、自分が狙われているとわかると、余計にもどかしさが募った。
「大丈夫よ。この程度はスタティアの力だけでも切り抜けられるわ」
「でも――」
「敵艦、高熱源体射出。数九、急速に接近中」
「全艦、対空迎撃戦用意。こちらも機動兵器隊を出します」
「わたしも出ます。シア、お願いできるかしら?」
そう言い、アーリアは艦の隅にある席を向いた。
そこには小柄な少女が座っていたが、アーリアの声に応じるように立ち上がった。
そして真っ直ぐに翔平の方を見る。
「あ、あの――」
「大丈夫。あなたはあなたの意志のまま行動すればいいから」
そう残し、シアと呼ばれた少女は艦橋を出て行った。
「俺の意志のまま……」
「提督、それではお願いします。機関部の修理も進めるので、無理はなさらず」
「ええ。無理せず戦果をあげて見せるわ。ショウヘイとナナはここにいて。安全よ」
「は、はい」
「お気を付けて」
「任せて」
そう残し、微笑みを残したアーリアはマントを翻して艦橋を出て行った。
翔平にはその笑顔が優しく見え、とても戦いに赴く人には思えなかった。
「機動兵器各機発進します」
「艦長、機関室から連絡です。出力不安定につき、ミルキィフィールドの発生が安定しないとのことです」
「なんですって?」
冷静に見えるミストレアが少し驚いたような声をあげたことに、翔平も奈菜も驚いた。
翔平は助けを求めるようにミィアルーンを見る。
「ミルキィフィールドとはね、母乳機関や母乳転換炉から生じるある種の偏向領域のようなものだ。単純に言えばバリアのようなものだね。ビームはもちろん、物理的な接触も防ぐ、現用の戦闘において防御の要になるものだよ」
「じゃ、じゃあそれが使えないんじゃかなり危険ってことでは?」
「そうだね。艦砲の射程に入ったり敵の機動兵器に取り付かれれば艦はダメージを負うことになる」
当たり前のことのように言うミィアルーンは危険なことを言っているのだが、落ち着いて見えた。
報告を受けたミストレアも一瞬驚きはしたものの、今では冷静な表情に戻っている。
「要は当たらなければいいと言うだけのことだよ」
「博士の言う通り。不利は不利だけど、それだけが戦闘の勝敗を決するものではないわ。幸いにしてこのスタティアにいる機動兵器部隊は皆特別なほどに優秀です」
「な、なら安心……ということか……」
翔平も思わず中央のモニターに見入ってしまう。
スタティアを発した機動兵器のシンボルが艦を離れ、向かってきている敵機のシンボルに間もなく重なるという展開を見せていた。
「機動兵器部隊、交戦開始」
「こっちは四機なのに、相手は九機もいるのか」
「帝国とオッパリオンの機動兵器には性能差があってね。オッパリオン製の方が母乳機関を使っている分性能は上だよ。三対一くらいで帝国はやっとまともに戦えるというくらいかな」
「そんなに違うのか」
感心する翔平だったが、状況はつぶさに変化していく。
「敵機三機、攻撃部隊を突破しました。本艦接触まで二〇〇秒。防衛部隊が接触します」
「対空機銃は?」
「現状での稼動は二〇%程度です」
「効果は期待できないわね。防衛隊に任せましょう」
この防衛部隊が大事だということは、言われなくても翔平にはわかった。状況はかなり攻められているということだ。
相手は自分を狙ってきているというのに――。
「艦長、博士、自分にもなにかできることはないんですか?」
「大丈夫よ」
ミストレアはすぐにそう返す。
「でも――このままジッとしてるなんて。みんな戦ってるのに」
「翔平……」
翔平は責任を感じやすいところがあると、奈菜は思い出した。
「艦長、ゼータリオンが使えるかもしれないな」
「――博士、本気? 使えるかもしれないけど……ショウヘイは素人よ?」
「ゼータリオンってなんです? 俺になにかできるんですか?」
「ゼータリオンとはこの艦と共に開発した、Zリーヌンス該当者専用の機関を持つ機動兵器だよ。アーリア提督の母乳力をもってしても起動すらしなかったのだけどね」
「お、俺にそれが使えるんですか?」
「ショウヘイ、わたしは艦長として反対します。あなたが戦場に出ることはありません」
「でも、役に立つなら……俺はやりたい!」
きっぱりと反対を表明するミストレアに、翔平も強くそう申し出た。
「技術顧問のわたしとしてはゼータリオンの起動を試みたいものだね。それがZリーヌンス発動にも繋がるかもしれない」
「博士……」
「お願いします艦長。俺に力になれることがあるなら、協力させてください。違う星の戦いでも、自分を守るために戦ってくれている人がいるのなら、黙って見ているだけなんてつらすぎます!」
「……あなたもそういう人なのね、ショウヘイ。提督、お聞きになられましたか? ゼータリオンを起動させたいと言っておりますが」
『聞かせてもらったわ。ショウヘイ、あなたの気持ちは感謝し、尊敬に値します。でも戦場に出るのはあなたが思っているほど優しいものじゃないわ』
艦橋全体に聞こえる通信でアーリアが応えた。
「でも、俺の力がまたこの艦を救えるのなら、俺も一緒に戦います!」
「艦長、提督、ゼータリオンが起動できるものならそれは戦力というよりZリーヌンスの効果が期待できるはずだ」
翔平の意志を汲んでか、科学者としての好奇心からか、ミィアルーンはそう進言してくれた。
「スタティアのミルキィフィールドが使えない今、逃げ回っているだけの機体でも防衛に出てもらった方がいいとも思えるがね。幸い、機動兵器の操縦はほとんどオートでできるわけだし」
「そ、それなら俺にだって……! お願いします!」
『ショウヘイ――。わかったわ。ゼータリオンの起動を許可します』
「提督!? 本気ですか!」
『ただし交戦はしないこと。スタティアから離れることは禁じます。Zリーヌンスの解析もしないといけないし、ここで試しておくのは最善かもしれないわ、ミストレア』
「わ、わかりました……。では博士、ゼータリオンの起動を許可します」
「ありがとう艦長、提督。さぁショウヘイ、格納庫へ向かおう」
「わかりました。ありがとうございます!」
「くれぐれも無茶はしないように」
『交戦はしないようにね』
「待って翔平、わたしも着いてく!」
艦橋を出ようとする翔平を追いかけるように、奈菜も着いてきた。
「まぁまだ起動できると決まったわけではないのだけどね。ただ、起動できたら現行では最強の機動兵器になることは間違いないよ、スペック的にはね」
そう言いながら翔平を見るミィアルーンの目は輝きに満ちていた。
次回、土曜日はお正月休みということで、掲載を一時お休みとさせて頂きます。
楽しみにして頂いている皆様へ、大変申し訳御座いませんが、ご了承の程お願い致します。
来週の水曜日より引き続き更新していく予定です。
いつも「宇宙艦隊オッパリオン」を応援頂き誠にありがとうございます。
小説家になろうの機能の評価とレビューの方も、お時間御座いましたら何卒宜しくお願い致します。
読者の皆様の声が、レビューが、評価が、「宇宙艦隊オッパリオン」の明日をつくる!!
面白い作品に仕上げていく為にも、些細な事でも気楽にレビュー頂けますと幸いです。
スケキヨとYOM、引き続き精進して参る所存です!!