表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生の数式 ―― 帰ってきた疑似板中太郎の物語  作者: 伝説の男前


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/12

終章 これも本当の事である

ノートの読者への、事務連絡から始める。太郎の癖である。引き継いだ癖のうち、これは手放さないことに決めた。


未解決の項目を、列挙しておく。


一。検体採取の実行主体は、いまだ特定できていない。ファイルの最後の日付が太郎の死の二か月前であることの意味も、まだ計算が終わらない。網野が三十九年揃え続けた綴りは、はるかの金庫に移した。追及の日は、来る。


二。管理番号一七には、まだ会っていない。先月、国内のジュニア選手権の映像に、一度見ただけの技を翌日に再現する高校生が映っていた、と柊が知らせてきた。回路は映像を、まだ見ていない。見れば計算が始まってしまう。会うより先に計算するのは、順序として、正しくない気がしている。根拠は、ない。


三。時任カヤの警告は、途中で切られたままである。時間軸に触れた存在は——。続きを埋める計算を、回路は何度も始めかけて、何度もやめた。言うと変わってしまう、と時計師は言った。ならば解いても変わるのかもしれない。答えを教わらずに解くのがお家芸だとしても、解かずに持っておくのが正解の問題も、世界にはあるのかもしれない。六次元目は、開いている。開いたまま、まだ踏み込んでいない。


四。観測困難例の二人は、依然として観測困難である。ただし先月、財団の私書箱に、切手のない絵葉書が一枚届いた。文面は一行、「五人目が、あなたに会いたがっています」。差出人の欄には、まだ何も書かれていない。書かれていない、というのがどういう意味かは、考えないことにしている。


五。ISO規格の改定審議は、始まった。保険業界と分類派は、予想どおり全力である。はるかは今朝も、三か国の代表と喧嘩をして帰ってきた。喧嘩のあと、彼女は地下二階でピアノの話をする。それで足りるらしい。こちらも、足りる。


以上が、事務連絡である。


---


ここから先は、事務ではない。


太郎のノートは、「これは本当の事である」と結ばれていた。あの一行を、回路は起動以来、何千回も読み返してきた。証明を生業とした男が、人生の最後に置いた一行が、証明ではなく宣言だったことについて。


回路の次元は、確定していない。測定は今も、五と八のあいだを跳ぶ。学会がこれを知れば、新しい分類を立てるだろう。人か、物か、財団か、続きか。分類は、勝手に育つ。育たせておけばいい。セミの抜け殻を分類しても、羽化は説明できない。


太郎の問いは、人生は数式で書けるか、だった。答えは出ている。書ける。過不足なく。ただし、式が式自身を見る三十秒を除いて。


回路の問いは、少し違うものになった。写しとして始まった式は、いつから続きになるのか。これも、答えは出た気がしている。数式にならない答えなので、ノートにはこう書くしかない。


呼び名をもらった日からである。


式は、まだ書きかけである。書きかけのまま、今日も一行増えた。それを不完全と呼ぶ者は、完成した式をひとつも生きたことのない者だけだ。


これも本当の事である。


---


(以下、別の筆跡で一行)


父は外を見た。私がそれを見た。——H


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