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169「空に舞う少女-2」

「先生、空飛ぶ野盗の話って聞いたことありますか?」


ファクトら5人と、男女2人の囲むテーブルの上、

質素ながらも隣国の王女が手伝ったという貴重な朝食の場。


そんな場所にはふさわしいかどうか、疑問の残る話題を口にしたのは少女。


作業の邪魔にならないよう、伸びた髪の毛は

後ろでいわゆるポニーテールのようにまとめている。


その少女の隣に座るのはこれまた若い、少年。


姉弟だという2人はファクトらがいない間、工房の留守番を頼まれた職人であった。


そのうち完全に任せてしまう予定であることはまだファクトは打ち明けてはいない。


だが、毎日出される課題、作業の合間合間に渡される手記には

おおよそ、通常の鍛冶場では教えてもらえないような技術や、

裏技のような方法が記されており、なんとなく自分たちの役割を

2人は理解しているようでもあった。


「空飛ぶって、なんだ、魔法か何かで飛んでるのか?」


口に運ぼうとしたパンを降ろし、ありえる可能性を口に出すファクト。


ファクトの言うように、魔法の中には時間は様々だが体を浮かせるものが存在する。


単純にすばやく移動、飛行するものや、空中に足場があるように動けるものまで様々だ。


「え、魔法で空って飛べるんですね」


だが、火の玉を打ち出すような攻撃魔法と違い、

制御や効果時間的に魔力を使う量が多くなるこの手の魔法は

あまり使い手がいないというのがこの世界の事実であった。


冒険者の少年が使っているスキルという手もあるが、

まだまだ使えるようになっている人間は少数だろう。


その意味では、あっさりと空を飛ぶ理由、に

魔法を思い浮かべたファクトが常識から外れてはいるのだが、

それにつっこみを入れる人間はこの場にはいない。


「いえ、なんでも飛竜に乗ってるらしいですよ?」


「いくらなんでも冗談でしょ……飛竜なんて」


職人の少年の言葉に思わずキャニーが答えてしまうのも無理は無い。


飛竜、それは文字通り空を飛ぶ竜種である。


大きなものはあのレッドドラゴンなどと並び、空の王者と呼ばれる。


様々な姿、属性の竜が世の中にはいるが、

一般的に飛竜と呼ばれるものは比較的細身で、

その身軽さを活かして山間を舞うことで有名である。


ほとんどが自分のテリトリーの中で魔力を糧に生き、

時折下界で魔力以外、つまりは肉を食事にするのだがその頻度は少ない。


だが、脅威としては最上の1つに上げられるほどである。


レッドドラゴンのような巨大なタイプの竜が本当に自分の領域から

出てこないことと比べ、飛竜は比較的その行動範囲が広いのだ。


高速で舞い、口からはブレスを吐く。


そんな強力な相手を従えるとなれば、方法は1つ、テイミングだ。


だが、世間的にはテイミング自体がマイナーな話である。


もし裏切られたら、もし効力が切れて襲い掛かってきたら、

そう考えてしまう冒険者も多い。


もっとも、テイミングを正しく習得できるのは

元々動物好きだったり、そういったことに適正のある人間がほとんどのため、

そうそうテイミングが効力を失うということも無いのだが

ゲームのようにステータスのわかる状況でなければ、

恐怖を覚えるのも無理は無いだろう。


狼一頭、大鷲一羽でも野生というのは非常に強力な力となる。


そして、テイミング自身の難易度も比例して上がっていく。


であるならば、飛竜となればその戦力、難易度はどれほどのものか。


それを成し遂げた野盗とは本当に盗賊なのか?


