表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/292

73「大地の輝き-3」

右手首が痛い……。


パソコンの使いすぎ、打ち込みすぎですかねえ。


「あー、ミリー。左の前……後三回ぐらい叩いて、そうそう。

 キャニーはそこの岩の後ろ側を思いっきり」


トカゲな奴等を倒した後は、目当ての素材を掘り当てるべく行動を開始した。


淀んだ、とまではいえなくてもどこかのっぺりとした空気で満たされた洞窟内。


ここで灯りが油に寄るものだったりしたならば、

揺らぐ炎が影を動かし、影の動きが炎なのか、敵なのか、

3人の心を疲弊させたことだろう。


だが、魔法の灯りは地球で言う蛍光灯などと同じ。


一定の光は心に平静を与え、正確に周囲の情報を与えてくる。


所々、前に掘っていたであろう鉱夫達の道具や、掘り出した後の

岩などが転がっている。


障害物となるそれらと、トカゲな奴等を越えた先にはいくつもの反応があった。


遠くで動くのは鉱夫や冒険者か、はたまたモンスターか。


なお、3人が手に持っているのは鉱夫達から見れば冗談のようなツルハシ。


その見た目は非常にチープで、どこからどうみても子供のおもちゃのような

黄色い、プラスチックのような質感だ。


ただし、性能は普通のツルハシと比べるまでも無い。


名前はマジックピック。


MDのようなゲームであれば1つや2つは存在する、ネタ武器としての1つである。


ポイントは叩きつけるたびに発生する音と見た目にある。


ツルハシを叩きつければ普通に立つ音といえば甲高い音だろう。


だがコイツを叩きつけたときの音は何故か妙にコミカルな音なのだ。


いくつか音は種類があるのだが、俺が持っていたやつはバランスボールが跳ねるような

ボヨン、というしかない音を立てる。


その割りに振るうたびに岩肌は良い感じに砕けていく。


MDにおいてはスコップで土を掘る、刃物で木を切る、

といった行動は無駄ではないが、

いくら掘ろうとしても何メートルも掘ることは出来なかったし、

木々もいつの間にか戻っていた。


恐らくはスキルや魔法のエフェクトとしての演出のためにあったのだろう。


例えば範囲攻撃でモンスターが地形ごと吹き飛ぶ、というのは爽快であるからだ。


街中で暴れても壁が壊れるといったことはクエスト中を除いてなかったが、

フィールドは普段から何かしらの影響を受けていた気がする。


剣を地面に突き刺したり、落とし穴を掘ったり。


アイテムたちにも威力は皆無だがきこり用の斧だったり、

農作業用のクワなんかもあったりした。


素材集めとしてのツルハシでの発掘もそういった中の1つなのか、

適切なポイントで掘れば素材が出、気がつけばまた埋まっている、という感じだった。


「なんというか、常識が崩れていくわ」


「でも楽しいよ~? あ、なんか色が違うのが出てきた」


キャニーが脱力したように言う横で、ミリーが手に取ったのは色合いの濃い鉱石。


受け取った俺の手の中に出てきた情報は、

属性はついていないが魔力が少しこもり、質の上がった鉄鉱石だ。


これを使うと武具も良いものが出来やすくなるはずだ。


不思議なことに、地球の鉱脈としてのソレとは違い、

MDと同じく唐突に塊が出てくるようである。


物理法則が違うのか、あるいはそれ以外の理由、例えば資源としての鉱石たちすら

