↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
243/292

226-「リスタート-2」

鍛えてほしい。


そんなシルヴィアの話にファクトはすぐに返事をしなかった。


鍛えるなら若いうちが良く、

既に大人になっているシルヴィアを鍛える困難さ、にではない。


3人目とシルヴィアは言ったが、

実際問題としてシンシアとシルフィも直接ファクトが

鍛えたというには微妙なところである。


武具を与え、場を与えるという点では鍛えたといえるのかもしれないが……。


王女として鍛える必要性があるのか?ということもある。

とはいえ、ファクトに断る理由も無い。


必要性に関しても、万一の際に逃げるにしても抵抗するにしても

動けないと話にならないのは一緒なので

そこをどうにかしてほしいという話になっていったからだ。


何が問題かと言えば、

どこまで鍛えたほうがいいのだろうか?ということに他ならなかった。




「先ほどの話だが、自分でよければぜひ」


「ああ、よかった。受けてくれなければ妹たちにお願いをするところでしたもの」


午後のティータイムにシルヴィアを訪ね、

ファクトは依頼の承諾を伝える。


悩んだ結果ではあるが、自身にデメリットはほとんどないことも

手助けし、快諾の気持ちを決めたのであった。


城内で未婚の王族に出会うということで、外には

近衛の兵士も待機しているうえ、室内にも護衛にもなれる

メイドが数名、油断なく待機していた。


2人とお付きのメイドらがいる場所は、

社交ダンスでも練習できそうな広めの部屋。


天井にシャンデリアが輝き、

床には高そうな絨毯が敷き詰められている。


表向きは陽気さも感じる場だが、

その内面はやはり王族のいる場であると敏感ともいえる感覚で

正しく理解するファクト。


シルヴィアがそれに気が付いているのかいないのか、

あるいは当たり前すぎて特殊であると感じていないのか。


壁際の家具のほかは、横長のテーブルと2人が座る椅子のみ。


1つ1つが高そうだなと思いながらアイテムボックスからいくつかの小剣や

片手剣でも細見な物をいくつも取り出し、脇のテーブルに並べる。


まるで高級ブティックで試着用の服を並べるかのように

無造作でありながらも値段を想像せずにはいられない光景。


「手持ちの中から選んでみたんだが、どうだろうか」


並ぶのは女性キャラクターや低STRキャラが持つことが多かった類の物であり、

特に訓練をしていなくても扱えそうだとファクトが判断した物たちだ。


突然現れた刃物達に、壁際に待機していたメイドたちには

驚きの気配が産まれるが、シルヴィアは動じない。


以前、父親の治療の際に同じように武器たちを出していたことを

覚えていたからであるが、内心は見慣れない現象に興奮もしていた。


「どれも世に流通しているとは言い難い気配がしますね。

 宝物庫で見たような感じも受けますが……触っても?」


「もちろん。一部魔道具も混じっているが、発動には専用の言葉が必要だから

 安心して触って問題ない……はずだ」


ファクトの言葉に、さっそくと端に置かれた小剣からと

順番に手にし、光に刀身を輝かせながら目利きするように見ていくシルヴィア。


ファクトは詳細を告げなかったが、それぞれは

ゲーム時代に作った物であったり、ドロップであったりするが

いずれも防御用の特殊能力が付与されていたり、

スキル、魔法が特殊に発動できるタイプばかりを選んでいた。


王女が持つならばこういう物だろうという勝手なイメージである。


だが、ファクトは忘れていた。


彼女の妹は2人とも活発であり、時には泥だらけになることもいとわない、

深窓の令嬢、というには方向性の違う女性であることを。


であるならば、その姉が大人しい、淑女のイメージそのままであるはずがないという可能性を。


ファクトのある意味での幻想は、あっさりと打ち砕かれる。


「どれも軽いですね。もう少し重量感のある物はありませんか?」


やや重いので取り扱いにくいか、と考えていた片手剣を

あっさりと上下させ、木の棒でも持つかのようなシルヴィアの姿には

服を試着した姿を自慢しているようですらあった。


特に訓練は受けていないというシルヴィアだったが、

武器に遊ばれるような持ち方でも、構えでもなかったことに

ファクトは驚きを隠せない。


「えーっと……訓練はしていないと言っていなかったか?」


「ええ、誰かに師事しておりませんよ。

 見様見真似です。立場上、近衛の訓練を見たり、

 演武を見るということもありますからね。そのせいでしょうか」


それで動きが上手くなったら誰も苦労しない。


そんな言葉を飲み込みつつ、門前の小僧はなんとやら、

あるいはこれが王族の血筋チートか、などと想像を働かせるファクト。


とはいえ、そのまま放っておくわけにはいかないため、

手持ちの中から最初は候補に入れていなかった武器も取り出すことにする。


さすがに王女に大きな斧やら、武骨なこん棒の類を振り回させるのは

色々と問題があると考えたのか、見た目にも問題なさそうな

長剣や両手剣、槍、といった類がテーブルに並ぶ。


今度は特殊な武器は逆にほとんどなく、

武器の種別そのものを判断できそうなラインアップである。


品質はともあれ、形状や種類としては

流通している物と大差ない内容。


果たして過去、王城でこんな光景があっただろうか、

と思いながらなぜか笑顔で武器を手にするシルヴィアをファクトは見守る。


壁際のメイドが、どこかハラハラした気配をまとって

こちらを見ているのも無理はないだろう。


どこの王族が、普段着とはいえドレスを着たまま

武骨な輝きの両手剣を真剣な顔で持ち上げると想像するだろうか。


「この剣、少し重いですけどこれを使ってみたいです。どうでしょうか」


「……本気……だよな、一応聞くけれども」


数ある中からシルヴィアが選んだのは、

アルスの持っている物より大きく、

真に両手剣と呼べるタイプの一振りであった。


どう考えてもファクトのイメージするシルヴィアのレベル、

ステータス状況からは持ち上げるのもどうか、

というはずの物だったが彼女は難なくではないが持ち上げている。


その上、様になった構えをするのだから驚きの一言だ。


「ファクト様がご用意頂けるのでしょう?

 そうであるならば下手な物であるはずがありませんもの」


対するシルヴィアの返答はあっさりとしたものだった。


つまり、この後ファクトが正式により良い物を用意してくれる。


その確信があっての言葉だった。


どちらにせよ、専用装備として用意する予定だったのは

間違いはなく、それ自体は異論のないファクトであったが、

目の前の光景には少々目を疑わずにはいられないのも確かだ。


助けを求めるように壁際のメイドの1人、

恐らくは古くから仕えているであろう妙齢の女性へと視線を向けると、

その意図を正しく察したそのメイドは静かに1歩、前に歩み出た。


「シルヴィア様は幼少の頃より、それはもう健康でいらっしゃいました。

 その上、下々の仕事にも勉強だからと興味を示され、お手を出されました。

 そう、大の大人がようやく運ぶような家具や水瓶も

 私たちが見ていない場所でこっそりと運ばれてしまうぐらいには」


一息に口にしたメイドはそのまま一礼してまた壁際に戻る。


メイドは多くを言葉にしない。


だが、ファクトにとってはそれは多くを語っていた。


(それはもう、成長補正がSTRに偏ってるじゃないか!)


