少年漫画ヲタは女心がわからない。
時をさかのぼり水曜日、輝崎宅。
俺は今日ライトノベルを借りた。そのライトノベルは『あのワンダフルな魔界に宿泊を!』。暗城さんのオススメなら明日までに少しは読んでおきたいと思って本を開いた。そして俺は当初の予定通り本屋に行ってオススメを聞き買うべきだったのではないかと後悔している。なぜならその借りたライトノベルには手紙が挟まっていたからだ。
その手紙にはこう書いてある。
『拝啓 輝崎太陽様 この度はお尋ねしたことがありこのようにお手紙を書かせていただきました。先日輝崎さんは私に学校生活を一緒に送りたいとおっしゃっておられました。しかし私は昨日及び本日輝崎さんから何も声をかけられておりません。
お手数ながら、ご回答いただければ幸いです。 敬具 暗城彩月』
「や、やられた。」
思わず独り言をしてしまった。そしてかたいな。クラスメイトに書くものとは思えないかたさだ。このかたさもライトノベルの何かのネタなのかな。いやそんなことよりこの返事の方を考えなくてはいけない。ていうかこれ昨日書いたものでしょ?今日話しかけられない前提で書いてあるのですが…
情けないかもしれないけど俺にだって話しかけない理由はある。
翌日の木曜日、学校。
今日はアニメイゾに行く日、そして昨日の答えを返さなくてはいけないのだが俺は答えを言える自信なんてない。そもそもかっこ悪くて言えない。無責任にあんなことを言ってしまったからどうしていいかわからないなんて。そんなことを考えていたらお昼休みになっていた。警戒しておこう。火曜水曜のパターンから考えるとこの時間に暗城さんに話しかけられる可能性がある。暗城さんが動いた。よし走って逃げよう。ああダメだ、どんどん自分を情けなく感じてくる。
学校が終わって校門を出て少し経ったと思ったらすごい突風が吹いた。しかし突風ではなくビームの女神様が走って俺を攫っただけだったみたいだ。どうやら俺は女神様の左腕に抱えられているらしい。
「き、輝崎さん!」左側には暗城さんがいた。
「暗城さん。」
それから数秒で俺たちはアニメイゾに着いた。ビームを打てるほどの女神様なんだもう驚きはしない。女神様は急いでいるらしく俺たちは新ルールの内の最重要ルールだけを聞かされた。『今後、異世界では二人以上で行動する』それが最重要ルール。鈴木や店員たちのように闇落ちを防ぐためらしい。俺の答えはもう決まっている。だがこの最重要ルールがある限り、暗城さんと俺は異世界で一緒に行動しなくてはいけない。こんな情けない俺と一緒に来てくれるだろうか。
「それでは君たちの答えを聞かせてもらってもいいかな。」女神様がそう言うと暗城さんは即答した。
「私は…私は異世界に行きます!」
「わかった。ありがとう彩月。じゃあ少年聞かせてくれるかい?」
今度は俺の番だ、異世界には行こうと思っている。しかし暗城さんはこんな無責任で情けない野郎と一緒に行ってくれるのだろうか。いいや口だけの俺が一緒に行くべきではないかもしれない。何も考えずに異世界に行きたいなんて今の俺には言えない。そんなことを考えていたら暗城さんが口を開いた。
「輝崎さんは来ませんよ。この二日間、私に話しかけてこなかった。今日だって私を避けている。なのにその二人行動のルールが付いたら行くわけないじゃないですか。」
避けている。違う。
「君は面倒な女だね。」
女神様はため息をついて言った。
「なるほどわかったよ。じゃあ私が少年の代弁をしよう。」
「「は!?」」
俺たちはそろってアホみたいな声を出してしまった。女神様が訳の分からないことを言った。
「『俺はなぜあんなことを言ってしまったんだ。暗城さんの事情も知らずに無責任なこと言ってしまった。そんな何も考えずに言った俺が暗城さんにこれから関わってもいいのだろうか。異世界に行ってもいいのだろうか。』だろ少年。」
変な声マネをしながら俺の心情を口にした女神様。どうやら女神様は心を読めるらしい。ちょっと遅れてから俺は女神様が口にしたことの恥ずかしさに気づいた。
「な、な、なに言ってんの女神様!!」
「私は魔法で近くにいる者の心を読めるんだよ。」
「二人の心を読める私に言わせれば君たちは二人とも考えすぎだ…。君たちは若いんだ、やりたいことをやればいい。」
女神様が母親みたいなことを言い始めた。だけど言ってることは正しいと思った。
もう言ってしまおう。だって俺は無責任で情けなくても君と一緒に異世界に行きたいから!