そんな疑問が浮かぶのは仕方の無いことだった。


ファクトたちの駆るグリフォンですら、オブリーン王家で

ある種、秘匿されていたことを考えれば言うまでも無い。


「でも、そんな話はあまり聞きませんわね。最近のお話なんですか?」


食べるものは庶民的な食事でも、身についた気品、しぐさというのは隠せないもので

どう見ても只者ではない食べ方をしているシルフィ王女だが、

視線は妙に好戦的で、そして真剣であった。


オブリーン王家の3姉妹はいずれもあのマイン王、

冒険に明け暮れた男の娘である。


ましてや母親も、そんな冒険についていっていた、

世間的にはまさにおてんば娘。


おおよそ王族のイメージとはかけ離れた両親の過去。


そんな活発な精神は普段はあまり表に出てくる機会が無いが、

新しいこと、冒険の匂いには敏感なのであった。


それは王城にいるときでも健在で、出入りする人間や

身の回りのメイドに世間話を聞くのがシルフィの生活の一部であり、

周囲の人間も表向きには見識を深めようとするその姿に、協力的であった。


だが、そんな彼女でも飛竜に乗る野盗は聞いたことが無かった。


「なんでも以前から被害自体はあったみたいです」


職人の少女が思い出すようにつぶやく。


訓練の賜物か、既に自分の担当分は食事を終えているあたり、抜け目が無い。


「でも、生存者は少ないし、何より誰も信じなかったんですよ。

 なにせ、飛竜ですからね。たまたま飛竜が襲い掛かってきて、

 たまたま盗賊がそばにいたんだろうと。ただ、最近状況が変わってきたんです」


「冒険者ギルドの間でなんでしたっけ、魔法ラジオ?を使って危険な怪物の話なんかを

 やり取りしてるうちに、ギルドの人が気がついたんですよ。

 その野盗の話があちこちにある、っていうことに」


2人の話にファクトたちはなるほど、と頷く。


一箇所で1回だけなら見間違いかもしれない。


あるいは一箇所で何回もあるというのならたまたま飛竜のテリトリーで、

野盗はそれを利用している、と思うかもしれない。


では、いくつ物別の場所で、同じ内容の話が出たならば?


それはつまり、飛竜を従える野盗の存在証明。


「そうか。加えての問題は同じ野盗があちこちに移動しながら

襲い掛かってるんじゃないか、ということか」


ファクトが顔をしかめるが、それはキャニーやミリー、

シルフィの後ろに立っているクリュエルですら同じであった。


それもそのはずで、空から略奪のための悪意が迫ってくるのだ。


ただでさえ地上には怪物や、普通の野盗だっていることもある。


町と町の行き来や、商売というのは危険にあふれているのだ。


冒険者により護衛がされることが多いとはいえ、

対処にも限界がある。


ましてや相手が空を飛んでいるとなればなおさらだ。


(まてよ? これまでに空を飛んでいたが普通の鳥以外に空に何かいたことなんかあったか?)


ファクトがそう疑問に思う理由は、彼が覚えている

グリフォンや飛竜、ワイバーンなどの習性にあった。


正確には習性ではなく、ゲーム上の仕様であるのだが、あまり違いは無い。


それによれば、彼らは決まったテリトリー以外にほとんどでないことで有名だ。


確かに空を飛べるからとあちこちに出て、襲われてはゲームプレイヤーはたまったものではない。


そんな飛竜達であるが故に、仮に空を飛んでいれば目立つし、目撃もされるはずであった。


「どこに普段いるんだろうな、その飛竜。相当目立ちそうなものだが」


ファクトの指摘に、全員がはっとした顔になる。


餌や寝床、あるいは移動。


目撃される可能性はすぐにあげられるほどにあるのだが、

確かに今まで襲われたという話以外は出てきていないのも事実であった。


「先生、よかったらギルドに行って下さい。今日のノルマはやっておきますから」


「そうですよ。ちゃんとジガン鋼は10個、作っておきます」


ちょっとお前たち気を使いすぎじゃないか?

とファクトが思うほど見事なコンビネーションで、

職人の2人にファクトたちは送り出されるのだった。






(テイミングによる召還か、はたまた……)


ギルドへの道すがら、ファクトはぼんやりとそんなことを考える。


「あら、クレイじゃない」


グリフォンのように必要なときだけ現地に呼び出しているのか、

もしくは……とファクトが考えたところでキャニーの声が

ファクトの意識を振り戻す。


ファクトが視線を向ければ通りの向こうから馬車を引き連れてやってくる集団。


その先頭にいるのはクレイ、そしてコーラルであった。


他にも冒険者が一緒で、馬車には一般人らしい御者がいるあたり、

護衛の依頼を受けてきたのだろうなとファクトは考えた。


「お。本当だな、おーい!」


ファクトが声をかけ、クレイもそれに気がつき、ギルドの前で両者が合流する。


「久しぶり!」


握手代わりのハイタッチ。


ぐっとそのまま握りこんだ手の力に、ファクトはクレイの成長をまた感じ取ることができた。


「クレイも元気そうだな。また腕を上げたようだ……護衛か?」


コーラルとしゃべる姉妹に視線を一度やり、

ファクトがクレイの後ろを除くとやはりそこには御者と、

馬車の中にいる数名の商人風の男たち。


「ああ。臨時で組んで、この町へ、といつもの感じさ」


そういって臨時パーティーらしい冒険者たちに

ファクトのことを簡単に紹介するクレイの姿は、

最初に出会ったころの少年らしさが抜け、

男らしさをファクトに感じさせる一人の冒険者であった。


「クレイ、私が清算してくるね」


「うん、任せた」


こちらも少女然とした雰囲気が減り、

冒険者らしい風格を身にまとったコーラルが声をかけ、

依頼完了の証明のために、ギルドの建物へと入っていく。


商人と冒険者、そしてコーラルが入っていくのを見ながら、

ファクトはそのままクレイと話し続ける。


「どうだった、道中は」


「うーん、強さはともかく襲われそうな場面が多かったかな?

