ライトノベルヲタは少年漫画がわからない。④
暗城宅
私は本に一つ仕掛けを挟んだ。今日読むのであれば確実にソレを目にするだろう。そんなことを考えた後、私はリビングに行き一人で夕食を食べる。火曜日以来一人で食事をしていると思い出してしまう。火曜日のお昼に輝崎さんと一緒ににお弁当を食べたことを。誰かと一緒にご飯を食べるのはいつぶりだっただろうか。
翌日 木曜日
ついにこの日が来た。異世界に行ける!そしてその前に昨日の答えを輝崎さんから聞く。学校に着いたが昨日や一昨日と変わらず話しかけてこない。お昼の時間になりお手洗いに行こうと思い立ちあがっただけなのに輝崎さんは超高速で逃げた。
「た、太陽!また俺を一人にするのか!」
浅野さんがそう言って追いかけていった。
もしかしたら本当は私の昔の噂を知っていて避けてるのかもしれない。
放課後になりついに輝崎さんの答えを聞けないままアニメイゾに向かう時間になってしまった。輝崎さんは帰りのホームルームが終わると逃げるように教室から去って行ってしまった。夕日に照らされる教室で一人考え込んでいた。やはり私を引いているのかもしれない。
「彩月~、意外と君は面倒なことを考えるんだな…。」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「めめめ女神様!何でここにいるんですか!それと心を読まないでくださいっ!」
「まあその話は置いといて、ちょっと君たちの答えを至急聞きたくなった。」
私的には置いておかれたくない話を置いておかれてしまった。女神様は私の腰に手を回した。
「ちょっと覚悟しておけ!飛ばすから!」
私は女神様はいったい何を言ってるのだろうと思ったが一瞬で答えはわかった。ゴウッという音共に女神様は私を抱えたままとんでもないスピードで走り出した。走り出してから数秒で校門を通りさらに数秒で普通なら走っても10分かかるであろうところまで来ていた。そして
「お、いたいた!」そう言って女神様は少しだけ減速し目の前にいた歩行者を私を抱えている方とは逆の手で抱えた。見事な誘拐テクニックだった。そしてまた加速をした。
「き、輝崎さん!」その歩行者は輝崎さんだった。
「暗城さん。」輝崎さんがそう言った瞬間、女神様は止まった。
「よし、着いた。」私たちは下ろされた。私たちは一瞬でアニメイゾの倉庫内に着いてしまった。
またパイプ椅子を置かれ私たちは座らされた。倉庫内に鈴木さんはいない。おそらく一人で表で店を切り盛りしているのだろう。
「さっそくで悪いが話をさせてもらう。前回までの反省点を踏まえ異世界に行くことにルールをつけることにした。」
「ルールですか。」
「ああ。二度と異世界に依存し魔王軍に寝返る戦士を生まないようにな。細かいルールはいくつかあるが一旦説明を省こう。最重要ルールだけ言っておく『今後、異世界では二人以上で行動してもらう』だ。」
「は!?」私は思いもよらないルールで思わず声が出てしまった。
「寝返る気をなくすためだ。鈴木によるとやはり大半の店員たちは敵が来たときにしか力を使えないという不自由さが原因で寝返っている。彼らが魔王軍と戦う戦士として異世界に行っていたときは最初こそ何人かで行っていたがこの店に来れる日数の差もあり進行度に個人差ができるようになった。だが改めて今回二人以上で行くというルールをつけることで一緒に行った者同士で修行という建前で力を発揮し不自由さを補うことができる。そして一応言っておくが君たちのうちどちらかが異世界に行くことを断った場合、新しいヲタクを探すだけだ。気にしないでくれ。」女神様は私たちにやさしい笑顔で言った。
「それでは君たちの答えを聞かせてもらってもいいかな。」女神様は一呼吸おいてからそう言った。
「私は…私は異世界に行きます!」まっすぐ女神様を見て言った。元々異世界に行きたいと思っていたからこの意見は何があっても絶対に揺らぐことはない。
