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74「大地の輝き-4」

色々と説明回の匂いが。




アベルらしき人影との追跡劇は長く続いた。


いや、もしかしたら数分だったのかもしれない。


いくら洞窟内ということで、まっすぐ走れず

減速と加速を繰り返すことになったとしてもだ。


何故……俺たちが追いつけない?


自分で言うのもなんだが、俺自身もそう弱いわけではない。


むしろ冒険者としては中堅以上とも言えるだろう。


キャニーとミリーは言うまでも無い。


それがここに出入りしてるとはいえ、ただの商人に追いつけないでいる。


俺たちの足音が洞窟内に反響し、いくつもの音が耳に届く。


まるで地球での夜の街角を走っているかのようなどこか懐かしさすら覚える感覚。


常人であればとっくに疲れきっている距離を走っても

息ひとつ乱れない体がここがどういう場所かを教えてくれる。


一体いくつの角を曲がったことか。


「……なんで、何もいない」


俺の呟きには2つの意味がある。


何故ここまで距離を走ったのにモンスターがいなかったのか。


そして……。


「行き止まり、ね」


「途中から分かれ道も無かったよね?」


見込みがなくなって放置されたのか、固定用の木枠もない洞窟の奥。


魔法の灯りに照らされているのはそんなただの岩壁。


扉もなければ魔法陣があるわけでもない。


(どういうことだ……?)


俺は思考をめぐらせながらも鉱脈探知のスキルを発動する。


思考の糸が蜘蛛の巣のように広がってあたりの資源状況、

精霊の分布ともいえる物を俺の脳内に展開していく。


それが示す情報としては、周囲に空間はない。


つまり、ここは行き止まりで間違いはないのだ。


ということは……。


「あれはスピリットの類だったのか?」


「どこかすり抜けて言ったってこと? そんな……」


「でもそれ以外に……あれ?」


ミリーの声に振り向けば、洞窟の奥の一箇所を指差して何か不思議そうな顔をしている。


「どうした?」


俺もそちらを向いてみるが、特におかしなところはない。


魔法の灯りに照らされ、白さすら感じる岩肌に、

俺たち3人の影がいくつも躍る。


これは魔法の灯りが複数あるからで、

濃い影と薄い影が出ているのだ。


(……ん?)


「あそこで影が切れてるのなんでかな?」


「え? 本当ね、私の影が半分ぐらいでなくなってるわ」


3人の視線の先、洞窟の奥にある俺たちの影のうち、キャニーのものが

変な場所で途切れている。


まるで、透明な何かがそこにあるかのように。


(ユーミ?)


『ゲーム的にはお約束の罠とかあるとこじゃない? でもこっちにはまだ漏れてきてないからその辺りは大丈夫みたい? さすがに行ったことが無い場所のことまではわからないわ』


半ば確信を持った俺の問いかけに、ユーミはそんな答えを返してきた。


・転送ポールを利用した複数階層のダンジョンであったこと

・ポール以外にも転送されることがあること


といったことを考えれば答えは1つ。


目の前にはいつぞやのドワーフの里へ行く場所のような何かがある。


MDにおいて、転送箇所は罠や宝のある行き止まりのフロアや、

ボスのいるフロアへの直通であることも多かった。


ゲームとしての演出の1つだ。


時にはそれを示すように、黒いオーラが漂っていたり、

擬似的な悪寒が襲うような設定もあったはずだ。


とりあえずは今、ユーミが指摘したように

変な魔力の漏れといったことはない。


俺はアイテムボックスからただの長い木の棒を取り出し、

ゆっくりと何もないはずの空間に突き出す。


すると、途中で木の棒が消えた。


試しに上下に動かしたりしてみるが、手ごたえはない。


一度棒を戻し、色々と試すと、

どうやら横は俺の肩幅の半分、高さは俺の1.5倍ほどの空間がおかしいようだ。


武器生成Cクリエイトウェポン


「? どうするの?」


俺が確かめているのを黙ってみていたキャニーだが、

何の変哲もない木の柄、金属製の穂先、と普通の槍を作ったところで声をかけてくる。


「見てればわかるさ」


俺はそういった横向きにしたまま、

槍の左右が空間をまたぐようにして投げた。


瞬間、槍はどこかに消えていった。


音は、しない。


(ふむ……所有権の無いアイテムや物は触れた段階で転送、か。

 生き物も同様だろうな)


