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75「大地の輝き-5」



「ツインブレイク!」


戦闘の口火を切ったのは俺の片手剣スキルだった。


10メートル以上はあった間合いをすばやく詰め、

俺と同じような大きさの人影へと先手を取るべく切りかかったのだった。


突撃前に持ち変えていたスカーレットホーンが赤い残像を残して人影に迫る。


体と同じ紫色の石で出来た棒のようなものを構えた人影に、

相応の威力を持ってスキルの結果が迫る……はずだった。


「っ!?」


手ごたえと呼ぶのもおかしな軽い感触と共に二連撃は人影の持った棒と、

その右手にあたる部分を切り落とすというよりも砕いた。


破片は大きなものは野球のボールほど、小さなものはビー玉ぐらいだろうか。


当然のことながら、受け止めるか何かして勢いが殺されると考えていた俺の予想は裏切られ、

勢いそのままに前転をするかのように人影の脇を通り抜けることになる。


「まさかっ!」


慌てて姿勢を取り戻した俺の視界に、コンビとなって姉妹と戦う人影2つを背景に、

人間であれば重傷であろう姿の人影が何事も無かったかのように立ち続け、そして震えた。


細かな残骸というべき破片が床へと転がり、音を立てる。


それが何かの音楽のようにも聞こえ、俺は嫌な予感と共に人影をにらむ。


俺の目には人影を覆う魔力とも言うべき流れがその光の濃さを増したのがわかりやすく写り、

欠損した箇所に集まり、そしてその場所を修復した。


俺の視線の先で、何かあったのか?といわんばかりに

頭に相当するであろう箇所を揺らした影は剣らしきものを構え直す。


その数、2本。


「ん? うぉぉぉお!?」


先ほどまでのどこか鈍重な動きとは180度異なった速度で人影は剣を振るい、

俺は慌てながらもスカーレットホーンを器用に使いながら左、右、と攻撃をさばく。


重さすら変化しているのか、一撃一撃が妙に重く、

俺はじりじりと後退を余儀なくされる。


スカーレットホーンと相手の剣がかみ合うたびに相手は砕け、

その破片が周囲に飛び散るがあまり意味は無い。


『相手は特別な魔石で出来ているからね。単純な力押しでは無理だよ』


どこからかドロウプニルの声が聞こえ、そして消える。


そちらに気をとられていた一瞬を相手が見逃すことは無く、

上段からの力いっぱいという勢いの振り下ろしが二本同時に迫る。


「こんのっ!」


俺も負けじとスカーレットホーンを遠投でもするかのように勢い良く、

右手前から左上へと振りぬき、相手の二本へと正面からぶつけた。


攻撃をそらすつもりの行為ではあったが、それは予定以上の成果を生む。


最初のころと比べると明らかに丈夫になっている相手の剣は鈍い音を立てて半ばから折れ、

再び周囲の床へと破片が飛び散ることになったのだ。


「ふー……まだこれからって感じだな」


間合いをじわりとつめてくる相手─既に修復しかかっている─を見ながらつぶやく。


(何か、このままだとジリ貧のような気がするな)


俺はなんとなく、そんな予感に襲われていた。


と、考え事がよくなかったのか、俺は足元の破片にぶつかってしまう。


崩れた姿勢の中、破れかぶれに蹴り飛ばした破片が相手に迫り……なぜかわざわざ相手は回避した。


カラン、とキャニー達の戦いの音の合間に、その破片が落ちた音は妙に響いた気がした。


ひらめいた俺のそこからの行動は我ながらすばやかったと思う。


ダッシュで近くにあった大き目の破片を手に取り、間合いを取りながらウィンドウを呼び出す。


─マイス・アメジストの破片


ちらりとその情報に目をやったところで背後から空気を切り裂く音。


とっさに右に回避すると、床を壊すような勢いで復活した人影の剣が振り下ろされた。


「さて、試してみようか。武器生成A!!(クリエイトウェポン)