精霊、魔力が形を変えただけという可能性もある。


現に俺がスキルで武具を作り出すときも、実際には見た限りでは鉱石だとかが

塊としては存在しない場所ですら作れるのだ。


同じ場所でたくさんのアイテムを仮に作ったとしたら、もしかしたらいきなり

土が減るとか、木々が消えるとかあるのかもしれない。


「あ、あったわ。何か黄色いわね」


「下手に刺激を与えるなよ。確かそれは麻痺属性になるはずだ」


キャニーが掘り起こした塊を指差し、俺は丁寧に扱うように言う。


うげっといった様子で恐る恐る俺に手渡される石は黄色い半透明の

プラスティックの塊のようですらある。


鉱山の中ということで火や水、雷といった属性はほとんど無いが、

毒やそういったステータス異常を与えるタイプの魔石はそれなりにあるようだった。


一番多いのはミリーが見つけたような、性能そのものがあがるようなタイプではあったが。


「地図によればだいぶ来たはずだな。もうすぐ中腹か……」


魔法の灯りのかけなおし回数を紙にカウントし、その時間から距離を計算する。


予定通りであればもうすぐ例の休憩ポイントに近づくはずだ。


俺たちが通っているルートのほかに、いくつかそのポイントに到着する

ルートはあるようなので、もしかしたら他の誰かもいるかもしれない。


「? 待って」


「……剣戟?」


最初に足を止めたのはキャニーだった。


続いてミリーが耳を澄ますように姿勢をとり、つぶやいた。


俺も慌てて静かにすると、先のほうから何か金属音が反響して聞こえてくる。


同時に、人の声のようなものも。


「誰か襲われてるのかもしれないな。行こう」


言うが早いか、俺は駆け出し、2人も後についてくる。









そこは手遅れになる1歩手前だった。


俺たちが駆けつけたとき、恐らくは安全地帯であろう広間に向かうその手前、

広間を拠点にして発掘を行ったがためにか広くなっている場所に冒険者と鉱夫と、

そしてモンスターたちがいた。


広間への道は崩れた岩によってふさがれ、

潜り抜けれなくもないだろうが、モンスターのいる中では不可能、

そんな状況だった。


既に傷ついているであろう鉱夫を後ろにかばい、

まだ歳若い男女の冒険者が各々の武器を構え、モンスターと相対している。


「やらせないっ!」


我ながらお約束だな、と思う台詞を叫びながらも

盾を弾き飛ばされた若い男の冒険者に襲い掛かる直前だったミニサイズのゴーレム、

高さは俺よりわずかに高い―の肩口へと右手の長剣を突き出す。


硬い、しかしながら確かな手ごたえと共に剣の半ばほどまでが突き刺さり、

今にも振り下ろされんとしていた右腕がごとりと崩れ落ちる。


反撃に備え、バックステップでその場から飛びのいた俺を追うように

残った左腕を裏拳の様にして振り返るゴーレム。


その顔には光る何かがある。


と、切り落としたはずの腕がふわりと浮かび上がり、元の位置に戻っていく。


「ちっ、少し面倒だな」


瞳が魔石として光る魔法生物は簡単ながら魔法を使うときがあるのだ。


今回の相手は自己再生のようだ。


俺たちの乱入に驚いた様子の男女の目を覚ますかのように

キャニーとミリーが俺の左右から駆け寄り、

冒険者と組み合っていたトカゲを背後からの一撃でしとめていく。


(俺も負けていられないな)


