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おばさん冒険者、職場復帰する  作者: 神田柊子
第四話 おばさん冒険者、弟子の依頼を受ける

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5

「あ! あれが私の故郷ミロルルです!」

 野山送狼のあとは魔物に遭遇することもなく、リーナたちはミロルルに到着した。

 前方に簡素な木の柵が見える。

(ファーラドの街の民家の門より弱々しい『関所』ですけど)

 一応、村の有志で構成された自警団の団員が二人立っている。人が来るのは珍しいため、二人はじっとこちらを見ていた。

「オルト家のリーナでーす!」

 リーナは大きく手を振った。

「ああ! リーナか!」

「オルトのおばさんから聞いてるよー」

 向こうの二人も手を振り返してくれる。

 ノーラが「知り合い?」と聞くから、リーナは「村の人はだいたい皆知り合いですよ」と答える。

「小さな村なのね……。私、こういうとこ、初めて」

「ああ、ノーラはファーラド生まれなんですよね。依頼で村に行ったりしないんですか?」

「護衛の依頼は受けてないから」

 そんな話をしているうちに門に着いた。アリスとノーラを簡単に紹介して通してもらうと、リーナの実家に向かった。


「リーナ!!」

 ドアを開けるなり、リーナは母に抱きつかれる。

「お母さん、ただいま」

「おかえりなさい。無事でよかった」

 身体を離してリーナの顔を確認するように見る母は涙目だ。

(心配かけてしまってたんですね……)

「ごめんなさい」

 と、殊勝に謝ろうとしたリーナだけれど、それより先に説教が始まった。

「何かあったら連絡するって約束したわよね? それなのに、引っ越しや誘拐なんて大事なことを何も報告しないで、どういうことなの?」

「あ、ええと」

「冒険者になりたいって出て行ったんだから、冒険者になれないってわかったならもう帰ってきなさい。ファーラドでひとりで何をするの? まさかコリンが帰ってくるのを待つなんて言わないでしょうね!?」

「それはないです。でも」

 母の剣幕に、アリスたちを紹介する隙もない。母の後ろから遅れて現れた父が「母さん、ちょっと」と取りなそうとしたとき、今度はリーナの後ろから大きな声が割り込んだ。

「リーナが帰ってきたって本当か!!」

 ファーラドのギルドマスターくらいの大声に、リーナは誰か思い当たる。振り返ると、庭に駆けこんできたのはコリンの父ジョグ・スポットだった。

「ジョグおじさん」

 彼が母の怒りを逸らす救世主なのか、さらなる糾弾者なのか、リーナには予測がつかない。

「リーナ!! どういうことだ! コリンが……コリンがなぜ! 説明しろ!!」

 ジョグは顔を真っ赤にして怒鳴る。

(ああ、後者でしたか……)

 そうなると両親はリーナの味方だ。

 父がリーナの前に出て、ジョグとの間を遮った。母はリーナの両肩を抱き、ドアの中に引き込もうとする。

「ジョグ。俺たちだってまだリーナと何も話をしていないんだ。いったん帰ってくれないか」

「それなら俺も」

「俺たちが先に話を聞く権利がある。リーナは誘拐されたんだぞ」

「だからなんだ! コリンのせいだって言いたいのか!?」

「違うって言えるのか?」

 父もジョグも冒険者ではないが、山から下りてきた魔物を倒せる大柄な男だ。二人が怒鳴り合うと迫力がある。

 しかし、ファーラドの冒険者同士の喧嘩のほうがもっと激しいため、アリスもノーラも怖がってはいなそうだった。

(でも、このままにはしておけません!)

「ちょっと、待ってください! 説明します! 説明しますから、落ち着いて」

 リーナは父に駆け寄ろうとしたけれど、母の拘束が強い。

 そのとき、

「私が悪いんです!」

 そう言って父とジョグの前に出たのは、なぜかノーラだった。

「ああぁ?」

「は?」

 男二人はいきなり出てきた娘に気勢をそがれる。

「コリンとリーナが付き合ってるって知っていながら、コリンを好きになった私が悪いんですぅー! ごめんなさぁい!」

 ノーラは倒れ込むように地面に膝をつくと、両手で顔を覆って叫ぶ。

「ノ、ノーラ?」

 リーナは普段と違うノーラの言動にぽかんとしたけれど、

「お前のせいだと? どういうことだ? 説明しろ!」

 と、ジョグはいきり立ち、

「君はリーナの友人じゃないのか?」

 と、リーナの父も声を硬くする。

「私のせいで、リーナたちは別れたんですぅー! 私がぁ、私が悪いんです!」

「ちょ、ちょっと、ノーラ! 何を言ってるんですか?」

 ノーラの登場で母も驚いたのか力がゆるんだため、リーナはノーラに駆け寄る。

 どういう小細工なのかわからないけれど、ノーラは本当に涙を流していた。

「私が悪いんですぅー!」

「ノーラだって被害者じゃないですか!?」

「でも」

「被害者? リーナ、この子は誰なんだ?」

「誰でもいいから、説明してくれよ! コリンはどうしたんだ!」

 皆が好き勝手に叫ぶ混沌とした空間に、パンッとひとつ、手を叩く音が響いた。

「ストップ!」

 場を一瞬で制したのは、やはりアリスだった。

 当たり前のように皆の注目を集めたアリスは、いつのまにか冒険者パーティ『アーサーとディア』のローブを羽織っている。見た目も高級なローブだから、冒険者にも、ただのおばさんにも見えない。

「あなたは?」

 父が丁寧な口調で問いかけるのもわかる。

「ソシレ伯爵の名代アリス・カルスよ」

 アリスはローブの胸元の小さな紋章を示したけれど、たぶん父はソシレ伯爵家の紋章など知らないだろう。けれども、アリスが堂々としているため、疑う様子はない。

「一連の事件について、コリン・スポットの家族に説明するよう、ソシレ伯爵から命を受けたの。あなたには私から説明するわ。いいわね?」

「は、はい。説明してもらえるなら……」

 アリスに目を向けられたジョグは反論することなくうなずいた。

「ノーラ、もう演技はやめなさい。手紙は私が持っていくから。いいわね?」

「わかった……」

 アリスにそう言われたノーラはぴたりと泣き止み、アリスの手にコリンの手紙を載せた。

「リーナは、ノーラのことも含めて、自分の家族にきちんと説明しなさい。いいわね?」

「はい」

 リーナが神妙にうなずくと、アリスは再び手を叩いた。

「それじゃあ、解散!」

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