ドッペルゲンガー現る。
「ちなみにいつぐらいに来ましたか?」
新木場はそれほどの策を弄してもこのスーパーに来る必要があったのだ。
もう証拠になるものは回収されているとしてもそこから何かしらの啓示が得られるかもしれない。
店長はこちらの内情などは全く知らずに素晴らしい接客スマイルを浮かべていた。
「はい、今日の1時にいらっしゃいました」
………
まるで狐に包まれたような私たちに私たちとは違う理由で店長さんも狐に包まれたような顔になる。
「あの、何か問題でも、、、
もしかして、新木場さんに何か?」
「、、、店長さん、時間間違えてませんか?」
「そんなはずはありません。あの時間に来たら大抵覚えていますよ。ええ、1時ぴったりのご来店です」
そんなわけがない。私は確かに新木場の家で時計が1時になったのを見た。それに上野さんの家でも。
たとえ理解不能な理由から新木場の家の時計がずれていたとしても、上野さんの家の時計まで同じぐらいズレているはずがない。
「ドッペルゲンガー、、、」
上野さんがぽつりと呟いた。
多分自分でも口に出していたことに気付いていないのだろう。
冗談じゃない。ドッペルゲンガーなんて都市伝説なもの、規格外は新木場一人でも十分だ。
私達が納得していない様子を察したのだろう。店長さんはちょっと困ったように眉を寄せた。
「確かにいらっしゃったはずですよ。
あ、ちょうどいいところに!おーい、ちょっとこっち来て」
突然のフランクな物言いに顔をあげると、別の従業員に声を掛けているところだった。
店長さんに呼ばれて速足でこちらに来た男の面を見て、泡を吹いて倒れそうな上野さんを懸命に支える。
「ドッペルゲンガー!!」
「上野さん、気を確かに!!」
「大丈夫ですかお客様、ご気分が優れないのならベンチにご案内いたします」
同じ顔が二つ、上野さんに近づく。
「ドッペルゲンガー!!!!」
嫌々と言う風に彼らから距離を取ろうとする上野さんに店長さんはやっと彼女の異常の正体に気付いた。「いいえ、ドッペルゲンガーではありません。彼は私の兄弟でして」
「、、、え、兄弟?」
目をぱちくりさせる上野さんに店長は恭しく頷く。
「はい、『スーパー高砂』は家族経営のスーパーなんです。
こちらは私の弟の五郎です。七つ子の5番目でして、私が3番目の三太郎です」
「はあ、七つ子」
「はい、七つ子です。
五郎、こちらのお客様が新木場さまの事でお聞きしたいことがあるそうだ」
五郎と呼ばれたもう一人の店員が__ネームプレートを見ると確かに五郎とある。それから彼も店長だった。__私達に向き合う。「新木場さまがいかがしましたか?」
「では、私はここで失礼いたします」最初の店長さん__三太郎さんは丁寧にお辞儀をすると向こうへと去っていった。
品出しが途中のままだ。仕事中に長々と話しかけたこちらのせいではあるが、このままでいいのだろうか?
私の口にしなかった疑問に五郎さんはつぶさに反応する。
「大丈夫です、引継ぎはできてますので。
私共はクラウドで記憶を共有していますので、問題はないんです」
「は、はぁ」
上野さんは機械に弱いのかそれっぽい言葉にやり込められてしまったが、クラウドで共有とは何ぞや。
こいつら七つ子なんかじゃなくて、まさかアンドロイドじゃあるまいか。
「あの、今日新木場さんがこちらに来たと先程の方にお聞きして」
「はい、私が接客させてもらいました」
「それで、その来店したのが一時と聞いたんですが、、」
「はい、1時でございます」
上野さんが私に助けを求める表情で此方を見てきた。
彼女が次に言いたいことは分かっている。
新木場に双子もしくは三つ子、七つ子はいるか、という問いだ。答えはNO。私の知る限り奴は一人っ子だし、新木場と同じ顔の人間がこの世に一人以上いては世界が崩壊してしまう。私の
「あの、私達さっきまで新木場さんと一緒にいたんです。一時頃にはまだ家にいた。
本当にそれ、新木場さんでしたか?」
ダメ押しの追求に五郎店長がきょとんとした顔で「何か問題でも?」というようだ。
「それでも新木場さんは一時に来たと言うんですね!!」
発狂寸前の上野さんに五郎店長は「ああ」と言う風に一人納得すると何故か誇らしげにそれを私達に伝えた。答えを知った私からしたらなんでもっと早くこのすれ違いに気づいてもらえなかったのか不思議なぐらいだった。
「はい、ですので1時でございます。
スーパー高砂はお客様を第一に考え、午前10時から日を跨いで午前1時半までの営業をしております。
新木場さんは今日の深夜1時に当店にいらっしゃいました」
私達があっけにとられたことは言うまでもない。
それに、深夜1時のスーパーとは。
だが、そこへ更に爆弾が落とされる。
「お連れ様とご一緒に」
次回更新6月8日木曜予定




