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83「空を求めて-3」

最近まともな形で鍛冶職人をさせてあげれていません。

かといってどこかで武具ばかり作っていると冒険は進まず。


少々悩み中。


12/10/10:投稿直後ですが1部修正


そこは戦場だった。


命と命がぶつかり合う、生き残りをかけた戦い。


ただ1つ歪なのは、片方の陣営にはおおよそ

個の意識というものが感じられないということだ。


(まるでプレイヤーとNPCとの戦いのようだ……)


空中から、状況をうかがっていた俺たちの視線の先で、

謎の狼との戦いは既に始まっていた。


「狼のほうが不利……だよねえ?」


「でも何か変な感じ」


2人の言うように、今見える範囲では狼は押されている様子で、

時々ヒポグリフやグリフォンの爪に切り裂かれ、その身を横たえている。


このままなら後からゆっくり合流する方向でもいいか?と思ったときだった。


直感と呼ぶにはおかしな、肩を叩かれたような感覚に思わずそちらを向く。


視線の先では、後衛となるヒポグリフの横合い、

既に何もいないはずの大きな枯れ木の根元。


地面から何かもやのようなものがまるで泉が沸き立つように出てくるのが見えた。


「! 左手前、枯れ木の根元だ! 頼む!」


俺の声に答え、グリフォンが風の魔法をまといながら勢い良く急降下していく。


沸き立った何かは良くわからない塊から魔方陣のようなものに変化し、

何かが這い出すように出てくる。


状況的には答えは1つ。


『~~~っ!!』


鳥類とも、猛獣とも思える叫びとともに、グリフォンは

勢いそのまま、陣から出てきた何か、その正体である狼に向けて爪を突き出す。


はじけるように、狼は吹き飛んで四散した。


ブレーキ代わりに地面に接したグリフォンが土煙を上げ、

俺達はつんのめるようにしてグリフォンの体につかまる。


そして俺達はヒポグリフやグリフォンのいる中に降り立ったのだった。






『人間が何故ここにいる! ジャルダン、貴様もだ!』


グリフォン達の中央にいた、一際大きな一頭が俺たちを見つけるや否や駆け寄り、

頭に響く声でそう怒鳴った。


ジャルダンとはこの若いグリフォンの名前なのだろう。


ジャルダンは甲高い声を上げ、リーダー格の相手に

話しかけるようにしている。


俺たちにはわからない言葉で会話をしているようで、

1分にも満たないだろう時間の後、リーダー格のグリフォンがこちらを見た。


『大体はわかった。だが何故ここにきた? おとなしく待っていればよかろうに』


言外に、これは自分たちの問題だと言っていることに気がつき、

グリフォンがただのモンスターでないことを改めて感じる。


であるならば、こちらも相応の態度で動かなければならない。


「そんなに大した理由じゃないさ。力を借りるなら何かをしたほうがいいと思ったし、

 それにだ……」


言葉をそこで切り、俺はスカーレットホーンを鞘から抜いて、

周囲の動揺の気配をよそに、直前まで何もいなかった地面に飛び掛った。


空中で感じたものと同じものをそこに感じたのだが、

説明する暇は無かった。


1秒に満たないであろうその間に、再び湧き出ようとしていた狼の

顔へと剣先が沈み込む。


まるで顔だけのオブジェが地面に置かれているような状態で

狼は顔を貫かれ、肉を切っている感触とはどうも違うものを手に残し、

そのまま溶けるように狼の体は崩壊する。


『む! 陣の中にまで……結界が弱っているぞ! かけなおせ!』


リーダー格の声に答え、うっすらと金色の光が周囲を覆い始め、

先ほどまでなんとなく漂っていたプレッシャーが減る。


「便利な足として力を借りようとしてる立場だからな。このぐらいは必要だろう?」


俺に注がれるリーダー格の視線を受け止めながら、

俺は自身の目的を下手に隠さずにそう口に出した。


『……人間の我らへの目的など、大体そのようなものだ。

 今更という物よ。まあ、口に出したのだ。勝手に死なぬようにな』


「ああ。勿論だ」


一緒に戦うことを認めてくれたリーダー格のグリフォンに笑みを返し、