「う、ああ、そうさ俺はあの時言った一言を無責任だと気にしてあの後何もできなかった!今だってそうだ!でも異世界に行くか行かないかはあの時に言った!俺はもっと君と一緒に異世界にいたいってな!」
「ふふふ」笑われた。でもなんか馬鹿にされてる感じはしない。
「わ、笑うの酷くない…。」
「ご、ごめんなさい。まさかそんな答えが返ってくると思わなかったので。悩んでた自分が馬鹿みたいで。」
俺だってそうだ俺がこの答えを言ってまさかこんな微笑む暗城さんを見れると思わなかった。『何も考えずにあんな事を言ったんですか。』とか言われると思っていた。
「よかったよ、君たちが『行く』と言ってくれて。まあ心を読んでたから90%位自信はあったんだがな。」
女神様本当にズルいと思う。女神様は椅子から立ち上がった。
「それじゃあ早速だが用意してもらいたい。実は至急対応してもらいたい案件があってな。10分以内に店から今回異世界に持って行く本を選んでくれ。」
「「はい!」」
俺たちは椅子から立ち上がり声を張って答えた。
俺たちは倉庫から店の売り場に移動した。私たちはそれぞれ少年漫画コーナー、ライトノベルコーナーに向かった。少年漫画コーナーはライトノベルコーナーより倉庫やレジに近い位置にある。どうでもいいが鈴木がレジで接客しているのが見える。俺は今日異世界に持って行く本を決めていない。俺は異世界がわからない。異世界で何をすべきかわからない。だから俺はどんな状況であろうと役に立つ能力を選ぶべきかもしれない。そんなことを考えていたら後ろから話しかけられた。
「決められないのですか?」
「暗城さん。」
「私は少年漫画についてはよくわかりませんが何を選べばいいかはわかりますよ。さっき女神様も言ってましたし。やりたいことをやればいいんです。使いたい能力を使えそうになる本を選べばいいんです。」
「そうか。ありがとう。決まったよ。」
暗城さんの言葉はすごく説得力があった気がした。異世界ではイメージ力が力の源となる。だから好きな作品で好きな能力ならより強くなれる。何より好きなものを差し置いて他のものを選ぶなんてしたくない。そして俺は一冊のコミックを手に取った。
「輝崎さん、本当にすみませんでした。輝崎さんがちゃんと考えていたのに私は…。女神様も言ってましたが私は本当に面倒な女みたいです。」
「いいや、俺が話しかけられなかったのは事実だ。それに俺だって謝りたい。あの時は無責任なことを言ってごめん。」
「確かに無責任かもしれませんね。でも私は輝崎さんを情けないとは思いません、助けてもらえましたから!」
『情けないとは思いません』そう言われて嬉しかった。無責任と情けないこの二つの言葉で俺はこの2、3日自分で自分を責め続けていた。だけど暗城さんの一言はそれを一気に解消してくれた。俺が情けなくないのならできるかもしれない。もう自分を責めるのはやめた。少年漫画の主人公のように無責任なことをしても堂々としよう。彼らがやってきたように『終わり良ければ全て良し』に導けばいいのだから。
「よし!決めた!暗城さんのおかげで自分を嫌いになっていくのを止められそうだ。」
俺は右手で暗城さんの肩を掴み言った。
「俺、ちゃんと責任取るよ!」
「へ」
暗城さんの顔が真っ赤だ。俺はなんか変なことを言っただろうか。




