等価交換
目を瞑っていたリーゼがゆっくりと目を開くとほぅっと息を吐き深呼吸する。
「何故かわかりませんが、スキルを得たようですわ」
「スキルを?」
リーゼが自分の両手を見つめながら、指を開いたり拳を握ったりして放心しながら獲得したスキルを語り出した。
「レア固有スキル 始祖の祝福、レア固有スキル 反魂を手に入れましたわ」
「固有スキルを手に入れたのか?」
リーゼの発言に黎明の旅人が全員パニック状態になっている中、村長が親指を立てて、いいねもしくはグッドのサインをすると鼻音を発しながら笑顔で家から追い出してきた。何が起こったのか理解出来ぬまま狐につままれるそんな気分で宿屋へ向かった。
「オマエタチナニシニキタ?」
「村長に挨拶をしてきたぞ」
「ウソヨクナイオマエタチムラオサアウナイ」
「ふざけるな!大金積んで挨拶をして来たんだぞ」
鈴木の言葉に怒気が混じる。
「オマエタチドコイタ?」
「教えられた通り村の奥にあった家だ」
「カチクイタカ?」
「家畜小屋にいっぱいいたぞ。分かれ道の大きい家だ」
「カチクゴヤナイタブンソレムラオサノイエ」
宿屋の主人の言葉を聞き黎明の旅人は唖然とした。
「じゃあ、私達が話していた。あのお爺さんは誰なんですか?」
「ムライチバンオオキイイエシャーマンノイエ」
「シャーマン!?」
「シャーマンハムラオサチガウムラオサにケイイハラエ」
宿屋の主人は両腕を組みそっぽを向いて、宿の奥に引きこもってしまった。海外で言葉が通じず適当に頷いていたら高級料理が出て来て途方に暮れる新人バックパッカーの気分をなぞりながら、折れた心持ちで村長宅へ向かうのであった。日が暮れて地平線に太陽が沈もうとした時に村長宅に着いた。
「夜分にすいません」
「アナタタチハ?」
「冒険者をしております、この村に宿泊したいのですが村長にご挨拶をしに参りました」
「ソレハテイネイニトモヨキガスムマデタイザイシテクレ」
村長は一人一人ハグをすると鳥の羽を髪に刺して歓迎してくれた。
「ハネハカンゲイノシルシハズサナイイイネ」
村長の忠告を聞いて羽を大事に取り扱う、村長に感謝を伝え一礼すると今度こそ泊まる為、足取りも軽く早歩きで宿屋を目指した。宿屋に到着し主人に話かけると部屋の案内と料金の説明を受けた。
「イッパクスドマリドウカ10枚、バンゴハンツキドウカ15マイ。トクベツナヘヤハギンカ5枚バンゴハンツキ」
「特別な部屋って何が特別なんです?」
アンナが宿屋の主人に問いかけると宿屋の主人は首をクイッと曲げると付いて来るようにジェスチャーした。特別な部屋に到着し扉を開けると中から冷んやりした風が漏れてきた。鈴木はエアコンが付いていると思いテンションが爆上げした、部屋の中を見回してもエアコンは付いていなかった。
「カゼトミズノセイレイガイルスズシイ」
どうやらこの部屋には風と水の属性付与が施されており、暑いお国柄でも快適に過ごせる仕様だ。涼しい風がふくらはぎ辺りを掠め火照った足を冷やしてくれる。鈴木自身汗でベタベタだがリーゼとアンナも汗で服の薄い所は肌の色が透けていた。鈴木は迷わず。
「特別な部屋をお願いします」
「ちょっと太助さん、さっき白金貨の出費をしてるんですよ。旅費を抑えましょう」
アンナが反対する。
「いえいえ、ここは太助の提案を受け入れましょう」
リーゼが賛成した事により多数決で特別の部屋になった。
「特別な部屋三部屋お願いします」
「トクベツナヘヤフタツ、サンナイ」
どうやら特別仕様の部屋は三部屋無いようだ、鈴木はアンナとリーゼに提案する。
「2人は特別な部屋に泊まってくれ、俺は普通の部屋に泊まる」
「それなら太助さんと私が同じ部屋に泊まれば良いじゃないですか。前だって同衾しましたし」
「あら気づきませんでしたわ、お二人はそういうご関係でしたの?」
「アンナは誤解されるような事を言わない」
鈴木が慌てていると。
「オマエタチフウフカ?」
「夫婦じゃない!」
鈴木が力強く否定するが、アンナが悪ノリする。
「そんな、私とは遊びだったんですか?」
「フウフチガウオナジヘヤトマレナイムラノオキテ」
宿屋の主人が怪訝な顔で睨みつける。
「全くお二人に任せていると話しが進みませんわ、アンナさんと私とで同室すればよろしいのではなくって?」
リーゼが解決策を提案すると気づかなかったと言う顔で鈴木とアンナはリーゼを指差した。
「メシハヘヤニモッテイクマテロ」
宿屋の主人は部屋の鍵を鈴木、リーゼに渡すとフロントへ戻って行った。
「今日は疲れましたわ、お先に失礼します」
ヘトヘトな顔をしたリーゼは鍵でドアを開けると荷物袋を担いで部屋に入った。
「また明日」
アンナがリーゼに続いて部屋に入った。鈴木も疲れた身体に最後の力を振り絞って部屋に入ると涼しい室温に癒される、夏場のエアコンは最高だ!だがエアコンよりも自然な感じで快適なような気がする。一息つくと荷物を置いてフロントに向かう、宿屋の主人は暇そうにアクビをしながら立って来客を待っていた。
「すまないが風呂はあるか?」
宿屋の主人は肉眼で薄っすら光る小さな明かりを指差した。
「シンタクシャサマノイエノシタニオンセンアル」
「ありがとう」
「イマノジカンムラビトハイラナイツカレイヤセ」
鈴木は一礼すると体を拭く布を持って真っ暗な道を神託者の家の灯りを目印に温泉を目指す。信託者の家に着き階段で下の温泉に到着すると硫黄の匂いと温泉の湯気が立ち上り、空に浮かぶ月が湯面に映り日本人の心をくすぐる。鈴木は堪らず汗臭くなった服を慌てて脱ぐと近くにあった桶で汗を流し温泉に浸かった。
「日本酒なんかあったら最高だろうなー」




