第24話 3人旅
『ん~~ 今日もよく寝た』
周りを見ると、やはりロックはまだ寝ていた。この町もしばらくお別れだ、あっ そーだ親方に挨拶しとかないとなロックの件もあるし。
『おーい、ロック起きろ~ パチンパチン』
『んが、いて、痛いです』
『おはよ、ロック』
『おはようございますクオンさん』
『やっぱり頬っぺた引っ張る方が良いかも・・・』
『あはは ちょっと急ごうか、ロックも旅に出る前に親方に挨拶したいだろ?』
『はい、勿論です行きます』
『コンッコンッ 起きてる~って、やっぱり開いてる』
『も~ 鍵しなさいよね』
『おはよミュウ、丁度よかった、ちょっと急いで親方に挨拶してから行こうか』
『ええそーね、それじゃ朝食行きましょ』
俺達はいつものんびり仕度するが、急いで朝食を取り親方の元へ向かう、こんな朝だが<鍛冶師>の音が聞こえる、良かった居るみたいだ。
『親方~ 親方~ 』
『ん、誰だ?坊主か』
『親方、しばらく此処を離れて旅に行ってきます』
『おお、そうか遂に行くか、元気でな』
『親方、俺達もまた遊びに来るよ』
『おう、お前達も達者でな』
『そうだ、坊主ちょっと待ってろ』
親方は店の奥でなにやらゴソゴソと探している。
『あったあった、ほら坊主これ持っていきな』
『えっ これって親方の大事にしてたハンマーじゃないですか』
『おう、くれてやる早くそのハンマーが似合う<鍛冶師>に成れよ』
『グスッ ウッ ウッウッお 親方~』
『泣くんじゃねー ガハハ』
『お前達には、これをやる持っていきな』
『ん 俺達にも、これは?』
俺に石の塊を3個くれる。
『仕入れたばかりで、まだ中身は見てねーが何かの原石だ!お前達で分けろ』
『俺達にもう借りは無いはずですが?』
『ガハハ 只の餞別だ、気にするな』
『んふふ 親方ありがとう大事に使うわ』
『ありがとう、親方また何か依頼しにくるよ』
『ああ、また来い』
俺達は丁寧にお辞儀をし親方に別れを告げる。気持ちの良い別れだ。
『良かったなロック、しかし良い人だな』
『はい、グスッ』
『今度、此処へ来るときは、親方に何かお土産買ってこないとね♪』
『あっ そーだクオン君、護衛の依頼主に、ちゃんとパーティ名とリーダーですって言わないとだよ』
『あー そういうもんなのかな?』
『そだよ、依頼主も誰がリーダーなのか、分からないようなパーティは嫌がると思うわ』
『それに私はともかく、二人とも若く見えるから不安がらせちゃダメよ』
俺とロックは二人で顔を見合わす・・・
『まあ、否定は出来ないな・・・』
ミュウの忠告?を受け、歩いているとギルドが見えてくる、どうやら依頼主も来ているようだ。
『すみません、お待たせしました』
『おはようございます、クオン君、こちらが依頼主よ』
そこには話に聞いていた通り30代後半ぐらいの、どこからみても商人に見える風貌の男性がいた。
『おはようございます、俺達が今回護衛致しますパーティ「サークル」のリーダー<クオン>です。よろしくお願い致します』
『なんと、お若いのに、礼儀正しい挨拶を、申し遅れました私は旅をしながら商人をやっております、<クロワ>と言います。以後お見知りおきを』
『うふふ クロワさん、若く見えるかもしれませんが「サークル」の実力はギルドが保証しますわ』
ミュウのお陰で恥を掻かずにすんだ、また若輩の俺達に丁寧な挨拶をしてくれるクロワさんも感じの良い方だ。
『シグナさんのお墨付きとは、お若いのに大したもんだ』
そういえば、何度かお世話になっているのに名前を聞いてなかった、いつも担当してくれていた受付嬢の方はシグナさんと言うのか。
『シグナさんには、いつもお世話になっているので、お世辞ですよ』
『ふふふ 謙虚なのも良いですな、旅には小さい馬車ですがお乗りください』
『ありがとうございます、精一杯護衛させていただきます』
俺達は荷車と荷物を馬車へ積込み、シグナさんにお礼を言って旅へと向かう。御者もクロワさんがやるようだ。
『今回は若輩の私達を選んで頂き、ありがとうございます』
『いやこちらこそ安い報酬で引き受けてくれて、とても助かります』
『アラバスで活動なさっているのですか?』
『いえ私達も旅をしながら冒険者をしています、仲間も探していますし今回の護衛は私達にとっても丁度よかったんですよ』
『なるほど<エンゲルラント>は奴隷商もあるので、良い面子にも巡り合えるかもしれませんな』
『奴隷商ですか?』
『おや、御存知ありませんでしたかな奴隷商には犯罪まがいのところもありますが<エンゲルラント>では借金奴隷や身寄りがなく生きていけないような者の救済として、営んでおりますので信用できますぞ』
『ほほ~ なにぶん田舎から来たもので奴隷商に面識がなくて』
『クロワさんは、いつも何を扱って商売をなさっているのかしら?』
『これはお嬢さん、なんと御美しい、とても冒険者には見えませんな』
『えっ 嫌だわ美しいだなんて、私は普通の冒険者ですわ』
『ちなみに私はいつも同じ商品ではなく、転売で儲けの出るものや、値が上がりそうな物を見極めて、商売をしております、見ての通りあまり商品を積めませんでな』
