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225-「リスタート-1」

「こうも国が騒がしいのは帝国が世を謳歌していた頃以来であろうな」


どこか遠くを眺めるような声が部屋に響く。


声の主は自分の言葉を聞いたであろう相手のグラスへと、

赤い色のアルコールを注ぐ。


「帝国の時代に……目立つと色々と大変そうな気もするが、違ったと?」


「記録によれば、定めた決まりを破らない限り、

 各地の統治者の自由だったそうだ。その上で、いざとなれば帝国の軍勢が

 危険を排除しにやってくる。そう、どんな怪物が相手だろうとな」


注がれる液体、地球でいうワインに相当する物を眺めながら、

意外そうな声を片割れがあげ、もう片方もそれに応じる。


「……よく考えたら、王自らとは……贅沢だな」


「今さらであろう。我らにとっては」


部屋にいる2人の人間、オブリーンのマイン王とファクトの間に静かな笑いが起こる。


陽の光の差し込む、特別製のガラス張りの部屋。


王が静かに過ごすプライベート用の一室で

2人はテーブルをはさみ、向かい合っていた。


「騒がしさが笑顔が増える方向であれば一番なんだが……」


「それはファクトのような冒険者ではなく、自分のような治める側の仕事だ。

 気にすることはない。それよりも話をもっと聞かせてくれないだろうか」


真面目な声のファクトに対し、

若い頃の冒険を思い出したのか、浮いた様子で話を促すマイン王。


国のことが無ければついていきたかった、と

その表情が雄弁に語っていた。


王が護衛もつけずに冒険者と話をするということに

問題を感じない側近がいないわけではなかったが、

王自身が許可をしていることと、もし害意があれば

国に戻ってきた時点で宝珠が反応するであろうという意見に押される形となった。


ファクトはそんな側近を責めることなく、

むしろ、国にとって必要な人材であろうと語り、

そのまま王の望む冒険の話をし始める。


その中にはジェレミアの土地での話も含まれており、

同盟ではあるが別の国ではあるので、ある程度ぼかしつつではあるが

戦いの数々などを話していく。


「なるほど。やはり転送……であったか、異なる場所へ

 こうも早く移動できるというのは素晴らしく、そして危険な術よな」


通常の手段、徒歩や馬では成し得ない各地での戦いの話に、

マイン王はそう感想を漏らした。


ファクトの語る戦いの話そのものも魅力的で、

心を動かされる物であったが国のトップに立つ人間としては

影響力が高いのは転送門、柱の関係だと改めて感じたのだ。


既に冒険者の間にも目立った転送門、柱の話が伝わり始めている現実がある。


「そうだな。国の禁を犯した犯罪者だとかも逃げやすくなるという一面もある。

 出来れば冒険者ギルドらと連携して、転送関連は関所のように

 管理、保護をしていった方がいいとは思うが……」


「うむ。話が終わり次第、各方面に持っていくとしよう」


2人の間にあるテーブルの上で、

ファクトが白紙に描いた大まかな世界地図が光に照らされる。


そこには何本もの矢印が描かれ、ファクトらがたどった、

普通では成し得ない旅程が記されていた。




今こうして、オブリーンの王都でファクトが

話ができるのも転送柱のおかげである。


戦女神との話し合いの後、世界に古の意志ら

多数の精霊たちを召喚することに成功したファクトだが

その後どうするか、という点では特に考えていなかった。


精々がせっかくの霊山なので経験を積んだり、

覚えのある場所でレアなアイテムでも集めようかと思うぐらいだ。


ゲーム時代のルートがどこまで使えるかは不明であったので、

欲張らずにいくつかの場所を巡った末、とある転送用のポイントを見つけたファクト。


「これは……跳べるのですか?」


独特の光を放つ2本の柱、そしてその間に広がる透明な膜のような光に

興味を隠しきれない様子でシンシアは問いかける。


「恐らく大丈夫だが、これは片道だろうな」


柱に近寄り、調べていたファクトはそう口にして全員を振り返る。


戻るなら戻れる、ただし片道だと。


ゲームなどでよくある、イベントフィールド最奥から

入り口、あるいは指定場所に戻れる転送ポイント。


それがこの目の前の物であった。


恐らく移動先を指定できるのは仕組みを理解しているファクトのみ。


つまり、同じ場所に行くのでなければまた山を下りなければいけないのだ。


ファクトの説明を聞いた冒険者や兵士は、

意外にも全員、一緒に同じ場所に転移することを選んだ。


兵士らはシンシアがいる場所へこのまま護衛を続けるという目的もあったが、

冒険者らはらしい理由から選んでいた。


冒険者らはほとんどが西方諸国出身であり、

東側も旅してみたかった、という単純な理由だ。


いきなりオブリーンの王都についても混乱の元だろうということで、

王都に近いとある廃墟的なダンジョン入口付近をファクトは指定する。


幸いにも、いくつかの候補や座標から転送先を指定できるタイプだったようで、

ファクトの作業はスムーズに進み、全員の見つめる先で光の膜はその形を変え、

新たな姿をとる。


「これでいいはずだ。行こうか」


不安を取り除くため、最初に歩き出そうとしたファクトだったが、

それよりも早く先頭を行く影、シンシアだった。


「参りましょう。久しぶりの帰国ですもの、楽しみですわ」