「わかった。ありがとう彩月。じゃあ少年聞かせてくれるかい?」女神様がそう言った後1分くらい輝崎さんは何も返答はしなかった。やはり私と一緒には行きたくないのだろう。もしかしたら私の暗黒姫のうわさを知っているのかもしれない。輝崎さんは考え込んでいる。いったい何を考えているのだろうか。そして私は口に出してしまった。
「輝崎さんは来ませんよ。この二日間、私に話しかけてこなかった。今日だって私を避けている。なのにその二人行動のルールが付いたら行くわけないじゃないですか。」
「君は面倒な女だね。」女神様はため息をついて言った。自分でもそう思う。
「なるほどわかったよ。じゃあ私が少年の代弁をしよう。」
「「は!?」」
私たちはそろってアホみたいな声を出してしまった。そして私は10分ほど前に女神様が教室で私の心を読んだことを思い出した。女神様が大きく息を吸った後話し始めた。
「『俺はなぜあんなことを言ってしまったんだ。暗城さんの事情も知らずに無責任なこと言ってしまった。そんな何も考えずに言った俺が暗城さんにこれから関わってもいいのだろうか。異世界に行ってもいいのだろうか。』だろ少年。」
「な、な、なに言ってんの女神様!!」頬を赤く染め慌てる輝崎さん。
「私は魔法で近くにいる者の心を読めるんだよ。」
「二人の心を読める私に言わせれば君たちは二人とも考えすぎだ…。君たちは若いんだ、やりたいことをやればいい。」
「う、ああ、そうさ俺はあの時言った一言を無責任だと気にしてあの後何もできなかった!今だってそうだ!でも異世界に行くか行かないかはあの時に言った!俺はもっと君と一緒に異世界にいたいってな!」吹っ切れたように輝崎さんは私の方を指さして言った。顔はまだ真っ赤だ。
「ふふふ」失礼かもしれないけど笑ってしまった。
「わ、笑うの酷くない…。」
「ご、ごめんなさい。まさかそんな答えが返ってくると思わなかったので。悩んでた自分が馬鹿みたいで。」本当に自分が馬鹿馬鹿しくて笑いながら答えてしまった。
「よかったよ、君たちが『行く』と言ってくれて。まあ心を読んでたから90%位の自信はあったんだがな。」女神様本当にズルいと思う。女神様は椅子から立ち上がった。
「それじゃあ早速だが用意してもらいたい。実は至急対応してもらいたい案件があってな。10分以内に店から今回異世界に持って行く本を選んでくれ。」
「「はい!」」
私たちは椅子から立ち上がり声を張って答えた。
私たちは倉庫から店の売り場に移動した。私たちはそれぞれラノベコーナー、少年漫画コーナーに向かった。私は今日選ぶ本は決めていたのでそれを取り倉庫に向かおうとした。ラノベコーナーから倉庫に向かうルートからは少年漫画コーナーがよく見えた。そこには悩んでいる輝崎さんを見つけた。
「決められないのですか?」
「暗城さん。」
「私は少年漫画についてはよくわかりませんが何を選べばいいかはわかりますよ。さっき女神様も言ってましたし。やりたいことをやればいいんです。使いたい能力を使えそうになる本を選べばいいんです。」
「そうか。ありがとう。決まったよ。」
輝崎さんはコミックを手に取った。
「輝崎さん、本当にすみませんでした。輝崎さんがちゃんと考えていたのに私は…。女神様も言ってましたが私は本当に面倒な女みたいです。」
「いいや、俺が話しかけられなかったのは事実だ。それに俺だって謝りたい。あの時は無責任なことを言ってごめん。」輝崎さんも謝ってしまった。私は彼を励ましてあげたいと思ったのだろう。
「確かに無責任かもしれませんね。でも私は輝崎さんを情けないとは思いません、助けてもらえましたから!」少し恥ずかしかったが私はそう告げた。輝崎さんは呆けた顔をしている。
「よし!決めた!暗城さんのおかげで自分を嫌いになっていくのを止められそうだ。」
そう言った後、輝崎さんは右手で私の左肩を掴んだ。
「俺、ちゃんと責任取るよ!」
「へ」
ありきたりだがとても恥ずかしい言葉を言われた気がする。