『それに一人でやっておりますゆえ、商品を積みすぎて何かあると損害が大きくなりますので』
『そうだクロワさん、このポーションとか、どれぐらいの値段になるのでしょうか?』
『ほほう、回復ポーションですな、私なら銀貨3枚で買い取ります』
『凄いですね、見ただけで分かるんですか?』
『ふふふ、回復ポーション効果【小】でしょう、色合いで分かりますよ』
『それでは、こちらのポーションではどうですか?』
『ほほう、回復ポーション効果【中】ですか、私なら金貨1枚で買い取りますよ』
『しかし、冒険者の必需品ですからな、お売りにはならないでしょう?』
『これは、私達が趣味で作ったポーションなんですよ』
『ハハハ 御冗談を』
あれ、そんなに変なこと言ったかな?まあポーション作りぐらいなら話しても良いしな。
『なんなら作って見せましょうか?』
『な なんですと本気ですか、と言うか本当なんですか?』
『実は、ちょっと作りすぎて<エンゲルラント>で売ろうかと思ったんですが、クロワさんに聞いてみようと思いまして』
『し しかし少し見ただけとは言え、とても冒険者の方が趣味で作ったような品質ではないですぞ』
『そんなに褒められると、嬉しいですね』
『休憩の時にでも、お見せしますよクロワさん』
俺達は順調に街道を進み、初めての休憩を取る。
『ロック椅子を作ってくれ』
『はい、<アースメイク>!!!』
『クロワさん、どうぞお掛け下さい』
『ミュウはお茶の用意を』
『は~い、<プチウォーター><プチファイア>』
『少し、お待ち下さい』
『な なんと』
クロワさんにロックが作った椅子に腰かけて貰い、ポーションを作り始める。
『では見てて下さいね』
『<プチウォーター> えっと薬草薬草っと<プチファイア>』
『よし 出来ましたよ』
俺は出来たばかりのポーションをクロワさんに手渡す。ん クロワさんはポカンと口を開けたまま動かない。
『クロワさん?』
『はっ し 失礼。み 皆さん魔法使いでしたか』
『いえ、俺とロックは主に前衛ですね』
『し しかし、この椅子の完成度、土なのにザラ付きもない、これだけ魔法が使えて前衛ですと?』
『しかも、このポーションよく見れば効果【中】しかも【高】に届きそうなぐらいの出来栄えだ』
『作成スピードも尋常じゃない、何者ですか?あなた達は』
『まあ、お茶でもどうぞクロワさん♪』
『ああ、申し訳ない』
『内のパーティでは全員魔法も使うんですよ、魔法使いと呼べるのはミュウだけですね。ミュウも中・遠距離タイプなだけですが』
『ハハハ これは驚きましたな、イヤイヤ私も人を見る目がまだまだですな、先ほどのポーションの値段訂正させて頂きたい!私なら【小】で銀貨5枚、【中】で金貨2枚で買い取ります』
俺達は驚くクロワさんに先ほどの値段で良いので、皆の<錬金術>の練習で作ったポーションを譲ると伝え遠慮されたが、正直作りすぎて邪魔だったので、引き取って貰えるよう了承を得た。
休憩も終わり、また<エンゲルラント>へ向けて馬車が走り出す。順調に街道を進み、もうすぐ昼食の時間に差し掛かるころ前方で異変が起きる。
『『『ピクッ!!!』』』
『む 前方で誰かが、魔物に襲われているようですな』
俺達は既に武器を構え、戦闘態勢になっていた。
『はい、少しお待ち頂けますか?助けに行ってきます』
『待って下さい。どうやらウェアウルフの群れです、しかも数が多い非情ですが逃げましょう』
『クロワさん、俺達なら大丈夫です。信用してください直ぐ帰ってきますよ、後この馬車に壁を作りますから動かないで下さいね』
『わ 分かりました、しかし十分お気をつけて』
『ありがとうクロワさん』
『ミュウ!』
『分かってるわ<エアウォール>!!!』
俺達は馬車を飛び下り、ウェアウルフに向かって走り出す。クロワさんの馬車はミュウの<エアウォール>で囲っておいた。これで襲われても大丈夫だろう。
『数が多いな、分断して各個撃破しよう』
『『了解!!!』』
俺はまず襲われている馬車からウェアウルフを分断するため<エアウォール>を張る。
『<エアウォール>!!! よし馬車はこれで大丈夫だ』
『了解!半分に分けますね <エアウォール>!!!』
ロックの<エアウォール>で数十匹いるウェアウルフが分断される。
『じゃ私は逃がさないように後ろを塞ぐわ<エアウォール>!!!』
少し離れたところから見ると、なんとあの3人がウェアウルフを蹂躙している。まずリーダーのクオン殿、なんと見事な黒刀その戦闘は正に演武!美しくすら見える。面白いようにウェアウルフの首が飛ぶ。
そしてあれはミュウ殿か、流れるようなムチ裁き!まるで観客の前で踊る舞のように見えるのに、なんたる破壊力あれは本当にムチなのか?
最後に、ロック殿なんという凶悪な武器!あの重そうな両手槌を軽々と振るい凶悪なウェアウルフが子犬のように吹き飛ばされていく、独楽のような動きは踊りにすら見える。
それに、これは最初に3人が掛けたであろう魔法、空気の壁か私の周りにも掛けてある見えない壁!いったいあの者達は何者なのだ。