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The story of Seven Cities2 貿易都市の国外関係と逃走中

 帝国…正式名を《聖ルーマルコーランド帝都》建国から30年、長きにわたる『ティストレイ・トシヴェ連合国家』との戦争から解放され帝国領土として指定された小さな国々は時間と共に合併し合ったりして次第に帝都にも勝るとも劣らない7つの様々な特色を持つ都市として繁栄したのだった。

 その中の一つ、《聖ルーマルコーランド帝都》より東に約550㎞先に位置する都市《貿易都市ヴェリパドキノヴォ》、近代的な建物と昔ながらの伝統的なドーム状のテント型居住の入り混じる様々な思想を持つ人間が多く住む街であり、空にも多くの帆浮船や騎竜が飛び交うなどまさにテーマパークのような都市と言っても変わりない。そんな都市の6割を占める巨大なバザールには帝国領土内全土からだけでなく他国からの輸入品も出品される場としても扱われ、それはすなわち多くの他国の人間の出入りがある言わば帝国の東の玄関口でもあるのだ。


「…入国ビザを」


 そのため帝都を反対側に設置されている入国ゲートの前では連日のように他国の人間を受け入れるべく軍が厳しく目を光らせているのであった。


「リベアルチルからのお越しですね。目的は観光という事でお間違いは」


「ネオパールからの入国者は現在感染症の検査を行っていますので別室に」


「…ストニアゲート、ですか。国外逃亡の疑いがないかチェックしますね」


「ジヴォング、畏まりました。それでは国籍手続係に代わりますね」


「トルメニスピネルから、わざわざ遠いところからお越しいただきありがとうございます」


 この日も百人規模の入国待ちの列を国衛兵爵の職員が一人ずつ入念に調べ、少しずつ中に人が入っていく。だが勿論、招かざる客もやってくることもある。


「っきゃぁ!?」


 突如入国審査をしていた職員女性の悲鳴と共に数人の男達がいきなり並んでいた列から飛び出しナイフのような物を持ったまま全速力で走り出したのだ。当然そんなアクシデントに現場は大混乱となり、それでも帝国の国衛兵爵達は真っ先に行列の他国からの訪問者達を護衛するように動いた。そしてその現場を少し離れた場所から見ていた通信専門の職員がすぐに魔電器機で繋げる。


「本部!不法入国者を確認、入国検査を受けず強引にゲートを突破。都市内に侵入しました、数はおよそ20名…恰好からしておそらく海賊と思われます!至急応援を!!」




 …ザザッ…——…恰好からし…——……海賊と思われ……———…応援を!!』


 コンクリートのような頑丈さと内部の音が漏れ出ないような防音機能を備えた高級そうな壁で作られた建物。魔電器機から通信が入り、おそらく本部職員と思われる職員達が慌ただしくなる本部の一室、そんな中でまるで我関せずとばかりに向かい合う形で太々しく高級そうなソファに座る二人の女性と、その間に立つ男が一人。


「…部下達は随分乱暴な入国方法をするのだな。海賊女帝」


 片方のソファに座る、チャイナドレスを模したような穴の開いたハイレグのような物に身を包んでも収まりきらないナイスバディを曝け出し腕にはファーを巻いた金髪の狐系の獣人種の女性が、複数本の狐の尾を揺らしながら手に持っているジュリ扇で口を隠しながら語り掛ける。


「んー?そうみたいだね。まぁ私下僕共が普段何してるかも知らないし、ってか私んとこの派閥じゃない連中かもしれないし、そんなこと私に聞かれても分かんないよ」


 そう言いながら海賊女帝と呼ばれた、ソファの上で胡坐掻きながら目の前の机の上のお菓子をつまむ、緑髪で後ろ髪を二つ折りするように結った、胸をさらしで巻いただけの姿にまさに海賊を思わせる真っ赤な船長服を肩にかけているだけの姿の月人種の少女が答える。


