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戦友

「良かったらこれを使ってくれ」


鈴木とアンナは首からロザリオを外すとバルバロス王とリーゼが膝を突き合わせたテーブルの上に置いた。


「これは!」


「お二人とも持ってらしたの?」


バルバロス王は口角が上がり喜びを露わにし、リーゼも安堵の表情を見せた。


「これなら話が早いですわ、すぐに聖なる油の精製に入りましょう」


リーゼがロザリオを掴む姿を見て映画やTVでやる吸血鬼のイメージを全て覆された。陽に当たるは十字架は持つは、しまいには前回のディナーの時にニンニクを食べていた気さえしてきた。我々が知っている吸血鬼のイメージで合致しているのはちょっぴり出てる犬歯で人の血を吸う事くらいしか無い。リーゼとバルバロス王が急いで聖堂に向かった。


「僕達も行きますか?」


メドラウトの返り血を浴びた顔には疲労感が出ている。鈴木も敵の血に染まりながら雨や泥やらでドロドロのまま一息つく事にした。一刻が過ぎる頃には雨が止み空にはお日様が顔を出した。まだ北の方の雨雲はどんより灰色で雨が降っている様に見えるが、アポロンの空は晴れ太陽が雨で濡れた大地を照らし乾かす。


「戻りましたわ」


リーゼが帰って来た。


「どうだった?」


「アポロンの神官が総出で祈りを捧げていますわ、多分あの調子なら明日には聖なる油は出来ている事でしょう」


リーゼも珍しく朝では無いのに顔に疲れが出ている。


「一度城に戻り休もう」


鈴木の提案に全員が同意し疲労困憊の身体に鞭打ち、城までの道のりをなんとか歩いて戻った。


「お疲れー」


「お疲れ様でした」


「お疲れ様ですわ」


「お疲れです」


城に着くと男女に分かれすぐに大浴場へ向かった。服やら鎧やら剣やらを護衛に渡すと、彼方の方で手入れや洗濯をしてくれるらしい、泥と血でパリパリになった肌の表面をお湯と石鹸で洗い落とす。


「ふい〜、気持ち良い!」


「お風呂最高ですね、疲れが溶け流れて行く様な感覚です」


鈴木とメドラウトは頭に布を乗せて二人並んで頬をピンクに染めると、少し熱めのお湯加減に吐息を漏らした。


「しかし魔王軍の奇襲攻撃が激化していますね」


「開戦してから魔王軍の兵士の損耗は激しいはずだが、持久戦と言うよりは短期決戦を仕掛けてる感じだな」


「城壁を何度か破られたり、空軍からの急襲は肝を冷やしましたね」


「そうだな、正直焦りはしたな」


鈴木とメドラウトはのぼせる前に大浴場から出ると風と水属性で冷やされたコップに注がれたミルクを腰に手を当てながら一気に飲み干した。


「ぷっはー美味い!」


「これは贅沢ですね、もう一杯飲んじゃお」


メドラウトがおかわりしている間に、ふと着替えを入れる棚を見ると、先程は血塗れ泥だらけの衣服や装備品が、綺麗に洗われ乾かされていた。


「うう〜ん!これは凄い」


鈴木はアンナに匹敵する洗濯から乾燥までの達人の仕業を見て唸った。気持ち良く綺麗になった服や装備品を身につけると、メドラウトを置いて自分のゲストルームへ戻って行った。夕方にさしかかっても城壁からはまだ合戦の音が止まない、魔王軍からの力押しに胸壁にいるアポロンの兵士達は奮戦し、本日も城壁を守り抜いた。束の間の休息、城内外はひとときの静寂に包まれた。


「少しいいか?」


静寂を破る来訪者。


「キッシュ、どうした?」


鈴木はキッシュを部屋に迎え入れ席に座らせるとベッドに腰掛けた。


「少し勇者と話をしたい」


キッシュは護衛を部屋から追い出すと本題に入った。


「親父殿がヤバイ」


「バルバロス王がどうかしたのか?」


「臣や民の前では冷静を装っていたが、今回の空からの奇襲による国民の被害に対して、ぶち切れて手がつけられん。なんとか母さんと兄貴、ガーグの3人で怒りを静めているが、明日の早朝にアポロン王自ら軍を率いて、魔王軍に総攻撃をする予定になっている」


「魔王を相手に野戦を仕掛けるのか!?」


「親父殿なら魔王の1人や2人くらい殺れるだろうが、万一、億が一、親父殿が戦死でもしたら戦線どころか国が崩壊する。友よ、すまないが助けてくれないか?」


「もちろん、俺達は親友なんだろ?ならば否応無しだ」


鈴木がニカッと笑うとつられてキッシュもニカッと笑う。キッシュが感謝の抱擁をすると作戦を伝えた。


「本日夜更に敵の兵糧を叩く、焼き払い兵糧攻めをしようと思うがついて来てくれるか?」


「わかった」


「今回の作戦は秘密裏に行う為、俺とウチの精鋭20名とお前だけで行く。決死の作戦だ、好いた女がいるなら今晩抱いておけよ」


キッシュはもう一度熱い抱擁を交わすと部屋を出て行った。数日の攻城戦において消耗したとは言え、魔王軍には魔王が健在で兵数は多分、万はくだらないだろう。そこに潜入して兵糧に火をつけに行くのだ、確実に死ぬだろうが成功すれば魔王軍を撤退に追い込める一手である。


「好いた女ね...」


鈴木の頭に過ぎるのは稚拙な自分から去った妻が思い浮かんでいた。鈴木は戦いに集中するとミハイルを持ち、だだっ広い部屋で大きく素振りを行い、精神統一をした。食事を終え水風呂に入り身を清め、親友の来訪を待った。

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