儀式
宿屋の中に入るとリーゼと宿屋の主人が言い争いをしていた。耳を傾けて聞いているとどうやら我々は泊まれないらしい。
「どうしてですの?」
「オマエタチムラオサニケイイヲハラッテイナイダカラココトマラナイ」
「村長は何処にいますの?行って話をして参りますわ」
「ムラオサムラノオクイル」
宿屋の主人の片言をなんとか聞きとり、村長に挨拶をしに黎明の旅人は村の奥に進む。村の奥の別れ道から小屋が二つ見えた。一つは小さい小屋に家畜が沢山放し飼いされている、もう一つの建物は大きく立派な佇まいだった。
「村長って言うくらいだから良い家に住んでるものだな」
鈴木は大きい家を指差しパーティーメンバーを誘導した。家に着くと鈴木は中にいる人物に声をかけて中に入った。中は香が焚かれていて甘ったるい匂いに香から立ち昇る煙が充満し距離感を狂わせる。奥から1人派手な柄の服にサングラスの様な眼鏡をかけた見るからに怪しい風貌の男性が現れた。
「あの、ご挨拶に参りました」
「ン!ンー」
唸り声の様な鼻音とジェスチャーで指示を出してくる、多分座れと行っているようだ。村長はその後も微調整を繰り返しながら黎明の旅人の三人を指定した場所に配置すると満足そうに無言で何度か頷いた。
「なんだこれは?」
「この村のしきたりか何かですかね?」
「早く休みたいのに、これは何の冗談ですの」
三人が口々に現状に文句を言っているとさっきまで無愛想だった村長がにっこりと笑うと。
「マニーマニー」
村長が人差し指と中指と親指を擦り合わせながらお金を請求してくる。
「これは賄賂を払えって事でいいのかな?」
「まぁ袖の下は全世界共通の有効な手段ですからね」
「お幾ら位お渡しすれば、よろしいのかしら」
三人が相談していると。
「マニーキンカ100マイ。オーケー?」
スッゴイ笑顔で村長は先程と同じジェスチャーで賄賂を請求してくる。
「白金貨一枚は業突く張りですわ」
「流石にボッタクリを通り越して引きますねー」
「村に入るだけで金貨100枚は法外過ぎる、旅人をカモに見ているならやめてくれ」
鈴木が村長に抗議をするが、村長はリーゼを指差し。
「マニーキンカ100マイ、ディスカウントノーネ」
村長に納める金貨について一度話し合いをする為、黎明の旅人は村長宅を一旦退出した。
「今日は野宿しましょう!金貨100枚は有り得ないですよ。馬鹿にし過ぎです」
アンナが口火を切った。アンナの意見にリーゼは仕方ないと同意した。
「地方の宿屋の相場は1人銀貨一枚、三人で割っても相場の3333倍は払いたくありませんわ。宿屋に泊まりたいですが選択の余地などありません。夜になれば薄暮の覇王のスキルも発動しますし、見張りは私にお任せ下さい」
リーゼは疲労困憊の顔で提案した、疲れているに決まっている。スキルが発動していない状態で何時間も大戦斧を背負っての行軍は堪えるに決まっている。
「リーゼロッテさんだけに無理はさせません!私も見張りします」
アンナがリーゼの手を握り、顔を近づけて力説する。本当は不眠不休のスキルを持つ自分が見張りを買って出るのが妥当だが、彼女達は納得しないだろう。アンナ曰くこの村付近には魔王やドラゴンの目撃例も少なくないようで、こんな状態で徹夜をし明日のアポロンに続く山岳部への進行は自殺行為である。またリーゼの道中の会話に出てきたオーガも気になる、鈴木は悩んだ末に2人に提案をした。
「今後の旅のお金はなんとかするから、今日はここに泊まろう」
「正気ですの?」
「太助さん、金貨100枚ですよ。銅貨じゃないんです、大金も大金です。あり得ません!」
「俺には回復魔法がある、いざとなれば道端で路銀稼ぎでもするさ」
鈴木の覚悟にリーゼが一息溜息を吐くと。
「まだキングサイクロプスギガント戦の白金貨が残ってますの」
リーゼがサイフ袋から白金貨を取り出すと苦笑いをする。三人はこのあり得ない不条理に鉛の様に重くなる足を引きずりながらもう一度村長の家に入った。
「ン」
村長は先程座らせた場所に三人を寸分違わず座らせると賄賂を要求した。リーゼが白金貨を渡すと。
「ビューティフルネ」
そう言って家の奥に去って行った。しばらく三人はその場に留まったがどうしたらいいか戸惑っていると、先程まで怪しさ全開の村長が身なりを整え儀式用の装いになって出てきた。
「ギシキヲハジメル、シズカニ。リラックスネ」
村長は唇に指を当て静かにするように指示した。村長は言葉にならない言語を唱える、どうやら儀式を行なっているような素振りだ。淀んだ空気のせいか香の煙りが固まりハデスで見たようなゴーストがウヨウヨと現れた。だがハデスのゴーストとの違いは悪意や敵意が無い事、彼らはとても優しいオーラを纏いゆっくりと黎明の旅人の周りを漂っては消え漂っては消えて行った。幻想的な儀式の中、鈴木はふとリーゼを見るとリーゼの前に大きな煙りの塊が出来ていた。
「この方は...」
リーゼが驚き自分の口を手で覆い塞ぐ。香の煙りから現れたゴーストはリーゼの頬を撫でるとゆっくりと煙りに戻りリーゼを優しく包み込む、一瞬光ると周りのゴーストは雲散霧消して部屋の香から出る煙りは全て消え部屋の空気は匂いもクリアになっていた。
「あれは一体何だったんだ?」




