暑くて寝づらくても油断しない事!
豪勢な部屋で目を覚ますとレシールがコクリコクリとうたた寝をしていた。寝顔はまだ幼さが残る感じでヨダレが少し垂れていた。鈴木がベッドからこっそりと出てストレッチを行う。いい感じに身体が伸びてきたところでレシールが目を覚ました。
「おはよう」
鈴木が笑顔で挨拶する。
「おはようございます」
レシールは眠そうに返事を返すと一瞬我に帰りヨダレを拭き身嗜みを整えシャキっと椅子に座り直した。さっきまで眠っていたが私は寝てませんよと言わんばかりにアピールしてくる、その必死さが可愛いくて娘と言うよりは歳の近い姪と言った感じの方がしっくりくる。口に出さないが可愛いーなーと思いながらカーテンを開け外の様子を伺う。
「まだ何処も動いてないな」
昨日、正確には今日の深夜にバルバロス王の暗殺未遂が発生した事以外は大きな動きは無いようだ。犯人もバルバロス王の反撃に遭い深傷を負っているとの情報がレシールからもたらされた。窓を開け静かな朝に新鮮な空気を吸うと今が戦時中である事を忘れてしまいそうだ。魔王軍も深夜から明け方にかけては眠っているのかと思うと少し安心する。
「昨日の崩された城壁の所はどうなっている?」
「突貫で修復したようで完全ではありませんが、敵が侵入する事は出来ない様になっているようです」
「そうかありがとう」
幼さも残るが質問に対しての回答が堂々としていて歯切れが良い、大人びた雰囲気も垣間見せるレシールに鈴木は感心した。朝飯の前にいつでも戦える様にミハイルを持って身体を動かすべく中庭に出た。レシールに何度か止められそうになったが、いいからいいからと押し通り今に至る。鈴木が300回位素振りをし終わる頃に朝食に呼ばれた。一度部屋に戻り汗を拭き服を着替えてからレシールを引き連れ食堂へ向かった。
「勇者様はこちらに」
レシールが給仕に指示を出すと給仕役が食べ物を机に並べていく。机にあらかた並べ終わる頃にはアンナが着席していた。
「おはようございます」
「おはよう」
「護衛が付くのってVIP扱いされて、ちょっとテンション上がっちゃいますよね。あれ太助さんの護衛はレシールさんなんですか?」
レシールがアンナに綺麗に一礼するとアンナが慌てて一礼で返した。アンナは他の人に聞こえない様に小声で鈴木を責めた。
「年頃の女の子に寝食ともに護衛させるなんて、何考えてるんですか!太助さんは変態さんですね」
「それはアンキルに言ってくれ、俺は抗議したんだ」
鈴木が弁明しようとしてもアンナは聞く耳を持たず、朝から不機嫌になってしまい口に一杯食べ物を詰めると鈴木の呼びかけに反応してくれなくなった。
「たまらんぜ、アンキル」
鈴木がアンキルの判断に対して腑に落ちない現状を愁いていると。
「おはようございます」
メドラウトが遅れてやって来た。
「おはよう」
「おはようございまーす」
鈴木には向けてはくれない満面の笑顔でアンナはメドラウトの挨拶を返す。気のせいかもしれないが2オクターブ位上がっている気がする。鈴木はモヤモヤしつつ食事を進める。
「皆様、ご機嫌好う」
昨日と同じくリーゼが最後に食堂に入って来た、がリーゼは食事をせずに王族や重臣に挨拶を済ませると自分の部屋にとんぼ返りしてしまった。
「リーゼ、いつも低血圧ですね。吸血族の亜人は夜の眷属と呼ばれる程ですから、朝は弱いんでしょうか」
アンナの機嫌が戻り鈴木に話しかけてきたので。
「本当だな。もしかしたら吸血族の亜人は皆そうなのかもしれない。あれでも早起きな方だ」
鈴木とアンナは顔を見合わせて笑った。
「勇者殿、今日のコーンスープはどうだ?」
バルバロス王が鈴木に話しかけてきた。
「とても美味しいですよ」
実際に美味しかったので素直に意見を述べるとバルバロス王は満足そうに笑う。
「これは私の畑から獲ったトウモロコシで作ったもので、口に合って嬉しい限りだ」
「バルバロス陛下の畑からですか、それは恐れ多いです」
「遠慮せず食べてくれ、誰も食べなければ腐ってしまう。せっかく育てたのに食べられず捨てられるのだけは我慢ならんのだ。だから食べてくれてありがとう」
ドゴーン
遠くから轟音が響く、その場にいた全員が少しビクッとなった。
「食事くらいゆっくりさせて欲しいものだな、全く魔王軍は優雅さに欠ける」
バルバロス王は口元をナプキンで拭うと、ゆっくり立ち上がる。
「皆の者、我等が獣の亜人に戦争を仕掛けた事を魔王軍に心底後悔させてやろうぞ」
「おおー!」
「バルバロス陛下万歳!」
「一人も生かさず逃しませぬ」
口々にバルバロス王の号令に返事をする家臣団。我先に食堂からどんどん退場して自分が任されている戦場に走り去って行った。
「では私も失礼する、貴方達はゆっくり食事を取られよ」
バルバロス王は城の奥に下がると続いて大臣や参謀が次々と王に続いた。本陣で作戦を練るのだろう。
「音がした方が気になる、行こう」
鈴木が提案するとアンナが頷き、メドラウトが首を振る。
「今日は体調が優れないんです、休ませて貰いますね」
メドラウトの顔色が赤く、発熱しているようだ。
「どうしたんだ?」
「もしかしたら、窓全開で裸で寝たからかもしれません」
「ああそう...」
メドラウトが裸で寝ると言うどうでもいい情報を手に入れた上にそんな事で、と言う気持ちが前のめり気味に出ての一言だった。
「お大事にして下さい」
アンナは優しいと思う、それとも俺が狭量なのか?大事な戦局で裸で寝て風邪になりました、パスしますっていかかなものか。確かに我々は客人扱いだから戦力としては重要視されていない、だからと言って気を抜き過ぎだろうとメドラウトを心の中で叱責しつつ。
「無理はしない方が良い...」
鈴木はなんとか大人の対応を見せた。昨日のリーゼの感じを見ても連れて行けないのでアンナと二人で轟音がした北の城門に駆けつけた。