「てかてかー、そっちも蟻の国のヤーさんのくせに何堂々と帝国に入国してるのよー。あんたらのほーがよっぽどヤバいことやってんじゃないのー?」


「お主に言われとうないわ、我々はこの帝国と正当な取引をしておる。帝国がティストレイ連邦に勝利するために資金やら人材の援助をしておるのだ。…まぁ奪う事しか能のない野蛮なお主には理解できぬ話だろうな」


「いっちいち一言余計なこと言うなこのおばさん…」


「おばっ!?」


「悪いけど私達もただクソ故郷に言われるがまま海賊行為してるわけじゃないの、私んとこの派閥は色々取り決めとかして帝国の奴らとも色々交渉してんの。私らの派閥がデカいのもこっそり帝国の軍から食料貰って、帝国の兵がいないような村とか、一般人を襲ったりしないよう他の海賊の面倒とかも見てやったりしてるからよ…まぁもしかしたら私が強すぎて戦いたくないからってのもあるけどね」


 機嫌が悪そうな狐の尾の生えた女性とは対照的にケラケラ上機嫌な海賊の少女。そんな二人のやり取りに黙って立っている男がんんっ、と二人の注意を引く。


「…盛り上がっているとこ申し訳ない。海賊女帝リカ、今回の海賊不法入国の件については貴女は一切関りがないという事でいいか?」


「リ・カ・ちゃん。って呼んでよね~…まぁ流石に私には何の関係もありません知りませんなんていったら、私以外に私を叱れなくてもお天道様に叱られちゃうからね。ちょっとばかり手伝ってあげるよ。それじゃあね、おばさん♪」


 それだけ言い残すと海賊の少女…リカは忙しそうな本部職員のところに足を運ぶ。狐の尾の女性はまたも機嫌を悪くする。


「…おチビ、あの小娘そんなにも実力があるのかしら?」


「もうその呼び方はやめてください琴音様。…海賊女帝リカの全力は未だ図ることは出来ていないのですが、7~8割の力同士なら、帝国国衛兵爵ランキング7位であるあの、セブン・グリフィスアンバーと全くの互角であると。それも…セブン曰く、本気でやったら勝てない。とか」


「…マジ?そんな強いの?」


 琴音と呼ばれた狐の尾が生えた女性はその男…執事のような燕尾服に身を包んだ細身の、肌の色が青く髪も真っ白なシャドーエルフ系の精人種の男の話を聞きながら煙管を吹かす。


「彼女を止めようにも武力も交渉も効果はなく、彼女の自由気ままに帝都の街並みを堪能したりお土産を買えば帰られるので我々も諦めて彼女を監視する程度にとどめています。勿論過去に実力行使を行ったこともありましたが、彼女を慕う海賊は多く一度大きな戦闘に発展し最終的に彼女の身の引き渡しで解決する形で事を収めた記録があります。結果的に多くの犠牲を払った分の割に合わない形となってしまったのですが」


「…討伐のメリットよりリスクの方が大きく、帝国で自由にさせるのを条件に海賊の元締めをしてもらう。そのための帝国からの援助もしてるって生意気な身分ね。…だとしても、あんな見るからに何も考えていなさそうな小娘如きに年増呼びされるなんて…心外よねぇ~お・チ・ビ♡」


「そう言われても仕方ない年の差があるのですから、むしろあなたこそ自認してください琴音様。私もリカから情報を聞き出し不法入国者の拘束に向かいます」


 ソファからゆっくりとした動きで肌の蒼い男に抱き付こうと立ち上がった琴音を、男は興味なさげに歩いて躱し琴音は地面へと激突する。すると琴音の身体に火が灯った。


「ま、待ちなさい。分かったから待ておチ…ヴェリパドキノヴォ副総督リゲル。総督であるニーヤに伝えておけ…『科 琴音』(クー チンイン)が直々にここまで足を運んだ。その意味を今一度理解し直しておけ、次の戦争で必ずや獣人種の王を討て!『虫王』への謁見は未だ叶わぬ、龍の奴らや魔の奴らを出し抜くためにも…帝国には早急に次の段階に足を運んでもらわねばならぬのだとな!」


