先生、女は愛嬌・男は度胸って言いながら、女性専用車両に乗ってこの言葉の真意を確かめてきます。
――――――――――――――――――― ninth accident ――――――
デデニーランドデートから1週間後
先日の1件以降、微妙な雰囲気になってしまった僕と東条の関係。
瑠衣「どうせ東条さんに、告白でもして振られたんでしょう。」
能天気な瑠衣は、そんなことを言ってくるが。
実のところは励まそうとして話しかけてくれている。
それがまた心に刺さる。
しかし、そんなことは言ってられなかった。
もうすぐ全クラス合同のレクリエーションが行われるからだ。
我が校では、同学年の親睦を深めることを、
目的とした合同レクリエーションが5月中旬にある。
1~4組のクラス、約120人をシャッフルして、
1チーム30人の4つのチームを作り、クラスの垣根を無くした、合同イベントをやろう!
みたいなイベントだ。
僕が所属することになったチームでは、オリジナル動画作品を発表することになった。
まあ、オリジナル動画作品という名の、映画もどき?の様な感じかな。
チームリーダーには、一応生徒を据えるが。実のところ担任が指揮をとっている。
板垣「チームリーダーの板垣です。
私たちは30人で動画作品を作ることになりました。
そこで、各担当者分けを行いたいと思います。」
眼鏡を掛けたいかにもな生徒、板垣勝が、
黒板の前に立ち、今後の方向性を話し始める。
坂下「よっ六月。一緒のチームじゃん。よろしくな。」
後ろの席から馴れ馴れしく声を掛けてくるこの男子は、
坂下智明。高校からの編入組で、
陸上バカなスポーツマンだったところに、僕がアニヲタ洗礼を加えた。
所謂リア充とアニヲタのハイブリッド型だ。
六月「なんだ坂下もこのチームだったんだ。こちらこそよろしく。」
ちなみにこの坂下は、瑠衣のファンで5回も告白してる鋼メンタル戦士でもある。
坂下「それで六月の旦那は、何に立候補するつもりなんだい?」
以前、高校1年の際にも、合同レクリエーションで演劇をやっている坂下は、
今回の抑えるべきポイントも分かっているようだ。
こういった催し物には、当たりと外れが存在する。
担当分けの構成は、監督・原稿班・キャスト班・衣装班・撮影班・編集班
、実際に公開する際の受付や広告を行う営業班の計7つだ。
そして今回の話し合いではどこの班に所属するのかと、班内の役割を決める。
六月「僕はまだ決めてないけど、裏方やりたいな。
楽そうだしさ。坂下は?」
坂下「俺は撮影作品の種類によるかな。女の子と、
キャッキャウフフ出来そうな作品ならキャスト班に回りてえ!」
今どきキャッキャウフフって古い気がするけど、なるほど。
欲望に従順なタイプの模範解答だな。
坂下「ハッ!そういえば旦那。吉川さんは!吉川さんは居ないのか!」
女好きなのか、一途なのか謎な奴である。
六月「瑠衣なら、別のチームだと思うよ。同じチームなら、話掛けてくるから
分かるし」
坂下「ぐあああー!!!その余裕!やっぱり幼馴染は違うなあ!
違いますねえ!
ところで今期のあれ見たか?グラフィックが凄いのなんのってよ!」
六月「む、その話詳しく」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
六月「なるほどな。。。それは見る価値ありだ!」
坂下「だろう?」
板垣「ストーリーは現代版の映像で見る白雪姫で決まりで良いですね。
残りは監督と、キャスト班・編集班です。
まだ所属が決まっていない人は、前に集まって下さい。」
!?いつの間にか裏方が編集班のみだと!坂下責任はお前にある!
あと現代版の白雪姫って、文字で見ても全くイメージ湧かないんですが。
残っているメンバーが前の席に集まってくる。
その中に見覚えのある顔が2つあった。
僕が中学生時代良い感じになったが、
結局付きあうことはなかった本吉沙良と、
東条・・・
同じチームだったのか。
東条はこちらをチラッと確認するとすぐに顔を前に向け席に着いた。
気、気まずい…
東条だけならまだしも本吉まで、、
本吉沙良
身長は160cm前後、昔からロングの髪型以外は見たことがない。
顔は平均的だが、いつもニコニコしている愛嬌のある女子なので、
男子人気も高い。
そんな本吉さんが、僕に話しかけてくる。
本吉「六月君、久しぶり高校に入ってから全然話さなくなったから。
なんか新鮮だね。」
六月「久しぶりだね。」
まずい・・・ボキャブラリー貧弱症候群の僕には、
久しぶりにあった女子と上手いこと話すスキルは存在しないんだが!
