初めての彼氏 ─8─
昨日、一騒動あったからか、会社で騒ぎ立てる者は殆どいなかった。 チラチラと見てくる者や、冷やかしてくる幼稚な輩は多少なりともいたけれども。
だが、オトン並に五月蝿くまとわりついてくる部長は放っておけば良いとして、例外が約2名。約……と言うか、ハッキリと2人いた。
五百城 玲於と、伊藤 奈々だ。
真っ先に口火を切ってきたのは、奈々。顔を合わすなり、アタシに食ってかかってきた。
「どういう事!? 私、言ったよね? なんでよりによって海原さんなん!? 」
周りに聞こえるんじゃないかと思えるくらいの声で詰め寄ってくる奈々。抑えようとしても抑えきれない、といった風にも見えた。
「他にいっぱい男いてんのに、私が海原さん好きなん知ってて選んだん!? 嫌がらせ? それやったらもうやめて。海原さん譲ってよ!」
あまりに好き勝手言う奈々に、アタシも我慢出来なくなってきた。
「なんで奈々ちゃんにそんなん言われなあかんの? アタシは海原さんが好き。海原さんもアタシを選んだ。だから付き合った。自分がいくら海原さんを好きでも、海原さんはアタシが好きやねん。奈々ちゃん、なんか勘違いしてへん?」
我ながら嫌な言い草だ。美人が不美人を格下に見ているような。自分がされてきた事を、そのまま奈々にぶつけているだけの醜いやり取り。
とてつもなく気分が悪くなって、すぐに撤回しようとしたアタシを止めたのは、五百城だった。
「高木さん、やめよう。貴女みたいな人が言い争う必要はない。───伊藤さん。そんなに彼が好きなんだったら、奪って下さい」
…………はい?
シレッとトンデモ発言した五百城に、アタシは酸欠の金魚みたいに口をパクパクするしかなかった。
「確かに高木さんと海原さんは、全然お似合いじゃない。美女と野獣だ。その点、伊藤さんとなら素晴らしいベストカップルになれると思う。だから頑張って海原さんを手に入れて下さい」
言ってる事もメチャクチャだが、かなり失礼な発言でもあるような……
それでも奈々は、そんな事は気にもとめず、
「……言われなくてもそうしますよ」
と言い残し、給湯室へとお茶汲みに向かった。
「…………えー……っと。五百城さん……でしたよね? あの……」
「玲於です。玲於と呼んで下さい。」
「いや……そんな…… それにアタシ後輩ですから敬語は使わなくても……」
なんで先輩に向かって下の名で呼ばなくてはいけないのか。海原にさえまだ名字でしか呼んだ事がないのに。
「いえ。貴女は女神のような存在ですから。たとえ僕が先輩だろうと、敬う存在である事に変わりないんです」
知らなかった。こんなに面倒臭い人がムーン•アイランドにいたなんて。オタクとかそんな次元を通り越した世界に彼はいるのだと、これから先、身をもって知ることになる。




