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瓢箪から駒

王の発言に騒めき立つ民衆が少しずつ、怒りの矛先をバルバロス王に向けようと、風向きが変わったのが伝わる。故人が亡くなったのは魔王襲来の災害だが、愛する者を火にかけるなど、彼等にとってはあり得ない事だからだ。


「王よなりません!此奴の口車に乗せられては、古来より我がアポロン国の仕来りは獣葬です。何より今までそれで問題等起きなかったではありませんか」


ガーグがバルバロス王に諫言をする。


「それは遺体の数が少なかったから野獣に食べられ骨になり、また国外で葬式を行ったから感染症が広まらなかったと言う事なだけです」


鈴木がガーグの認識を否定する。ガーグは顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「その者は我等が誇りを踏みにじらんとする輩である、衛兵よそいつを捕まえろ!」


ガーグが鈴木を拘束するように衛兵に命じ、アポロンの民もまた他人で関わり合いの無い、鈴木に対して怒りの矛先を向け易く、ヘイトの対象に選んだようだ。


「アイツのせいだ」


「もっと早く来てくれていれば、まさかワザと見捨てたんじゃ」


「火で焼く等、野蛮な種族がする事、やはり勇者も所詮は只の人間か」


憎悪の火種が燻りかけた時、突風を吹かせかき消す漢がいた。


「皆聞いてくれ、故人が愛する者を傷つける事など望む筈も無い。命を賭して守った家族を危険に晒すのが彼等の本望か?違う、絶対に違うと私は言い切ろう。私が同じ立場なら迷わず我が肉体を焼いて貰いたい、どうだ皆は違うか?死して愛する者の命を危険に晒したいか」


バルバロス王の言葉に皆一様に閉口し傾聴する。


「憎いなら私を殴れ、納得出来ないならしなくていい。だが故人の誇りを踏みにじる行為とは、感染症で愛する家族や友人を傷つけてしまう事だと私は思う。故にアポロン国、国王として命ずる異論は許さん」


少し前まで平身低頭だったバルバロス王は最初に出会った時の様に威風堂々と立ち、雨に打たれながらも王のオーラを放っていた。演説を終えバルバロス王は鈴木に歩み寄る。


「ありがとうございます、信じて頂いて」


「こちらこそ感謝を。貴方が嘘を吐くメリットが無い、それに息子が言うんだ信じるさ」


バルバロス王は鈴木を軽く抱擁すると周辺にいた被害者達の安全を確保すると遺体を綺麗に並べ直し一旦濡れない屋内へと移動させた。


「さてどうしたものか?」


バルバロス王と黎明の旅人、大臣のガーグとキッシュ、王の近衛兵数名が集まって会議を始めた。


「獣葬は我等が先祖と同じ地に戻ると言う意味があります、これを戦時中だからと火葬を民に強いるのは強い反発を招きますぞ」


1番に口火を切ったのは大臣のガーグだ、アポロンの一般的な思想を述べた。


「しかしこのまま感染症なるものが流行れば、今日出た死者では済まなくなるぞ」


キッシュがガーグに反論する。


「王子、そもそもそれが作り話なのですよ。感染症なるものが存在するならば我々は当の昔に絶滅しているでしょう。だが我々は栄えているそれが答えです。国を滅ぼす病など聞いた事もありません」


ガーグがキッシュをなだめる。舌戦においてはガーグの方が上手のようだ。


「ガーグよ、余の意は決しておる。今の議題は如何にして火葬を執り行うかであって、そこでは無い」


バルバロス王の鶴の一声にガーグは口を噤んだ。


「そう言えば確か古の葬式の様式に、聖火葬と言うものがあった気がしますわ」


リーゼが行き詰まった面々に助け船を出した。


「聖火葬?」


「ええ、聖火と呼ばれる火で火葬するのですけど。亜人も人間も聖火で魂を送られれば天国へ行けるとか、昔の言い伝えですが」


「それは良い、それならば皆も納得してくれよう」


バルバロス王はリーゼの話を前のめりで熱心に聞いた。


「問題は聖なる油と神官をどう調達するかですわ」


「神官は我が国にいる、聖なる油は無いな」


バルバロス王とリーゼが思案する中、鈴木はアンナに質問した。


「聖なる油って何?」


「聖なる油は聖水と油を混ぜたものです」


「聖水ってどうやって手に入れるの?」


「聖堂にて神官が清めた水にロザリオを入れて神官が祈りを捧げると出来ますわ」


バルバロス王とリーゼはどうやってロザリオを手に入れるかを相談していた。


「我が国では十字架は置いておらぬ、行商人や民に保有者がいないか直ぐに調べさせよう」


「あとは魔王軍を突破して、ハデスまで取りに行くしかありませんわね」


どうやら二人の会話を聞いていると、アポロンの国教はロザリオを身につけるものではないらしい。ふと鈴木は胸辺りに違和感を感じ弄った。銀色に光るそれにリーゼと鈴木の目が釘付けになった。


「そう言えばハデスで貰ってたな」


「これで聖なる油が作れますね」


だが鈴木は一つの疑問が頭を過り、リーゼに対して疑問をぶつける。


「そもそもロザリオを使わない宗派の神官が聖なる油を作れるのか?」


「大丈夫ですわ、人間や亜人が崇める神は統一神 マテラの血脈。神同士が親族なのですから、もう同じ宗派と言っても過言ではありませんわ」


リーゼの言っている事は過言だよと思いつつ、この世界の宗教について少し知れた。統一神の子の神は兄弟親族の集まりなので、かなり緩い柔軟な考え方をするようだ。鈴木は魔神はマテラの親族なのか少し気になったが話が逸れるのでスルーした。

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