後ろに連れ立っているキャニーたちと頷きあう。


どうも何かの都合か、狼の出てくる予兆のようなものは

俺にしか見えていないようだ。


しっかりと出てきた後であればみんなにも見えているとは思うのだが……。


『50も倒せばまたどこかに行くだろうよ』


リーダー格はそれだけを言い残し、自らも前線に向けてか

地面を力強く蹴って群れに飛び込んでいった。


「俺たちも行くか。あんまり丈夫ではないみたいだな」


「そうね。でも、なんか……普通じゃないよね?」


「……まずは倒してから」


ミリーのもっともな指摘に頷き、

ジャルダンをつれて、3人で森に飛び込む。




「この感じ……どこかで?」


都合4匹目の狼を貫いた後、俺はどこかで感じた覚えのある気配に

首をかしげていた。


視線の先では地面に油をこぼしたときのような嫌な染み。


「来た!」


気配とともに茂みから狼が飛び掛ってくるのを、

スカーレットホーンを横にしてガードする。


牙と剣がぶつかり、大きな音を立て、

俺は半歩ほど狼の体当たりに押し込まれていた。


「さっきまでいなかったのに!」


叫びとともに振るわれた2人のアイスコフィンが、2つの氷柱を生み出して狼を突き刺した。


狼は声も出さず、荒い息だけが聞こえる。


「……血が出てこない」


氷柱が刺さった狼の姿にミリーがつぶやき、

俺も周囲をうかがいながらその狼の姿を見る。


この様子、確かどこかで……。


「ユーミ?」


『……』


嫌な予感に従い、声をかけてみる。


が、ユーミは呼びかけに小さな姿で肩に出てくるも、

目を閉じたまま何かに集中している。


周囲ではヒポグリフとグリフォンの鳴き声に加え、

恐らくは風の魔法が地面をえぐる音、

そして狼のよどんだ咆哮が響く。


『キュルルルル……』


ジャルダンの声に顔を上げれば、少し木々が途切れた広場のような場所に

いくつもの紫色の淀み。


「グリフォンたちが苦戦していたのはこれが理由なのね。

 倒しても倒しても……きりが無いわ」


「まずは倒しながら怪しいほうへ行ってみるか」


俺はそう答え、駆け出したグリフォンに追いすがるようにして走る。


武器生成C(クリエイトウェポン)!」


空いた左手に無造作にフィールドからの武器を作り出す。


手にした槍は木目調の物。


ブッシュスピアという名前と性能をほとんど見ないまま、

けん制としてそれを前方に投げつける。


さすがに正面からは狼も馬鹿ではないようで、

余裕を持って回避されるのが見えた。


『っ!』


が、横合いを通り過ぎるかというときに、

意思を持って目の前の空間を風が吹き、槍の軌道が変わる。


丁度狼の後ろ足の付け根付近を、矛先を変えた槍が回避する間も与えず貫いた。


(なるほどな。ああいうやり方もあるのか)


俺がそう考える間にも、さらにジャルダンは

動きを止めたその狼に向けて爪を突き出し、貫いた。


狼の体に対して、ジャルダンの爪は1本1本が狼の足ほどもある。


そのまま分断される勢いで狼は新たな染みとなった。


「毛皮ぐらい残しなさいってのよね!」


丁度狼と俺たちの間に入り込んだ形のジャルダンの背にキャニーが飛び乗り、

大きく跳躍して空中から真下の狼へと落下し、口をあけて

迎撃しようとしていたその顔ごと手にしたダガーが貫いた。


「ミリーも1匹、か。思ったより動きが遅いな……」


俺はこれまでの戦果に、疑問を抱いていた。


あまりにも、狼の手ごたえが無さ過ぎる。


『まだ生きていたか』


響いた声に振り向けば、リーダー格のグリフォンがこちらへと歩み寄るところだった。


「なんとかな。ところで、いつもこうなのか?」


言外に、疑問をぶつけてみると、グリフォンの表情が変わったような気がした。


『わからぬ……これまでであれば、やつ等はもっと力強く、狡猾であったのだ。

 それがどうした。今回はまるでただの獣だ』


そう伝えて首を何度も振るグリフォン。


やはり、何か理由があるのだ。


その原因はずっと肩で何かに集中しているユーミにある気がした。


「なあ、この辺りに変な泉だとか、遺跡みたいなのはないか?