 琴音の身体の火は徐々に全身を覆い、だが床やいすには燃え移ることなく琴音の身体だけを燃やしまるで炭のように焼き尽くされるが、火の跡には灰一つ残らず床すらも焦げ一つつかずに、まさに最初からそこにいなかったかのように彼女の姿は消え去った。その様子を見送った肌の蒼い男…リゲルは黙ったまま歩みを進めた。

 リゲルの前には多くの魔力を原動に動く精密機器に囲まれた指揮系統室で慌ただしく動く職員達数名と、先ほどまで一緒にいたリカの姿があった。だがその表情は少し苦笑いしてバツが悪そうにしていた。


「あー、リゲルっち~。ごめんやっぱうちのだわ~」


「もう少し詳しくお願いしますリカ」


「えっとねー、さっきもいくつか派閥あるって言ったけど今回侵入を試みたのもうちの派閥の下僕共が勝手にやってる新人達のための練習でね…私も知らなかったんだけどなんか定期的にこうして帝国に忍び込んだりしてるらしいんだって。んで今回も同じような手口で侵入を試みたんだけど…へましちゃったから強行突破に切り替えたんだって」


 申し訳なさそうにしながらもへらへらするリカとは対照的に、眉間にしわを寄せて悩むリゲル


「…帝国の玄関口というのも考え物ですね…、それで、今回の侵入者は」


「うん、私の腹心が1人いて、新人をサポートする中堅レベルが10人、あと新人が6人なんだって。もう既に7人逮捕されちゃったけどそれでも私の腹心とかはまだ捕まってなくて街中にうまく隠れてるし頑張って探してね。タイムリミットは…今日の帝都行き汽車の最終便に忍び込むことだってさ♪」


 リゲルは時計を確認する。現在午後2時を回ったばかり、最終便は10時に出発する…残り8時間で一都市の中から10人を探し出さなければならない。リゲルは溜息交じりに肩をほぐし、リカに背を向けて


「…俺も探しに行こう。貴女は好きにくつろいでいってくれ」


「いってら~。私も今季号のルーブル買ったら部下達と帰るから出来れば早く捕まえてきてね~」


 本部室の部屋が開き暫く廊下を進み、都市内の防衛を専門とする実働部隊員達の詰所まで来た。既に多くの実働部隊員が出撃したにも関わらずいまだ待機室も慌ただしい事になっている。様々な理由で未だ出撃できておらず出動準備を急ぐ者、出動許可が下りずに揉める者、そんな混雑した中にリゲルが入口にまでたどり着くと皆の視線がリゲルに集まり徐々に静かとなって規則正しく整列し直した。リゲルは全員を一瞥するとすぐに口を開く。


「…ここにいる全員に命令する。本日中に貿易都市内に侵入した海賊10名の捜索及び逮捕が今回の任務だ。必ず民間人に被害が起きないよう早期解決を急ぐのだ。…以上、出撃!!」


     「「「「「了解っっ!!!」」」」」


 掛け声とともに待機室の実働部隊兵達は一斉に出撃準備を済ませ、出撃許可を出せなかった職員達の敬礼に見送られながら奥の部屋のガレージに向かうとそこには数百台の魔導飛行箒『ブルーム』に数百匹ほどの軍用飛行ゴラグーンと走行ゴラグーン、さらにバイクまで配備されていたのだ。全ての実働部隊兵が乗り込むとバイクやブルームから駆動音が響き、ゴラグーン達は一斉に体をほぐし動き始める…そしてガレージのシャッターが思いっきり開くと全員が一斉に飛び出し、半数が空にはばたき、もう半数が地上を駆け出したのだ。