内心の叫びは誰にも届かない。


ゲームのように、他人のステータスがわからない現状ではあるが、

状況から見てファクトの予想は外れていないといえる。


そういえば、と思い出すことがある。


状態異常を与える指輪を破壊し、無事に快方に向かったマイン王を、

玉座の間から連れ出したのはほかでもない、シルヴィアだったと。


病床にあり、ある程度体重が減っていたとしても

大人1人を連れ出すにしては随分と身軽な動きだったと。


「なるほど……。まあ、まずは軽い奴で動きを覚えてからでいいんじゃないか?」


動揺を隠しつつ、そうしてわずかながらも軌道修正を試みるのが

ファクトの精いっぱいの抵抗であった。






「というわけで、思った以上に力強いので基礎訓練は飛ばしてよさそうなんだが」


「うむ、構わん。したいようにさせてやってくれ。

 一見しておかしいぐらいのほうがただの遊び、わがままのように見えよう」


その夜、王のわずかな自由時間である時間帯に

報告としてやってきたファクト。


事情を知っている部屋のメイドと、

扉の外の近衛は仕事に忠実に沈黙したままだ。


「想い人と別行動で迷惑をかけるな」


「王族に貸しが出来るのだから安い物さ。それに、夜は一緒だ」


公式の謁見ではないためか、互いに武装も解除し、

マイン王に至っては豪華ではあるが寝間着である。


いくつものランプの照らす中、そうして報告を終えたファクトだったが、

ふと思いついたように姿勢を正し、それを口にする。


「そうだ。鍛えるのは構わないが……近衛より強くしてしまっても構わないのだろうか?」


「もちろん。思うようにやってくれ」


どこか楽しそうな2人。


その姿はいたずらを共同してしかける悪ガキのようでもあり、

価値のあるお宝を見つけた冒険者のようでもあった。




一方、キャニーとミリーは久しぶりの王都で

兵士を相手に訓練にいそしんでいた。


「この、ちょこまかと!」


「そんなんじゃ当たらないわよ!」


怒号にも似た兵士の叫びに、同じく大きな声で叫び返すキャニー。


傍から見るとまるで盗賊を追いかける警察機構のようでもある。


ただ、実際には喧嘩をしているわけでも、捕り物をしているわけでもない。


一対一の対人訓練を続けているのだ。


元々、オブリーンの兵士と冒険者とは別に喧嘩する間柄でもない。


互いの活動領域の重なるジェレミア側のそれと違い、

オブリーンでは棲み分けが半ば当たり前のように行われており、

それぞれの立場、役割が分担されているようですらあった。


単に戦い方や目指すものが違うだけ。


そんな共通項から、兵士らにキャニーらと訓練をすることに異論はなかった。


逆に、普段戦うことのない畑違いの技術に、

互いに刺激しあうという場となっているのだった。


魔法に接する兵士も増え、キャニーのフェイント、

魔力的残像を残すスキルであるファントムステップも

そうであるという認識が出来るようになってからは

反撃も問題なく行われていた。


空を切る音、つぶしてあるとはいえ、

まともに当たれば怪我をするであろう刃物同士がぶつかる音が鍛錬場に響く。


「あの連続攻撃、長い得物ではああはいかないな」


「ああ、相手の反撃の隙間にさらに一撃を加える。

 怪物相手にはああいう戦い方も必要だな」


近衛の1人と戦うキャニーの動きを見、

それぞれに評する他の兵士達。


ミリーはそんな話を聞きながら、次は自分の番であるとばかりに

準備運動を念入りに行っていた。


訓練とはいえ、真剣な戦いだ。


つい、が大きな怪我につながるのだから当然のことだ。


キャニーとミリーはパワーで押すタイプではない。


速度と技巧によるものであり、いわゆるAGI特化、

シーフタイプだ。


腕力は高いとは言えず、鍛え上げられた兵士である

近衛と組み合うことは不利であり、