その声はどこか、遠くまで響いた気がした。


思えば、属性攻撃を行う相手の素材からはその属性のアイテムが作れるし、

その素材とは鱗であったり皮であったりと、相手そのものだ。


ゲームでは戦闘後、つまりは討伐したときに手に入るのがドロップアイテムであり、

それは常識だ。


もっとも、この世界においても素材を手に入れるために剥ぐ、切り取るといった作業は

戦闘後に行うことになる。


だが、それは戦闘中に入手できない理由にはならない。


戦闘後に入手することになる理由は戦闘しながらの回収が困難だからであり、

出来ないから、ではないのだ。


「どうした? 来ないなら行くぞ?」


感情など無く、恐怖だって無いであろう相手が、ひるんだ気がした。


俺の突きつけている武器、紫色の刀身に相手の姿が反射する。





後で聞いた話だが、そのころ二人は苦戦していた。


人間としての急所に当たればいくらか動きが緩むものの、

それも一時的なものですぐさま元に戻るのだという。


そこは俺の相手と同じだった。


あくまでも同じタイプの相手が2体であって、実際に

キャニーとミリーのように連携が出来ているわけではないのが幸いしたようで、

危ないシーンは少なかったが自分たちの体力が心配だったようだ。


と、そこに響いた俺の声。


見れば光るのは相手の破片。


試しにと投げつけた破片がぶつかった場所は、

下手に切りつけるよりも壊れ、さらにどうも修復しない。


後は2人で協力して床に散らばる破片を拾っては投げ、拾っては投げる。


2体が崩れ落ちたとき、俺が斜めに相手を砕いているところだったという。









「これで、終わりか?」


俺は手にしたままの剣と呼ぶのも微妙な姿の武器、

─マジックイーター─のカウントが残り少ないのを見て内心あせっていた。


どうも普通の素材と違い、フィールドの物と同じ扱いのようで、

破片から作ったこの剣にはカウントが表示されていたのだ。


性能としては魔力の流れを断ち切るというものだった。


魔法生物を切ればその部分の魔力の流れが断ち切られ、

魔法そのものに振るえばうまくすれば魔法だって切り裂ける。


その代償として大きく自身の魔力を奪うことがわかった。


その消耗はスカーレットホーンの比ではない。


かなり減った自身の魔力の残りを確認しながら、俺は相手をにらむ。


大きく2つに分断され、崩れ落ちた状態の瓦礫のような山が

さらに崩れ、砂のようになったのを見、ようやく大きく息を吐くことができた。


ほぼ同時に手の中から消える紫の剣。


視線の先では砂の山の中に残るソフトボールほどの紫色の玉。


通常であれば魔法生物の核と判断して砕くところだが、どうも違う様子なのでそのまま手にとって見る。


唐突に、ファンファーレが響いた。


その音は妙に懐かしい。


それもそのはずで、MDにおける各種クエストを達成したときに鳴るものだったからだ。


『おめでとう、というところか。

 まあ、本来は多人数で同時に挑む決戦クエストのようなものだ。

 この人数と編成ではこうもなるか』


一瞬の浮遊感の後、俺の前に現れたのはドロウプニル。


その瞳にはどこか喜びが見えた気がした。


『仕方ないじゃない。もう、プレイヤーはいないんだもの』


横に現れるユーミ。


その姿は人間サイズになっていた。


慌てて振り返るが、キャニーたちはいない。


『案ずるな。彼女らは別の場所で私の分身から報酬を受け取っていることだろう』


……嘘は言っていないようだった。


俺は何故だかそのとき、そう感じたのだった。


『さて、ファクトよ。報酬の説明を行おう。本来であればここはギルド間で

 先に到達することを争うような場となっている。

 そのため、報酬も相応となっているわけだな。だが、今は事情が違う。

 ゆえにこうなっている』


ドロウプニルが手を振ると同時に、直接俺の頭の中に情報が入ってくる。


ひとつ。一日に一度、アイテムボックスの中で魔石扱いの素材がランダムに増える。


ひとつ。メニューから専用の場所に収めた素材が9日に一度、複製される場合がある。

ただし、ランクの高い素材ほど複製に失敗する。


ひとつ。魔石を使った装備群の作成が一部解禁される。


情報は物理的な衝撃を伴うかのように俺の中をめぐり、

揺らぐ視界の中で虚空に浮いたメニューに枠が増え、

作成メニューに新しいタブが増えるのがわかった。


「……難易度の割には豪勢と思えば良いのか?」


『何、こちらの暇つぶしにはなろうよ』


そういうドロウプニルは自虐的な笑みを浮かべ、

元のように凛とした佇まいに戻る。


『これでここで行われるクエストは一段落となる。

 人の子よ。黒の王を目指すのであれば国を巡り、

 人を絡ませ、流れとするがいい。人の王国がまとまること。

 それが次の流れを産む』


ドロウプニルの言葉がMDとしても用意されていたものなのか、

この世界で精霊となった存在の言葉なのか、それはわからない。


だが、俺の行く先が固まってきたのは確かなようだった。


『眠るの?』


『ああ、祖の者よ。既に我以外の者も世界に還っている。自分だけ孤独に残るのもよくなかろうさ』


もっとも、枷が取れるだけなのでどこかでまた会えるだろうがな、と

ドロウプニルはつぶやき、消えていった。


「なあ、ユーミ。アップデートが尽きれば世界は停滞するのか?」


『いいえ、そんなことはない。あくまで私たちは流れの元だっただけ。

 後はこの世界自らが流れていくわ。だから、好きにして良いのよ』


彼が消えた後を見つめながらの俺の問いかけに、

ユーミはどこまでもやさしく、答えてくれたのだった。


どこか心地よい浮遊感と共に、俺の視界は揺らぎ、転送されるのがわかった。





次に気がついたのは見た目は先ほどまでと同じ場所。


だが違うのはキャニーとミリーがいることと、

壁にあった灯りの色が変わり、どこか停滞した雰囲気を持っていることだった。


「終わったの、ね?」


「そういうことだな。何かもらったか?」


恐る恐るというキャニーに俺が答えると、横合いからミリーが手に持った何かを見せてくる。


「えっとねー、この短剣と、指輪と、後は金貨がたくさんかな。欲に飲まれるべからず、だってさ」


2人が持つのは紫色の刃の短剣。


ただし洗練された姿で、消えることもなさそうだ。


そして見事なカットの施された指輪。


ふと気がついてアイテムボックスを見れば、

新しく増えているのは一塊の魔石。


その色は紫だ。


俺はこれで自分の好きなものを作れ、ということか。


(なかなか気が利いていることで)


俺はもういない相手に心の中でつぶやきながら、来た道を戻る。


入り口らしき場所に、最初は無かったポールが1本、そびえていた。


俺は無造作にそのポールに触れ、転送の感触に身を任せる。





「また歩くのね」


「ちょっと、気が重いかな」


目の前に広がる鉱山の姿に、戻ってきた実感と共に、

また地上まで戻らなくてはいけない現実が3人にのしかかる。


「……目標を達成しただけマシさ。行こう」


精神的な理由から重い足を動かし、地上へと歩き出した。



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