「……入るんだね、中に」


ミリーのつぶやきに俺は背中を向けたまま頷き、1歩進む。


俺より先に入ろうとする2人を手で制し、振り向く。


「まずは俺が様子を見る。古代の罠ということもあるからな」


今は失われているようなものだったら2人には対処できない、と

うそをつき、俺はさらに空間に近づき……くぐった。








わずかな浮遊感の後、俺は少しの距離ではあるが落下し、

とっさにしゃがみこむようにして衝撃を逃がす。


足裏に届く硬い感触。


「……なんだ……ここは」


感触からして出てきた場所から地面までは1メートルあるかないかほどだろう。


俺は立ち上がり、周囲を見渡す。


そこには鉱山としての岩肌が無かった。


かといってしっかりとした建造物という感じでもない。


足元は磨かれ、滑ってしまいそうなほどだ。


広さははっきりとはわからないが、下手な体育館よりはありそうだ。


壁にあるらしい何かの光源が照らし出す空間には

無数の棚、棚、棚。


そこに収められているのは何かの塊のようだった。


この距離でははっきりとわからないが、普通ではない。


落ち着くべく深呼吸をしたところで、俺は周囲の異常に気がつく。


魔力が、濃い。


まるでボスフロアに入る前や、

高難易度のダンジョンに踏み込んだときのような、空気の重さ。


まさかと思い、意識を集中すると視界が光にあふれた。


無数の精霊がいる。


『ここ……ドロウプニルの宝石庫だわ』


「馬鹿な!? それは次回アップデートの目玉のはずだろう? 俺がプレイしていた時には概要発表だけだったはずだ!」


俺のそばから出てきた人形サイズのユーミが信じられないように言う。


俺も、負けじと声を張り上げて周囲の光をかき回すかのように体を動かした。


動きに巻き込まれて精霊がくるくると周囲を踊るがそれも気にならない。


『でもデータは間違いないわ。なぜなら、あるということは私が精霊になったときには既に知っていたもの』


ユーミの発言に、衝撃を受けていた俺の耳に音が届く。


空気を、切り裂く音が。


「っ!」


とっさに手にしたままのパラライザーで飛び掛ってきた影を切り上げる。


甲高い音を立て、金属らしき塊が上に跳ね上がるのがわかった。


そして勢いを失い、床に落ちるその塊。


(誰か……いる?)


俺が視線を棚の奥、通路となる中央部分の先へと向けたとき、そこに人影があった。


「侵入者か。かの者が言っていたことは間違いないな。人はいつか我々をむさぼりつくすと」


しゃべった……しかも中身には知性を感じさせる。


「無断で入ったことは謝罪する。だが、ここがどこでなんなのかもわからないんだ。

 教えてくれないか?」


俺が内心の動揺を隠しながら問うが、影が笑うのがわかった。


「それは異なことを。そこの同類に聞けばよかろう。あるいは生き残った人の王に聞いてもいいやもしれん」


空間を満たす光がその明るさを増し、人影がはっきり見えてくる。


まだ中年とはいえない、だが若いとも言いがたい姿。


だがその瞳は両目とも紫。


何より、人の瞳ではなかった。


魔石が入っていたのだ。


その視線は俺ではなく、その横を見ている。


……ユーミが見えている?


『直接会うのは初めましてね。ドロウプニル。ファクトにわかるように言えば、

 アップデートによる追加シナリオそのものといえば良いかしら』


「初めまして。祖の者よ。心配するな。我も我の範囲でしか力を振るえぬ」


緊張に体をこわばらせる俺を守るようにユーミがその体をふわりと前に持ってくると、

人影、ドロウプニルがどこか疲れたように言ってくる。


「王に、毒の指輪を持たせたのはお前の判断なのか?」


「そうなるな。知らずにこなしたようだが、追加シナリオのクエストの1つだ。

 ああ……クエストなどと口にしたのはもう何年も前のことか……1千年は硬いな、長かった」


俺の質問をあっさりと肯定し、どこか遠くを見るようにつぶやくドロウプニル。


その姿は物悲しさすら感じる。


「……2人はどこだ?」


「2人? ああ、あの娘2人ならこの体の主の残滓と別の場所で話しておろうよ。

 今言った、クエストとしてな」


(つまり、俺だけがここにいるわけだ)