俺は意識を集中し、自分の器用さを信じて狙いを絞る。


「どこだっけな。確か左上だったような……」


『中心点より向かって左上に拳3つ分ってとこかな。一撃必中ゴーレムくん、だったっけ』


つぶやかれたユーミの声に、苦笑を浮かべる。


前から思っていたが、彼女は基本的にはもうこの世界の精霊なのだ。


話が必要であればもっと話しかけなければならないだろう。


「助かる。さてっ!」


力いっぱい引かれた弓から矢が放たれるように、

俺は真正面からゴーレムに向けて飛び込み、狙った場所に剣を突き出す。


最初とは違う手ごたえと、岩肌を貫いたときとは違う音が響き、

一瞬場が沈黙する。


ゴーレムは何かをうめいたかと思うと、その場にガラガラと崩れ落ちた。


2人も無事に倒せたようだった。


「無事か?」


「ああ、なんとか。助かったよ」


返事をしてきた男、まだ少年の様子が残る冒険者が剣を鞘に収めながら近づいてくる。


よく見れば鉱夫以外にも冒険者たちは傷だらけだ。


重傷なのか、ローブ姿の女性は座り込んだ状態で顔をこちらに向けてきていた。


「間に合ってよかった。とりあず崩れた岩をどかそう」


差し出された手を握り、握手を交わした俺はそういって現場に向き直る。


大きなものもいくつかあるが、モンスターさえいなければそう問題ではない。


少しの時間を経て、岩はどかされて広間への道が出来る。










「なるほど。その商人がここに?」


俺が一部をぼかしてここに来た目的を話すと、

冒険者のリーダー格らしい男は首をかしげながら答える。


どうやら彼らは目撃していないようだった。


「ああ。本当にいるかはわからないんだがね。

 あんた達はどうだ? 見たこと無いか?」


傷の手当てをしている鉱夫達に向き直り、質問を向けてみる。


と、比較的軽症らしい一人の男がおもむろに口を開いた。


「噂はな。アイツは俺の2個上の先輩みたいなもんさ。俺が

 商売そのものよりこうして鉱石を掘るほうが楽しいからって

 職を変えてからもよく付き合ってた。だが残念なことになった。

 葬式にも出たぞ? だから死んでるのは間違いな……」


途切れる声。


凍りつく表情。


その意味するところは何か。


俺は半ば確信を持って広間からの出口の1つへと振り向き、

鉱脈探知のスキルを発動する。


薄ぼんやりした何かの影。


しっかりとは見えなかったがそれは人影に見えた。


洞窟の暗闇へと消えていったため、視界に入ったのは少しの間だ。


(だが捕らえた!)


スキルの効果範囲では、明らかに何かが移動していた。


「あれか! っ!? どうした!」


最初にアベルらしき影を発見した鉱夫の男性は痙攣し、表情が動かない。


慌てて手をとると、出てきたステータス表記にはテラーの文字。


(これはまずい……この様子じゃ万能薬は飲めないだろうし)


テラーの状態異常はかかってしまっても、戦闘に支障が出るだけで、

いわゆるHPが減るタイプの異常ではない。


……プレイヤーにとっては。


MDにおいて、NPCの死亡原因につながるもので、

攻撃によるダメージ以外ではこれがトップなのだ。


なぜなら、ほうっておくといわゆるショック死になることがあるのだ。


俺は成功を祈って男性の顔を片手で支えると、残った手で頬を力いっぱい叩く。


乾いた音を立て、往復ビンタを食らう形になった男性が軽く吹き飛んでしまう。


「お、おい。何を」


乱入してこようとする冒険者たちを押しとどめ、男性の様子を伺う。


「う……私は?」


赤くはれた頬を押さえながらも、男性は正気を取り戻したようだった。


「ファクト、追わないと!」


「わかってる!」


「でもこの人たちの怪我もひどいよ?」


キャニーの声に慌てて立ち上がるが、ミリーの指摘ももっともであった。


恐らくはヒーラーとなれる魔法使いと思わしき女性は重傷で、

先ほどから詠唱が出来ていない。


彼らの手持ちの薬草等で回復していけばいけるかもしれないが、怪しいところだ。


(……仕方が無い)


俺は背中に手を回し、キャンディを大きくしたようなステッキ型の何かを取り出す。


「これをもって癒せと念じるんだ。効果は低いからな。何回もだ」


一番元気そうな冒険者に手渡し、使い方を説明する。


キャンディワンド。


そのままの名前ではあるが、序盤に有用な回数制限のある回復アイテムだ。


レベルに影響を受けず、魔力を糧に固定値の回復を行う杖になる。


その消耗はあまり大きくなく、MDでもレベル1で5回は使用できる。


半信半疑の冒険者だったが、一振り目でワンドが光を放ち、

魔法使いの女性の怪我が幾分か和らいだのを見、真剣な表情で頷いた。


「よし、行こう!」


改めて使用した鉱脈探知のスキルにはまだアベルと思わしき反応が残っていた。


無言で頷くキャニーとミリーをつれて、

俺は洞窟へと駆け出していった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