事実、その点では押されていた。


だが、怪物が力強いというのも良くある話で、

それと正面から打ち合うことも彼女らにとってはあまりない。


キャニーたちからすればそういった相手との戦いを、

兵士達からすれば素早い怪物に近い戦い方を学べる。


得る物の多い、有意義な時間であると言えた。


思ったよりも熱い時間は過ぎ、

兵士らも力に特化した通常の兵科のほか、

やや地味ではあるがキャニーらのような動きのできる兵科を

新たに作るべきだろうなという認識を新たにしたのだった。





翌日、ファクトは城の一角にある工房に来ていた。


敷地的には城そのものとはやや離れた場所ではあるが、

城壁の中にある丈夫そうな建物である。


ファクトが聞いたところによれば、実際に市場や

街にいる職人や工房から納品を受けることもあるが、

常駐する人間の主な武具はこの工房で作っているのだという。


自国の武具を他国や離れた場所で作るのも、

安定した供給や機密という点では確かに回避したいところである。


今は主だった国は同盟下にあり、争ってはいないが

国ごとの研究という物はいつだって隠しているものであった。


そんな場所で、ファクトは用意された様々な鉱石や

下処理のされた毛皮などを選び抜いていた。


最初、ファクトは武器だけを作るつもりだったが、

シルヴィアのSTR特化振りを見て考えを改めた。


彼女の能力ならば、ある程度鍛えれば

武器自体は扱うことは出来るだろうと予想できた。


しかし、室内ではそれだけでは外敵に対応しにくいし、

相手の脅威の前では防御面でも何かで補正をかけなければ、

いざというときに役に立たないと考えたのだ。


武器は問題がなさそうである。


であるならば……防具である。


かといって、ありきたりな高級素材による豪華な鎧や、

単に能力補正をかけたのではつまらない。


せっかくエルフやドワーフの秘術を手にしたのだから、

それを追及するのも一興であろうとひそかにファクトは心に決めていた。


じっと素材を眺めながら思案するファクトの姿は真剣そのもの。


見学をしたいと申し出た城直属の職人たちも、

その姿に異様な気配を感じ、声をかけられずにいた。


ファクトは手にする素材を次々と変えながら

シルヴィアの使う武具にふさわしい条件を考える。


まずは普段から装備することを考えると、

全身甲冑や四肢にがっちりと装着するようなごてごてした物では

王女として、常用には無理がある。


次に、普段は身に着けないとして装備するのに手間がかかるようではいけない。


戦いの場に後から駆けつけるならばともかく、

実戦に置いてはそんな暇がないことが多いからだ。


そして、何よりもせっかく本人が美人の類なのだから

それを隠すような物でもよろしくない、と。


機能と美学の両立。


それは世の職人が耳にしたならば非常識極まりない条件であった。


ファクトの思考はそうして1つの結論に達する。


防具としての性能を満たし、

普段はごてごてした印象を与えず、

いざという時に能力を発揮する。


そして、着用者本人の魅力を失わないファッションとしての面も

兼ね備えた……防具。


もしもこの場にファクトのすることを理解し、

元の世界の文化にも通じる元プレイヤーがいたならば

全力で止めるか、あるいは全力で応援したことだろう。


ただ恐らくは、元のゲームであるMDをプレイするような

人間であれば強く反対はしないであろうとも思われた。


「よろしい。ならば魔法少女的変身システムだ」


笑顔と共に言い放たれたその言葉は、

この世界の誰も他に理解できない、禁断の扉の鍵であった。

シルヴィアは女子大生からなりたてOLぐらいの年齢設定なので

魔法少女と言えるかは別問題。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。