妨害者たち ─9─
ふふふ~ん♪ ふふふ~ん♪ と朝からご機嫌な鼻歌が響き渡る高木家。
「ほら、早く食べちゃいなさい」
「……うん」
「……!?」
ただでさえ腫れぼったい目が、更に土偶のようになっている様を見て、ママが小さく悲鳴をあげた。
「れ、麗美? ど…うしたの? その顔……」
「ちょっと寝られへんくて」
「そう…… 何かあっ───」
ママが最後まで言い切らないうちに、鼻歌の主がハッと息を飲んだ。
「麗美…… どないしてん? 何で寝られへんかったんや? 何があったんや!?」
「ちょ…… あんま大きい声出さんとって。頭に響く」
「せやかてお前…… そんな細っい糸みたいな目ぇして。 いや、それでも最っ高に可愛いけどやな」
心配そうに見守る二人には申し訳ないが、アタシは今、相手にする気持ちの余裕がない。大丈夫、と一声かけて食事をとり、行ってきます、と出かけるまでの間、何も話す事は出来なかった。
いくらボーッとしていても何も考えずとも、自然に会社には着く。どうやって来たのか全くもって記憶はなかったが。
ビルを見上げ一つ溜息をつくと、意を決してエントランスに足を一歩踏み入れる。すると───
「おはよう、高木さん」
某キャラクターのような丸い顔にニコニコと笑みを浮かべ、ポテポテとジミーが歩いてくる。振り向いたアタシの顔を見て、
「寝不足? クマ、酷いね」
「嘘…… そんなに酷い?」
ちゃんと鏡を見てコンシーラー使えばよかった、と思っても後の祭り。せめてバッグに入れてあるマスクでもしてなんとか誤魔化そう、と考えていると、
「おはよー。 月島さん、麗美ちゃん」
奈々が、アタシと同じように目の下にクマをくっつけて微笑んでいた。
「お、はよう」
「おはよー」
薄らと口角をあげ、挑発的な瞳でアタシを見てくる奈々の視線をかわし、到着したエレベーターに乗り込む。当然、後にジミー、奈々と続いた。そこへ────
「待って! 乗ります!」
低いけれどよく通る渋い声。革靴を軽快に鳴らして走ってくるその人物は、見ずとも誰だかはすぐに分かる。
「ありがとう! おはよう」
お礼は扉を押さえて開くボタンを押していたジミーに、挨拶は私達三人に。
深夜までずっと話し中で連絡のつかなかった海原の顔を、アタシは直視する事が出来ずにいた。