僕と本吉さんが話しているのを、横目で見ている東条の目がいつもより
怖い気がするのは気のせいだと信じたい。
坂下「さあさあ!お集りの皆さま!とっとと争奪戦に移りやしょうか!」
なぜお前が仕切るんだ。あと争奪戦ってなんだ。
東条「まずは監督から決めましょう。一番決まり難いと思うわ。」
残り組が話していると、先生が何やら板垣に吹き込む。
板垣「残りのメンバーは、投票制にしたいと思います!」
えーーーーー?!!!!なんでそうなった!????
既に配属が決まっているチームメンバーたちは、
新しい玩具を見つけた子供の様に盛り上がっている。
東条「待ってください!最初と最後で決定の仕方を変えるのは公平性が」
とか言っている東条の意見は、部屋の騒音に掻き消された。
板垣「ではまず監督から決めたいと思います!」
僕と東条・坂下・本吉以外のモブ男子も、
この状況から逃れられないのを覚悟したのか大人しい。
板垣「私は学年成績上位の東條さんを監督として、推薦します。
彼女なら全体のイメージをまとめていく力を発揮してくれると思います。
賛成の方は挙手をお願いします!」
この意見にチームの学生たちほとんどが挙手をし、
困惑すると同時に、少し誇らしげな東条様。
東条「そ、そんなに言うのなら仕方ないわね。引き受けましょう。」
おー!歓声が上がる。 なんだこれ
板垣「監督は決まりましたね。残すはキャストと編集です。
皆さんから意見がありましたら、それも参考にします。」
まずい、天国と地獄だ。キャストなんて生き恥を晒すような役だけは、
何としても、回避せねばならない!
「人無君が良いと思いまーす」
教室の後ろの方から、他人事だと思ってテキトーな意見があがる。
「ああ、そうそう。顔は良いし。画になるんじゃないですか?」
「そうなると王子様役は決定したね。」
勝手に決定するな。本人の意思を尊重して・・・
板垣「・・・皆さんが賛成なら、人無君で決定しますが。。。」
なんだよ、僕がやるんじゃ不服かよ板垣氏。
板垣「では、続いて最後の1枠のヒロイン役としてキャスト班を募集しましょう。」
ガタッ
唐突に東条が物凄い勢いで席を立った。
板垣「どうかしましたか東条さん?」
我に返ったのか、自分でも自分の行動に驚いている様子
東条「な、なんでもありません。」
気恥ずかしそうに席に座ると、顔を伏せる。
どうしたんだろう東条。
板垣「残りの女子となると、本吉さん。お願い出来ますか?」
本吉はこちらは見ると、にっこりしながら返事をする。
本吉「私なんかでヒロインが務まるとは思いませんが。
頑張って演じてみます。」
板垣「ありがとうございます。では残りの2人は編集班をお願い出来ますか?」
そう言って、坂下とモブ男子を見る。
坂下は今回の作品が彼の言うところのキャッキャウフフが、
可能そうな作品であったが為に、少し残念な表情を見せていた。
板垣「配属が全員決まりました。今回の話し合いはこれで終わりとなります。
次回までに各自、担当の仕事を進めておいて下さい。」
板垣が締めくくると蜘蛛の子を散らすように、自分たちのクラスへと帰っていく
チームメンバー。
その様子を、傷心の坂下と共に見ているとこちらに近づいてくる女子生徒が居た。
本吉「頑張ろうね六月君!あと坂下君も」
両手をグーにして笑顔で言ってくる本吉を見ていると、
本当に男子というものはちょろいと感じるしかなかった。
坂下「よろしくね本吉さん!俺、本吉さんのこと綺麗に編集するからさ!」
本吉「え?う、うん。ありがと」
坂下よ、フォトショップなんかで芸能人が騒がれている昨今においては、
今の発言は危うい印象を与えると思うぞ。
青春は加速する。 つづく