俺はドロウプニルの言葉に安堵していた。


変な空間に落ちたとか、くぐる前にモンスターに襲われているとか、そういうことではないのだ。


懸念事項が1つ消えた俺は改めてドロウプニルに向き直る。


「さっきかの者とか言ったな? そいつは誰だ」


「黒の王」


そのときの衝撃はなんとも言いがたい。


届いた言葉を脳が理解するのを拒否したと言えば良いだろうか。


ドロウプニルの宝石庫でも驚いたが、この驚きはそれどころではない。


『やっぱり……』


「冗談じゃない。本当に黒の王がいるならとっくにこの世界は滅んでるだろう?

 プレイヤーはいないんだぞ!?」


知っていた様子のユーミも気になったが、俺はそれよりもありえないことに叫んだ。


黒の王。


名前のとおり正義の味方ではない。


MDにおいて、判明してる範囲では最終アップデートとして登場するボスの名前だ。


ドラゴンだとかそういったしっかりとした実態は判明しておらず、

ただ黒く、プレイヤーの対になる存在であるとだけわかっている。


そして、その力はシナリオ上、プレイヤーたちが国、所属、つまりはギルドなどの

システム上の枠を超えて挑む形になるボスとして設定されている。


表向きに出てくる別のボスはシナリオ上、NPCである王国の軍が、

プレイヤーたちのシナリオクリアにより団結し、戦うことになっている。


プレイヤーたちは真のボスである黒の王と戦うことになるのだ。


簡単に言えば、俺では勝負にならない。


「プレイヤーはいなくても、その存在、技、術を知っている者が昔はいた。

ゆえに黒の王も魔王となったのだ。だが今はそれも失われかけている。

 今お主が思っているような力はあるまい。まあ、一人で挑むのは無謀を通り越しているがな」


「ここは、俺が知っているMDの中だとでも言うのか?」


設定そのまま、プレイヤーが多いほど強くなり、

逆に少なすぎても攻略が困難になる設定を語るドロウプニルに俺は問いかける。


ドロウプニルやユーミの口ぶりからすると、

この世界はMDでありMDではない。


だが、少なくともMDにたまたま似た世界、ではない。


『ファクト、人間に耳と尻尾がある世界は存在すると思う?』


「少なくとも俺が知る限りじゃ小説やマンガの世界の話だな」


唐突なユーミの問い。


俺は戸惑いながらもソレに答える。


「では問おう。作り物の世界だと認識するのは誰だ?」


「? 作り手であり読み手だ。……おい」


空間の奥からなぜかクリアに届くドロウプニルの問いに俺は答え、

答えてしまったがゆえにその意味に気がつく。


『世界は可能性の結晶。魔法が無い科学の世界もあれば、魔法だけの世界もある』


「我らにも、ここにいない黒の王にも自覚はある。自らの存在、あるいはこの世界がそういうものだとな」


「あると誰かが知覚した段階で産まれる別世界。まさにファンタジーじゃないか」


あるいは、俺は最初のほうから答えをもっていたとも言える。


そう、どこかで思っていたのだ。


今の立場が転生にせよ、俺という存在がコピーされたにせよ、

俺は俺であり、地球にいた俺ではない。


「……了解した。この世界が46億年前から無かったとしても何の問題も無い。

さあ、どうすればいい? お前を倒すことになるのか?」


俺は乱暴な言葉を口にしながら、どこか冷静に、そして興奮していた。


各種メニューが文字化け気味だろうが関係ない。


ユーミやドロウプニルがクエストだのプレイヤーだの口にしたところでもう驚かない。


人も、世界も、恐らくはモンスターでさえ忘却の彼方に追いやってしまった真実。


この世界が、MDという物語を俺を含めた人間が知覚した段階でどこかに産まれた別世界であること。


ありえないと人は言うだろう。


自らの世界が作られたなどと。


あるいは地球の人間は言うかもしれない。


空想の世界など空想でしかない、と。


それは正しい。


だがそれを証明できないのだ。


無い物を無いと証明できなければ否定しきることは出来ない。


これは夢かもしれない。


だが、今の俺にはそんなことは関係ない。


前にした覚悟とは似ているようで異質の覚悟。


俺は、ファクトはこの世界の住人であり、世界の一部であり、

決して観客ではないのだ。


「それはこの問い次第だな。ファクトよ、異なる人の子よ、ここに何を望む?