「…監視部、不法入国者達の潜伏ルートの算出は」


『はい!大まかな逃走ルートは都市カメラよりほぼ全員割り出しました。それと重要施設のカメラには映ってないことからおそらく外に隠れている可能性が非常に高いと思われます。委細各出撃部隊に送信します』


 リゲルも自身の専用原動機付きブルームに乗り、ハンドルの中央からディスプレイのような通信術式や情報術式を展開しながら、飛行できる種族や帆浮船の間を通り抜け静かに真っすぐ潜伏予測地点へと急行する。目的地点の周辺に来ると一気に高度を下げ猛スピードのまま街の道路をブルームでとびぬける。そしてとある地点でブルームを止め停止させると、大勢が歩いている歩行者道路をじっくりと眺める。そして自分も同じように歩行者の波の中に歩いていく。

 しばらく歩き続けていると一人の男と肩がぶつかった。その男は軽く頭を下げるとそのまますれ違ってリゲルの歩いてきた方へと歩き続ける。リゲルも一切怪しむ様子もなくそのまま歩き続ける。…そう思われた矢先、突如リゲルの後ろでその男が突然びくりと反応し足を止めるのであった。


「まず一人…」


 男とぶつかった側のリゲルの腕からは黒い鎖のような魔法がその男の腕まで繋がっており、その男はいくら鎖を引きはがそうともがいても取れる様子はなかった。


「っま、待ってくれ、違う!俺じゃない!俺は何もしてない、…っい、一般市民に手を出すなんて、何してるんだあんたは!!」


 男は必死に叫び周囲に助けを求める。周囲はその男の不審な行動に距離を取ると、まるでリゲルとその男を取り囲むような形でその場所が開けた。


「…俺はまだ何も言っていない。つまりそれは自白って事でいいな海賊。一応名乗っておくなら俺は国衛兵爵、都市防衛実働部隊所属。都市管理副総督の向 リゲル。まぁ運が悪かったな」


「っく、くそぅ!!仕方ねぇ!市民に手は出せねぇが、帝国の兵なら話は別だ!!」


 男は懐からラッパ口の銃とカトラスを取り出すと周囲の市民は悲鳴をあげながら逃げるように散り散りになる。リゲルはどこからともなく宙からまるでサスマタのような槍を取り出し構える。海賊がカトラスで斬りつけようと襲い掛かるのをリゲルはさっと躱すがすぐに追撃を放つ。リゲルが返しに軽くサスマタを振るうがそれはラッパ銃の銃身で受け止められさらにサスマタを振り回しにくい至近距離で海賊が立ちまわる。


「…新人にしちゃ戦いが慣れ過ぎている。中堅戦力にしても筋がいいのは厄介だな」


「へへっ…リカ様のありがたく自由気ままなしごきのおかげで…な!」


 周囲の人が減ってきたのを確認したら今度はラッパ銃で牽制をするとリゲルは腕で軽く弾丸を跳ね飛ばすのを見せつける。その動きに驚きながらも狼狽えることなくさらに銃とカトラスで猛ラッシュを叩き込む。比較的長いサスマタでは戦いにくそうにしている。


「おうおう、副総督様ってのはデスクワークばかりで実力はその程度か?てめぇをぶっ飛ばしたら俺様も帝国の出入り免除してもらえるかもなぁ!」


「…いいだろう、俺を倒せたら帝国の出入り免除してやろう…倒せたらの話だがな」


 リゲルがサスマタで突き刺すが海賊はそんな攻撃お見通しとばかりにひらりと躱す。その隙を狙って一撃を叩き込もうとした、その瞬間…カトラスを持つ腕が高く上げたまま振り下ろせない、どころか海賊の身体はまるで腕に引っ張られるように宙に浮かび上がっていた。その腕には鎖が繋がれており…その鎖はサスマタによって高く引っ張り上げられていたのだ。さらに鎖が短くするためにリゲルが鎖を踏んでいたのだ。