その堂々とした姿に、かなわないな、と内心で思いながらファクトはそれに続く。


わずかな独特の浮遊感の末、ファクトらはどこか覚えのある森にたどり着く。


背後には人気のない廃墟が広がっていた。


王都まで一緒についてくると思われた冒険者らだが、

危険の少ない場所だとわかると、近場の街を聞いてそちらに向かうという。


「そうか、ここでお別れだな」


「人生何があるかわからんが、楽しんだもの勝ち。

 そう感じさせる時間だったよ、ありがとうな」


短い、しかしながら濃密な時間を過ごした面々は既に戦友であり、

友人に他ならなかった。


握手をしたり、抱き合ったり、頷きあったり。


各々の仕草で気持ちを確かめあい、別れる。


冒険者らが王都とは逆の方向、

つまるところ仕事のありそうな方向へと歩き出すのを見送り、

半減した人数をどこか寂しそうな表情でシンシアは見つめていた。


「ここまでは見えてたのか?」


「いえ、そんなことはありませんよ」


変なところで詳細に力を発揮するシンシアの予知、予言めいた能力で

どこまで見えているのか、ファクトが気にして口にしてみるが

シンシアは首を横に振り、年相応の表情で力なくつぶやく。


「さ、いきましょ。お姫様も王様に会う前に旅の汚れを落とした方がいいんじゃないかしら」


そんな彼女を元気づけるように手を取ったキャニーがそういうと、

ミリーばかりか、周囲の兵士らも真面目な顔でうなずいている。


確かに身分の関係ない旅の空ではある程度仕方のないことであろうが、

王女として戻るのであれば、冒険者としての経験を感じさせるものの、

王族としてはふさわしいとは言い難い服装も整えねば、

あるいは城にいるメイドたちは気絶でもするかもしれない、とファクトは感じていた。


そんな中でも気品やオーラといった物が失われていないあたり、

シンシアが真に王女であるということであろうか。


そして、マイン王との再会、談話の時間である。




「うーむ、惜しい話だ」


そんな話を聞き、マイン王は万感の思いでそう口にする。


何よりも雄弁に、その姿が語っている。


同じ冒険者の立場でその場にいたかった、と。


「自分が言っていいのかはわからないが、それが王ってもんじゃないのか?」


「それもそうなのだがな。おお、そうだ。シルヴィアに任せて隠居を……」


マイン王の言葉を遮るように、扉が開く。


「お父様、そんなことを言ってはお姉様が困ってしまいます」


2人がそちらに視線を向けると、

身支度を整え、城にいたころのような恰好をしたシンシアが立っていた。


後ろにはアルスとエイリルを控えさせている。


口にはしなかったが、ファクトはまさに『お前が言うな』状態であった。


正確には、シンシアが言ってはダメであろう、と苦笑交じり、と言った状況だ。


一番堂々と城から飛び出し、大冒険をしているのは彼女自身なのだから。


姉妹として、シルヴィアが心配しなかったはずはない。


ファクトがそんなシンシアへと突っ込む前にその場に人が増える。


静かに歩いてきた人物、腰まで伸びた金髪の主、シルヴィア王女だ。


「シンシア、では代わりに貴女が城にいてくれるかしら。

 その間、私は城下にでも出るわ」


「お姉様……」


少女から女性へと成長を果たし、

王の仕事を多少なりとも勤め上げていた経験が良い糧となったのか、

シルヴィアは若いながらも女王と呼ぶに値するであろう

空気を身にまとっているようにファクトには思えた。


女性は視線に敏感だという話があるが、その時のシルヴィアは

それに違わない鋭い感覚で自分に向けられたファクトの視線を感じ取っていた。


「こうしてまともにお会いするのは父上の治療以来、ですね。

 お元気そうで何よりです。それにシンシアのみならず、シルフィまでもお世話になったとか。

 不思議なご縁、といったところでしょうか」


「こちらこそ。どちらの妹さんも元気でしてね。気は抜けません」


おどけたファクトの返答に、横で聞いていたマイン王は声を抑えることなく笑い、

シンシアは心外そうに頬を膨らませていた。


だが、ファクトは気が付いていた。


シルヴィア王女の瞳が、待ち人来たりて、と言わんばかりに

自分に向けられていたことに。


どうせやってくる厄介事ならば、早めに踏み込んで早く片付ける。


キャニーらに言えば、お人よしと笑われるだろうなと思いながらも

ファクトは笑顔のまま、シルヴィアに先を促す。


「では3人目もお願いできますでしょうか」


「お願い?」


やっぱりか、と内心思いながらもファクトは何を言われるのか、

と不安を募らせていた。


仮に相手は王女である。


大体のことはその権力でもって解決が出来るはずで、

多少特殊としても1人の冒険者に頼むことはなんだろうか、と。


「ええ、お願いです。私を、鍛えてほしいのです。前線に出られるように」


シルヴィア王女から飛び出た言葉は、

ファクトだけではなくマイン王やシンシア、

背後に控えるアルス達ですら硬直させる威力を持っていた。


当然であろう。


一国の王女、しかもその必要性がない人間が

よりによって前線に行きたいと言ったに等しい発言をしたのだ。


「実はですね……」


その周囲の衝撃に気が付いているのかいないのか、シルヴィアは語り始めた。

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