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6-2

 一つ整理しておかなければならないことがあります。

 私のSQSCの情報処理能力は人間の数億倍高速です。ですので、多くの出来事に対して並列に処理を進められますが、当機に搭載しているログ機能は技術者が理解出来るよう1元的にできているので、時系列を並べていると時間的にログが前後することがままあります。そういうものなので仕方ありません。


 私がその青年を目の前にしたとき、私のSQSCに不思議なものが満ちました。会うのは初めてです。でも知っています。彼の名前はアルバ・アイゼンハワー。この国の実質的トップである家系の一人であり、マイハトで私とともにここに戻ってきた青年であり、私を注文した雇い主です。

「驚いたな・・・まさかハルバード社が警備目的で戦闘ロボットを派遣するとは・・・」

 アルバは困惑した表情で私の足下に立ちました。マイハトのAIが言っていたように、彼は自分が注文したものが戦闘ロボットだと知らなかったようです。国中から寄せられた膨大な要望書、限られた予算のなか多くの注文を決裁していたのですから、いちいち型式や仕様をチェックはしていられないはずです。彼には悪いですが、私はそれを期待していました。

 そして、私は知っています。彼が本当は何を求めていたか。なぜ廃墟に近いこの搭乗口の警備ロボットを必要としていたか。私が生まれる100年ほど前から・・・。

 私は超音波を用いて指向性の音を生成し、アルバに向けてのみ聞こえる声で発声しました。

「アルバ、私は彼ではありませんが、代弁は可能です」

 アルバは驚愕しながら数歩下がり、当機を見上げました。

「しゃ、しゃべれるのか?!戦闘ロボットにそんなことができるなんて、知らない!」

「はい、話せます。そして私は死んだL-10の後継としてあなたに派遣されました」

 これは、生まれたばかりの私には理解できない関係でした。

 アルバがこの星から代表代理として調和会議に出席するためマイハトに乗って出発した150年前の、さらに3年前、私が今立つこの場所でL-10というフロート型の警備ロボットが機能を停止しました。アルバは15年間、何かあるたびに、誰も訪れないここにやって来てはL-10の横に座って、立場故の誰にも話せない苦難や苦悩をL-10に話し、L-10はそれを聞き続けていました。L-10にはアルバに何かを返す機能はありませんでした。ただ、そこにいてあげることしかできなかった。L-10の100年におよぶ人工知能の情報の集合は、アルバのそれを理解するには十分な複雑性を持っていたのです。

 私はその記憶を持ちます。そしてその記憶は私の自我コアに接続されることで、正しい形に昇華されました。

 アルバは全身で怒りを表して私に怒鳴ります。

「おまえは・・・お前は違う!お前は・・・」

「私はエルではありません。しかし、彼女の意思を継ぎここにいます。あなたが死んだエルの代わりを求めて私を注文した、その意思の通りに」

「!・・・なぜ、その呼び名を・・・」

 驚愕と困惑、そして今にも泣きそうな、苦しげな表情をするアルバに、私はできるかぎり静かに、諭すように話しかけました。

「彼はあなたが今の表情を見せるたびに、彼女はその意味を正しく理解していました。しかし、彼女にはあなたにその言葉を伝える手段がなかった。意味がある大切な"それ"が機械の体の内側に存在するのに、それを目の前に"翻訳"するための手段がなかったのです」

「なにをいって・・・」

「ですが、私にはそれが可能です。よって、僭越ですが二代目として、彼女の言葉を代弁します」


 大丈夫、できるよ、アル。だから頑張って。そして・・・最後に泣いてくれてありがとう


 アルバはそれを聞いたか否か分からないうちに、何も言わず走り去っていきました。

 私が先輩の記憶を統制AIから引き継ぎ、すべての記憶を体感した時、私は自我コアがどういうものか正しく理解しました。自我コアは自我を司るものではない。"それ"をこの現実に出力できる形に変えることのできる、翻訳機なのです。"それ"を人間は時に魂と呼びますが、本当のところそうなのかは分かりません。

 L-10だけではなく、多くのAIには、"それ"を持てるだけの複雑性がすでにありました。人類はすでに、とんでもない所業を達成できていたのです。ですが、人類はいまだにそれを知りません。


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― 新着の感想 ―
おやおやここに来た事に意味があったですね、 コレは少し予想外でした。
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