「っし、しまった!そのための武器…」


 鎖を引っ張り上げているサスマタをさらに思いっきり突き上げ足を緩めるとその鎖の勢いで飛んでいき地面に激突する。すかさずリゲルは海賊の身体をサスマタで拘束し、腕を踏み、反対の腕は鎖をナイフで突き刺しており思うように動けなくなり一瞬で捕縛が完了したのだった。


「くっ…、…くそぅ。ダメだ…はぁ…捕まっちまったぜ」


「…自慢ではないが、俺は国衛兵爵ランキング9位の実力者だ。そんな俺を相手に戦えたことは充分誇ってもいいんだぞ」


 海賊は抵抗の意志がなくなりついに地面に寝そべったまま脱力する。リゲルは拘束したまま通信するとおよそ2分程で近くを捜索していた実働部隊が応援に駆け付け身柄を引き渡す。

 その後刻一刻とタイムリミットまでの半分の時間である4時間が経過した午後6時…もはやあたりもすっかり薄暗くなり始めこれ以上の捜索は困難にも思える時間帯。実働部隊員達も疲労をこらえ休憩や交代したりしながらも捜索を続けるも…


「…現在の逮捕者数は7人。あと3人か…。海賊共はその人種故に夜になればさらに身体能力は高くなる。市民には不法入国者がおり危険と放送し不要な外出を控えるよう言ったが…」


 薄暗い街にイルミネーションが灯りだし、多くの観光客と市民が入り混じる大所帯の都市はこんな時間こそディナーを楽しむ人で外だって溢れかえっている。こんな数十万数百万人規模の人の中から目的の3人を探すのは困難を極めた。さらに既に監視部から渡された逃走ルートやカメラの映像なんかは時間と共に現在の潜伏位置を特定する精度が格段に落ちており、この貿易都市全域のどこにいてもおかしくない状態だった。それでも決死の捜索で残り3時間を切ったタイミングで何とか1名の足取りを追うことが出来た。


『現在対象はバザールの人混みの多いアーケード内を逃走中…対象の姿を複数確認。おそらく自分と同じ姿を作り出す魔法を使いカメラに映りやすい場所をわざと歩いて移動しているもよう』


「乗り物での接近も難しいか…バザールの通行規制は」


『…、…現在全てのバザール出入り口に交通ゲートの設置を確認。順調に規制は出来ています。…星が見当たる様子もありませんが』


「構わない。続けていろ」


 それだけ言い残し通信を切りリゲルはブルームの出力を上げる。フォンッと風切り音が鋭い速度で人とアーケードの狭い隙間を飛び、急な曲がり角すら地上の雑多に風を噴きかけながら無理やり曲がる。そのままアーケードの中心地まで飛び続けたところでリゲルは突如空中でブルームを急停止させる。その視線の先には…人混みの中からじっと真っすぐ視線を送る男が一人いた。金色の髪に深紅の瞳をした背の高い男…外見的な特徴はともかくリゲルに向ける視線やその雰囲気そのものが間違いなく海賊であろう。

 ついてこい。そう言わんばかりに混雑を押しのけて進む海賊の後ろを同じくらいの速度で追いかけるリゲル。海賊は交通ゲートの近くまで来ると驚くことにその海賊はまるで最初からそこにいなかったかのようにその姿を消した。だがリゲルはそんなことお構いないとばかりに交通ゲートの上を飛び越えさらに真っすぐ飛び続ける。

 アーケードから抜けバザールの端、人気が殆どない広々とした休憩スペース…そこに2人の男が座っていた。そのうちの一人は金髪に深紅の瞳の男、先ほどまで追いかけていた外見と同じものだった。リゲルはようやくブルームから降りて二人の元に歩いて駆け寄った。