 あるいは、狼の攻撃が妙に集中してくる場所とか」


俺はこの状況にとあることを思い出していた。


肉体のあるモンスターとは思えない姿、そして倒した後の現象。


いつか地下の遺跡で見たスライムたちに良く似ている。


その原因を考えると、この狼の源も……。


『ああ、あるぞ。北西に小さな遺跡がある。昔より風の精霊が集う場所だ。

 我らの聖地でもある。それがどうし……まさか、そこに奴らの根元がいると?』


さすがにグリフォンだ。この狼が普通の相手ではないことには気がついていたようだ。


「かもしれないってだけさ。その様子だと、これまでは何もなかったんだろう?」


『無論だ。以前そこに行った時には普段どおりだった。

 だが……我らには見えぬだけやもしれぬ。よし……』


俺との会話で何かを決心したのかグリフォンは大きく吼え、周囲からヒポグリフや

グリフォンたちが集まってくる。


「……壮観」


「まったくね」


周囲を囲む30頭は越えようかという魔獣と呼ぶべき羽のある者達の姿に、

俺達は圧倒されていた。


『彼らを一度聖地に連れて行く! 行くぞ!』


大きくグリフォンが羽を広げ、詠唱らしき声が聞こえた途端、

集団を濃密な風が包み込み、一瞬にして俺達は浮き上がった。


「くっ! 集団移動用の範囲魔法かっ!」


力強い、しかし自分の体の自由が利かないという状況に

慌ててなんとかバランスをとろうとする俺。


この現象には覚えがある。


MDではプレイヤーには使えない、NPC側専用魔法、ウイングロード。


短い距離ながら、範囲内の味方をまるで虹の橋のように

風の流れがアーチを描く中、移動させるものだ。


1分にも満たない時間の後、俺達はグリフォンたちと一緒に、

上空からは雲のようなものがかかっていた場所へと飛び込んでいた。


『なんということだ……』


リーダー格のグリフォンが呆然とつぶやく。


俺たちの視線の先で、石積みの遺跡が何かのオーラに覆われていた。


遺跡は地球にあるストーンヘンジにも見える、法則性を持った物だった。


グリフォン達の巣になるようなものではなかったが、

そこには何かに汚染されているように見える今でも、

その特殊な空気を感じさせた。


『あれが原因よ。まったく、ほとんど飲み込まれてて、

 あの子の意識を捕まえるだけで精一杯だわ』


ずっと瞳を閉じたままだったユーミが唐突につぶやき、

大きくため息をついた。


『偉大なる祖に連なる方よ。あれは何なのだ?』


ユーミが見えるようになったのか、リーダー格のグリフォンが

恭しくという様子で問いかけてくる。


『詳細はわからないわ。でも、アレはいけないものよ。

 そうね、いうなれば世界への恨み辛み、そんなものかしら。

 どうも、空を飛ぶものへの怨嗟が凝縮された感じね』


ユーミの声に反応するかのように、視線の先でオーラが脈動し、

何かの形をとってくる。


「何……あれ」


「……巨大化?」


視線の先で、ついにその形が見覚えのあるものになる。


それは狼。


ただし、その大きさは異常だ。


遺跡までの距離は500メートルはあるだろう。


だがここからでもわかるその大きさは確実にグリフォン以上。


いつぞやのレッドドラゴンをも超えそうな大きさ。


そんな規格外の巨体を1部実体化させた狼が吼える。


今のところ上半身が出来上がっているといったところか。


『さっきまでの相手が手ごたえがないというのは、これのためね。

 確実に消すなら、完全に実体化してからじゃないとまた拡散してしまうわ。

 ただ、下手に私が手を出すと反発がひどいと思うわ。

 なんとか周囲には広がらないようにするけど……』


言葉を濁す肩のユーミを左手でそっとつつく。


なんのことはない。


どうしたところでやることは1つ。


アイツを倒すだけだ。


『人間よ。ここは我らが行こう』


力のこもった声。


それは自分たちの聖地を汚された怒りからか?


それとも、生きるものとしての意地か。


だが、なんにしても自分たちで行こうというのは……。


「そうはいかないわ。おとなしくなんてしてられないもの」


「……共闘。敵は同じ」


「台詞はとられてしまったが、そういうわけだ」


俺は横にわざわざ出てきたリーダー格のグリフォンの目を見ながら、

スカーレットホーンを狼に突きつけつつそういった。


『後悔するぞ。人間よ』


狼はまだ完全に実体化していない。


それを確認した俺は再び口を開く。


「後悔しない生き方なんてありゃしないさ。それに……ただの人間じゃない」


グリフォンの返事を待たず、周囲に陣取ったほかのグリフォンやヒポグリフたちを

見渡し、意識を集中する。


今からやることは人間相手と同じ。


作るものの種類が同じなだけ、どちらかといえばイメージしやすい。


武器生成B・複マス・クリエイトウェポン!!」


フィールドの、まだ無事な精霊や素材の力を借りて俺の叫びが周囲に響く。


わずかな光の後、グリフォン達の爪先には同じ意匠の金属爪が装着されていた。


「俺の名前はファクト。ちょっとばかし不思議な鍛冶職人さ」


『……おかしな人間もいたものだ。どこからか生み出すなど、

 昔語りに聞いた古代の魔法のようにしか見えぬな。

 ……まあいい、我が名はグリンヴェル。

 どうやら奴も準備が出来たようだぞ』


グリンヴェルの声に前を向けば、ほぼ実体化を果たした狼の姿。


言い換えれば、滅ぼすべき力がすべて集まった姿。


あいつを倒せば終わるのだ。



先ほどの物とは比べ物にならない、力ある狼の咆哮が周囲に響き渡り、

戦いが始まった。

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