第47話 vs愛
徐々にだったが。
変わってしまった身体も馴染んできた。
全ての細胞が。
この身体の記憶との融合。
拙者は伊井すみ田であって。
全く異なる魂との融合でもあった。
拙者自身も――混沌としそうになる意識に。
強い意思で吠えた。
「ぉ、あああァああッッ‼」
拙者に従え!
拙者に従え‼
拙者に従え‼‼
今、目の前に居る。
宿敵の重惏を倒すという大義を果たす機会を。
逃す訳にはいかぬでござる。
――あンた。勝ちたい? あの野郎に??』
そう意気込む拙者に話しかけるのは。
愛殿でござる。
「あ゛!」
『上の空だねぇええ‼ いいのかぃいい??』
長い刀を構えた。
その刀の名は。
《蜜蜂》
名の由来は蜂。
刀の中には鉄と一緒に溶かされた蜂が混じっていた。
とても希少な刀であって。
国宝にもなっている。
拙者の《黒鉄》や。
拙者の《黒天獣銃》など。
赤子に他ならない。
そして、それは。
奪われた――刀であるものに間違いはないでござる。
お主のような輩が持つべきモノに。
非ずッッッッ‼
斬!
っか、キィイインンンッッ‼
『非力だねぇ~~仕方ないかー~~だってーすみ田君は! 赤子だもんねぇええッッ‼』
ヴォンンンッッ‼
ぶぶぶ。
ぶぶぶぶぶぶ‼
『蜂の毒の免疫はあるのかなぁああ?!』
刀を振った瞬間。
蜂の群れが舞った。
辺りを黒く覆う。
「っげ! っは、蜂じゃねぇかァああ‼」
そう声を上げるのはマサル殿。
どうやら蜂の存在をご存知のようでござる。
しかし。
「? ハチ??? あんた、なんだってあんな小さい虫に怯えんの?? マジであり得ないんだけど」
ジノミリア殿がマサル殿に言い捨てた。
どうやらジノミリア殿は知らないようでござるな。
「――……蜂。確か《蜜》を集める昆虫ではなかったかな?」
どうやら。
カエデ殿も中途半端な知識を持って居るに。
過ぎないでござる。
このままでは。
全滅してしまうでござる。
――なら。あンたが頑張る他ないんじゃないのぉ?? すみ田ァ~~
そんなの百も承知でござる。
しかし。
どう対処をすれば万事収まるのでござろうか。
今の拙者では。
――仕方ないわねぇ~~……アタシがアイツを追い詰めるわ。止めはあンたがするのよ? すみ田ァああ‼
心が動揺して。
歪みそうなのがバレてしまったのか。
ついに。
愛殿が――動いた。
身体を譲ったことによって拙者の意識も。
第三者視線のようになった。
◆
スミタ?! 大丈夫なのか??
◆
エドガー殿の声でござる。
大事ないでござる。
オヌシいは視えているのでござるか??
◆
うん! もちろんだよ!
なんか。
誰かと変わったの?? 魂の色が、……違うよ?
◆
うむ。
拙者の身体の同居人。
愛殿でござるよ。
◆
『?? すみ田君????』
重惏殿の顔が歪んだ。
どうやら拙者の異変に気がついたようでござる。
「ァだじば……め゛ごょ゛ォおお゛!」
愛殿は口を吊り上げて。
そう吠えた。
躊躇した重惏殿だったが。
すぐに不敵な表情に戻った。
『ふざけるな……ふざけるな……ふざけんなァああッッ‼』
顔から蛆を飛ばしながら。
そう一喝した。
『私の! 私のすみ田君を出せぇええ――ッッ‼』
「そぅ言わずに♪ アタシを楽しませてよ♪ お兄さん!」
重惏殿に恐れることなく。
愛殿が言い返した。
どのようにしたら。
そのような鋼の心を持てるのでござろうか。
いや。違う。
拙者は。
拙者は――いや、違う。違うでござる。
身内を殺めたくたいからなど。
決して。決して。