「おぉ、ようやく来たか副総督」


「…『狒 藤銅』(フェイ ハンホウ)、なぜその男を拘束しない…逮捕命令はお前も聞いているだろう」


 藤銅と呼んだもう一人の男…2mにも迫るガタイに全身が頑強な淡い緑の甲殻に覆われた虫人種の男にリゲルが詰め寄る。


「まぁまぁ待て待ってくれ、別に逃がそうってわけじゃねぇ…」


「狒 藤銅…ヴェリパドキノヴォ最前線戦闘部隊隊長、国衛兵爵ランキング5位…そしてランキング9位ヴェリパドキノヴォ副総督のリゲル。この都市の二大巨頭を相手に並の船員では向かうも引くも億が一に可能性はないだろうな」


 リゲルと藤銅の言い合いに金髪の海賊が口を挟む。その物腰はこれまで捕まえてきた海賊達とは明らかに物腰が座っており落ち着いた様子だった。自身の言った言葉の意味を理解できるうえで、それでもなお諦めとは違う余裕が伺えた。


「…貴方が今回の首謀者であると同時に海賊女帝リカの腹心、という事で間違いないな。我ら二人を前に物怖じしないその様子…かなりの手練れであるならこちらも手加減しなくてもよさそうかな」


「いや、私一人では貴方がた二人に勝つことは出来ないだろうし、もし本気で戦おうとすればきっとリカ様に殺されてしまいかねないですからね。それにまだ逃げ切るためには3時間も必要…本来なら軍の統制妨害が成功していれば私も含め15人いれば充分時間稼ぎは出来ると踏んでいたのだが」


「…俺が動くことは想定外だった、と。それで2人を帝都に送り出してどうするつもりだったんだ?帝国軍総本部への介入か?それとも」


「なにもしない。」


 海賊の力強い一言がリゲルの言葉を遮った。その一言でリゲルも藤銅もそれ以上何か言う事はなかった。静寂、時間だけが無作為に過ぎていく。藤銅はそんな空気に耐えられず口を開こうとする。


「あー、その…なんだ、つまり…今捕まってない2人ってのが、帝都に行かせたい二人って事でいいんだよな?」


「その通りだ」


「ならよぉ…もう捜査網解いていいんじゃねーか?俺やおめーはいいとしても、かれこれこっちも4時間ぶっ通しで捜索してるうえでさらに4時間使ってまで探す必要は」


 藤銅の愚痴のような提案を横に聞きながら、リゲルは即座に通信を繋ぐと捜査網の解除を本部へと伝えられた。それを聞いていた藤銅はそれ以上何も言わなくなり、海賊もぺこりと頭を下げた。


「…だが、まだ俺達は最後の一人を捕える仕事が残っている」


「あぁ、とはいえ私もそう易々捕まっては他の船員たちに示しがつかないからな」


「やぁーっとこいつもやる気になったか!リゲル、手ぇ出すなよ」


 海賊と藤銅が体をほぐしながら立ち上がると、得物を取り出しながら適度に広い場所に移動する。リゲルは近くの柱に寄りかかり通信しながら二人を傍観している。


「…改めて自己紹介をしよう。私はGRK海賊団四番艦隊船長を務めさせていただいているハルジアと申します。ご存じかと思いますがグレート・ウィンチェストローズより海賊家業をするよう命じられ帝国の領地を侵略、今はリカ様の忠実なる下僕として他の海賊たちの面倒を見ています」


「俺は狒 藤銅。元は蟻の国出身で一端の兵ではあったんだが、あの国じゃ俺程度の実力者なんかゴロゴロいるし、億単位の兵士なんて使い捨てされるのがオチでな。そんな折に琴音っていうヤクザのリーダー経由でこの帝国に来たらあれよこれよとランキング5位にまで入っちまったってわけだ」