 こっちが武装してるとわかると襲ってこないほうが多いから、

 怪物たちもそういったものがわかってるのかもしれない」


クレイが指折り数えた回数は5。


一回の護衛としては世間的には多いほうになる。


もっとも、今の世の中では多いのか少ないのか、微妙なところではあった。


「ファクトが言ってたスキル、だっけ。あれを使える冒険者も増えたし、

 すごいなって思う反面、どうも怪物も厄介になっている気がするんだ」


クレイが口にするのは、以前より毒をもつ怪物の

攻撃が厄介になっている気がする、という話や

魔法のような物を使う怪物が増えているという話であった。


ファクトはそれを聞きながら、理由や、起きていることに思い当たるのだが

どういったものかと悩む。


怪物がそうなった理由は簡単で、以前ファクトが世界に広げた精霊にあるからである。


精霊には善悪の区別は無い。


宿る場所に選り、好みは多少あるように考えられているが、

力を貸すのは人間だけとは限らない。


「それは怪物たちが精霊の力をより強く、大きく借りられているということではないですか?」


「え? あ、ああ……そうかもしれない」


ずっと黙っていた少女、シルフィの指摘にクレイは慌てながら答える。


少しその顔が赤いのは面と向かってシルフィに意見を言われたからか、

それとも別の理由か。


いずれにしてもここにコーラルがいなくてよかったな、とファクトは2人を見ながら思うのであった。


「クレイ、はい」


ちょうど良く、清算を終えたコーラルがギルドから出てくると

布袋に入った報酬をクレイへと手渡す。


そうして臨時で組んでいた冒険者たちとはそこで別れることになっていたのか、

クレイとコーラル以外はおもむろに町へと歩き出していく。


「銀貨5枚、一人頭ならこんなもんか」


クレイがそうつぶやく報酬の中身はコーラルが受け取ったものの半分。


いつも彼らはこうして半分にしているのだった。


どちらかで完全に管理をせず、分けて持ち合う。


そこには仮にどちらかが倒れ、あるいは見捨てることになっても

後を生き抜けるようにという、冒険者らしい配慮があった。


口にそれを出すことも無く、報酬を受け取ったクレイはファクトに向き直る。


「そういえば、ファクトはやっぱりここで武具を作ってるのか?」


「ああ。今日はちょっと違うんだけどな」


ちらりと自分の横や後ろにいるキャニーら女性陣に視線を向けるファクト。


その視線をどう思ったのか、コーラルは大きなため息をつく。


「ファクトさんはジェームズみたいにいい加減じゃないと思ってたのに。

 女の人がなんで倍になってるんですか?」


「え? いやいや、こっちの2人は違うって。なあ、本当だって」


誤解から生まれる、思春期の少女による冷たい視線。


それはファクトにとっても効果は抜群で、妙な冷や汗まで出てくる始末だ。


「知りません! もう、次の依頼を探しましょ!」


コーラルはファクトの言い訳にもならなそうな台詞に背を向け、

クレイの手を引っ張ってギルドの中に向かい始める。


「だからさ、確かにこの2人は俺の、将来の伴侶だけど

 もう2人は違うんだって」


「うんうん。今はそうよね」


「そうそう、未来は誰にもわからないんだけどさ」


歩きながら、コーラルに弁明の言葉を投げかけるファクトだが、

後ろからついてくる姉妹によりそれも台無しになる。


何を言ってるんだ!?というファクトの無言の叫びも

場の空気に飲まれてしまう。


「よろしいのですか? こちらも男女の仲だと思われていそうですが」


「大丈夫です。そうなったらそうなったで面白いです」


一応身分は隠しているためか、姫、とは人前では口に出さないクリュエルの問いかけに、

シルフィは姉と同じ、良い笑みを浮かべてファクトについていく。


やはり実体験というのは何事にも変えがたい。


そう思いながらファクトについていくシルフィの姿は、

若き日の父親と、その冒険についていっていた母親のそれと、

ダブって見えることを知る人間はこの場にはいない……。





敢えて地の文を変えて書いてみています。

どっちがいいのかはわかりませんが……。


そのうち既投稿分も直すかもしれません。

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