 そして、何を成す?」


ドロウプニルが仰々しく両手を広げ、言葉をつむぐ。


『じゃあ、がんばってね』


あっさりと消えるユーミに俺は文句を言わない。


そうでなくては、困る。


「剣を打とう。槍を作ろう。斧を産もう。槌を、弓を、杖を、すべてを払う力をこの手に。

 盾を打とう、鎧を作ろう、兜を産もう。小手を、脚鎧を、靴を、装飾品を。すべてから守る力をこの手に。俺はそれでいい。誰が成したかではない、何が成されたかだ」


俺の口から出るのは誓い。


公式設定で描かれていたMDにおける鍛冶職の祖。


剣を振るう英雄に剣を与え、魔法を放つ英雄に杖を与え、

街を守る兵士に加護ある武具を与え、消えた人物。


ゲームプレイ時のMDに神はいない。


正確にはキャラとしての神は出てこない。


既に実体を失っているという設定だ。


だが、そのMDにおいて神に並ぶと評される英雄達がいる。


それはゲームとしての設定。


なんでもないことだ。


そしてそんな英雄たちに武具を作り出し、支え続けたという存在もいる。


俺が口にしたのはその存在が公式設定のシナリオで口にしたと設定されているものだ。


まだまだ伝説の武器とはいえないまでも、

十分強力なものを英雄たちに作り続けるその職人にある日、神は問いかけたのだ。


自らの手で敵を倒す力は欲しくないのか?と。


事実、職人の名前は名工としては知られていても、

いつも強敵を倒し平和をもたらすのは英雄たちだと世間では言われていた。


設定からしかわからないが、神は恐らくは好意からその職人に声をかけたのだ。


いつも賞賛を浴びるのは英雄たちだけだからと。


だが職人は首を横に振って、言ったのだ。


つまりは、自分がやらなくても誰かがやってくれればそれでいいのだと。


神は職人の真意を悟り、納得して力ではなく、術を与えたのだ。


世界を知り、その手に希望を生み出す術を。


言ってしまえばそれはそれぞれの系統にあわせて作られたバックストーリー。


剣士タイプにはそれなりの。


魔法使いにも相応の、バックストーリーは用意されていた。


ただ、それだけのこと。


だが俺は気に入っていた。


だからこそMDに没頭したし、レベル上げだって苦にならなかったのだ。


プレイヤー1人1人の感謝の声が俺を満たし、

今、この世界ではその力が人の命を救っていることを何よりも感じられる。


ただのゲームの一設定でしかなかった誓いが、異世界で真実となる。


「よかろう。人の子よ、ファクトよ。この試練に打ち勝てば

 ふさわしい力が残ろう。さあ、共に挑むが良い!」


ドロウプニルの声に疑問を覚えたときには空間に不可視の衝撃が吹きぬけ、

そして世界が交わった。


「っと、あれ? ファクト?」


「……敵性体確認」


「話は後だ。敵だ!」


俺の背後に現れた2人を軽く見るや、いつのまにか引っ込んでいた棚に驚きつつも、

空間の奥に出てきた塊を見る。


数は3。


その姿は人型。


むしろ、俺たちだ。


もっとも、それは紫の宝石のようなもので出来ていたが。


「最後の敵は己自身。討ち果たしてみせよ」


そしてドロウプニルは消え、後には俺たちだけが残る。


ちゃきんと音を立て、モドキが3人とも武器を構える。


「……なるほどね。私が右かしら」


「目標確認、左」


「そういうことだな。中央、行くぜ!」


2人は相手が自分たちであることを見抜いたようだった。


打ち合わせも無しだが、駆け出していく。


俺はそれが嬉しく、負ける気がしなかった。


精霊2人だけが見守る空間で、俺たちの戦いが始まる。








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