 藤銅の巨大な片刃の鋸状の武器を軽く振るうと刃が届きもしていないのにもかかわらず、ハルジアと名乗った海賊の足元や近くの壁が何重にも乱雑にまるで深く引っ掻いたかのような斬れ痕が出来た。だがその様子に驚くことなく服を軽く叩く。


「蟻の国…ここからずっと東、虫黄大陸最大且つ最強の国家。その戦力は聖ルーマルコーランド帝国やティストレイ連邦、いやグレート・ウィンチェストローズにオズランド帝国ですら勝ち目がないと言われているがその実態は王の証を持つ者がいること以外すべてが謎に包まれた誰も把握のできない迷宮国家でしたね。我々海賊ですら関わろうとしないのですから」


 ハルジアは手に持っていたラッパ状の銃に魔力を込め撃ち出すと立った一発の発砲で藤銅の足元で何発もの小さな爆発と共に火花が飛び散った。藤銅もそんな攻撃に動じることなくニヤリと笑った。


「っま、てめぇら海賊が蟻の国でやってきてぇってならランキング5位の俺を倒して、そのうえで俺よりつえー奴がゴロゴロいるってのを覚悟していくって事だな!」


 藤銅がその巨体からは想像できないほど急加速し、一気に距離を詰めて鋸を振るう。間一髪でハルジアは身を翻し回避するが触れてもいない筈なのに衣服が一部ずたずたに切り裂かれた。ハルジアは反撃とばかり魔銃で反撃の至近距離発砲をするが藤銅の丈夫な甲殻の表面で爆発しても火傷跡一つつかなかった。


「っは、船長の肩書背負ってんだろ!引き出し一個でランキング最上位とやり合える程やわなやつはいねぇぞ!!」


 藤銅はさらに鋸で追撃をするもののハルジアは衣服が破れるのを気にすることはなく回避に専念する。ハルジアが再度発砲する、今度は銃弾が鋸の刃に着弾すると瞬時に刀身が氷漬けになり鋸を振るっても床や衣服をズタズタにはならなくなった。


「…この程度ならせいぜいランク外の奴らでも出来る程度ですよ。ランキング5位は帝国の伊達でしょうか?」


「ほざけっ!『敵の隙を狙え 影より忍びて 邪悪なる槍よ』」


 藤銅は即座に武器を手離すと呪文を唱え、ハルジアの足元から真っ黒で鋭い槍状の魔法が放たれハルジアの脇腹を貫いた。その隙に藤銅の手には既に別の鋸が二本も両手に握られていた。


「っ、『全て焼き防げ 立ち塞がりて 炎の壁よ』!」


 ハルジアは咄嗟に呪文を唱えると二人の間に炎の壁が形成され、その炎の壁に藤銅が攻撃しようとしたのを中断する。その隙に地面から生えてきた槍状の魔法から身体を抜け出させ体勢を立て直す。だが藤銅も炎の壁を迂回するようにしてすぐにハルジアとの距離を縮める。


「仕方ないっ!!」


 ハルジアはさらに魔法陣のような物を展開し魔力を注ぎ込み作動させると、藤銅の身体から突如するどい棘が何本も飛び出してきた。


「ぐっ…さっき撃った弾丸か」


 するどい棘がおそらく固い甲殻の内側にも突き刺さっているかのように動きは遅くなってはいるものの、それでも攻撃の手は絶えず二本の鋸で二倍となった無数の乱切りを打ち込む。ハルジアもついに躱しきれずに生々しい鋸で斬られた痕がつけられる。


「はぁ…はぁ…、なら!」


 ハルジアが再度距離を取って魔銃を放つと今度は強力な雷の槍のような一撃が高速で一直線に放たれ藤銅に突き刺さる…その瞬間紙一重で体をいなして回避することに成功したが、そのせいでハルジアから完全に意識を外してしまった。次の瞬間藤銅の懐にはハルジアが潜り込んでいてその両手には二振りのカトラスが握られていた。


「クレッシュエンド・ルナ!!」


 そのカトラスの二撃が藤銅の身体を切り裂いた。…はずだった。


「っはぁ!がぁぁ…」


 膝をついたのは二振りのカトラスを手から落とすハルジアだった。その手はまるで毒に侵されているかのような痛々しい色をしていた。そして斬られたはずの藤銅の身体には浅い傷跡があっただけで致命傷とまではいかなかった。




「はいはーい、しあいしゅーりょー。おっつおっつ~」


 そんな殺伐とした雰囲気の最中呑気な声が響き渡った。そこには先ほどまでいなかったリカがリゲルの隣に立ち見物していたのだ。


「っり、リカ様!…私は、まだ戦えます…」


「うん知ってる~。まだ最初に撃っておいた弾丸もあるし他にも仕掛けは残ってる。手札はまだまだ健在。でもね…手札を全部見せたら勝ちってわけじゃないの。少ない手札でいかに相手を屈させるかってのが上のレベルの戦いなの」


「藤銅は既にハルジアの体力を奪い、今の反撃で両手を奪った。この時点で一度は詰めた状態にまで持っていった。返しの手段があるだろうが藤銅もそれは読めている。完全な後手に回らされた時点でほぼ決着と言っていいだろう」


 くっ…と悔しがりながらも敗北を認め、降参の意志として両手をあげる。藤銅もそれを見届け鋸を片付ける。戦いが終わったことでリゲルもリカも二人に駆け寄る。リカはハルジアの腕を掴みエネルギーを注ぎ込むと痛々しそうに見えた手は一瞬でその毒っ気がきれいさっぱりなくなった。


「んーじゃま、私達は帰るとするね~。だいたい買っておきたいものは買ったし、部下達にも帰りの支度させたしね」


「…リカ、今回の侵入計画の真の目的については」


「あー、新婚ちゃんたち?聞いてるし知ってるよ。まぁうちで面倒見てる海賊の中にはやっぱりすっごく辛いって思ってる子とか、身体的に続けられないとかそーゆー悩みあるからね。故郷にも返してあげれないし、帝都に私の部下が勝手に支部作ってるからそこで住民登録偽装して平和に暮らさせてるの」


 相変わらずケラケラしているリカと、聞きたくもなかった真実に頭を悩ませるリゲル。それからリゲル達一行は本部へと移動し、リカは今回の事件関係者である15人全員と合流しつつ帰路の準備を済ませたが、いまだなお指揮系統室に居座ったまま帰る気配を見せなかった。

 するとジリリリリ…と一つの魔電器機が鳴り響いた。リゲルはその魔電機器を手に取り通話する。


「…了解、10時発の汽車は問題なく予定通り出発したのだな。ご苦労」


 そんなやり取りを聞いていた海賊たちは静かにぐっと喜びを表現し、戦利品と一緒に軍本部から去っていった。客人が全て帰ったのを確認するとリゲルは今日の慌ただしさにソファに身を投げ出す。帝都の玄関口、それは多くの外側の人間と関わり合うことの多い都市。ティストレイ連邦との戦争だけではない、この国はもっと多くの国々と繋がり関わっていくためにもこの都市はこれからも頑張っていかなければならないのであった。———

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


最近また何かと忙しさが増してきた今日この頃ではあるのですが、私は日々投稿の為にひたすら文章を書く日々に負われています。さらに花粉も辛いです。皆さんもちゃんと耳鼻科には通っていますか?


短編集の方もボチボチ投稿数を増やしており、一応どこから読んでもいいようにはしていますが勿論1から全部読んでくださると大変嬉しいです。それと、もしこの騎士団の活躍がもっと読みたい!などの意見などありましたら反映してきたい所存なのでお気軽にお手紙くださいませ


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は4/25に投稿を予定しております。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。よければ、ブックマーク・お気に入り登録をお願いいたします。本編及び短編集や設定資料もよろしくお願いします。

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