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司令官はまつろわない2〜逃亡編〜  作者: 綾部みね子
1章

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第19話 逃亡の始まり

 空気が痛い。

 いや、実際に痛みを感じる訳ではないのだが、しんと静まり返った部屋の空気が、得も言われぬ心地の悪さを感じさせる。

 相手も喋る気配はないし、自分も喋らない。

 息をするのもはばかられるような、重い沈黙。


 長いことそれに耐えていたのだが、どうしても聞きたくなってヒメルは意を決して口を開いた。


「さっきは、どうして庇ってくれたんですか?」


 トーマはこちらとは会話もしたくないのか、部屋の出入り口近くの壁に寄りかかったまま嫌そうにじろりと睨んできた。

 怯んでしまいそうになるが、必死で自分を奮い立たせる。


「本当は気付いてるんですよね?」


 司令官の偽者だということに気付いているのなら、それだけの言葉で何を言っているのか分かるはずだ。

 しかしトーマはとぼけるように肩をすくめ顔をそむけた。


「さあ? そう言われても、何の事かさっぱり……」


 口ではそう言うが、本当にさっぱり分かっていないようには見えなかった。


(嘘だ。ホントは私だって気付いてるんだ!)


 あくまでもシラを切り通すつもりだろうか。


(そっちがそのつもりならこっちだって!)


 司令官たちが助けに来てくれることを信じ、ヒメルは少しでも情報を入手しようとトーマに向かって更に尋ねた。


「アルフ・アーウに行くって言ってましたよね? アルフ・アーウのどこに行くんですか?」


 どういうつもりでこの男が自分を庇ってくれたのかは分からないが、利用できるものは利用した方がいい。ここで聞かないという手はない。

 トーマはヒメルから視線をはずしたまま腕を頭の上で組んだ。


「さあ、詳しい事は俺も知らないっす……」


 本当に知らないのだろうか。それとも知らないふりなのか。

 それきり、再び室内は静まり返ってしまった。


(ええっと、もっと何か聞かないと……。でも、何て言ったらいいの?)


 どうやって情報を聞き出そうか、ヒメルは考えあぐねる。

 すると意外なことに、ヒメルよりも先にトーマの方が口を開いた。


「──……先輩は、俺と違って優秀だから、色々知ってるんだろうけど。俺は、半端もんだからな」


 一体なんの話だろうか。

 先輩って、さっき部屋にやってきた総督の秘書の事?


「女性で親衛隊に配属されたのは、先輩ただ一人だったんだから、優秀に決まってるよな……」


 独り言の様にトーマは喋り続ける。

 親衛隊?

 あの人、総督の秘書なのかと思ったけど、違うのだろうか。


(もしかして、帝国側の人間……?)


「でも、きっと見えないところで、人の何倍も努力してる」


 そう呟いたトーマの顔は、今まで見たこともない表情をしていた。

 切ないような、焦がれるような……。


「……大切なんですね。先輩って人のこと」


 ヒメルが問い掛けてもトーマはそっぽを向いたまま答えない。


 それきり、トーマは口をつぐんでしまった。

 その後も彼自身の本名や生まれなど幾つか質問を投げ掛けたが、すべて無視された。

 これ以上は話しかけても無駄かと諦めかけていた時、不意にトーマは俯きながら口を開いた。


「……魔女なんて、信じられるか?」


 ヒメルに問い掛けたというよりは、自問するような呟き。


「え? ……あ、はい。一応」


 信じられるかと問われても、信じるしかないだろう。身近な人がそうなのだから。

 しかしトーマはそういう意味で言ったのではなかったらしい。


「俺は信じられない。あんな気味の悪いばあさんの言うことなんて、信用できるか。先輩も、どうかしてる……」

「……? それってどういう──」


 そう言いかけたところで、部屋の扉がまたも唐突に開いて、黒い服と黒い覆面をした人物が二人、室内に駆け込んできた。


「おい、助けに来たぞ。無事か?」

 

 顔を半分隠してはいるが、この声は紛れもなく副官だった。ということはその後ろにいる小さめの男はシュウか。

 やはり助けに来てくれたのだ。


「あ、はい! 大丈夫です! でも──」


 ヒメルはトーマを見た。

 彼が虜囚の逃走をみすみす見逃す訳がない。副官もトーマの存在に気付いて身構えた。


「……スエサキ──!」

「やあ、副官。また会えたっすね」


 そう言って手を振って見せるトーマの声に緊迫した様子はない。


「シュウ! 急げッ!」

「だから分かってる!!」


 副官がトーマから視線を外さずに声を掛けると、シュウが駆け寄ってきてヒメルの腕を引っ張った。小柄な割に案外力が強い。


「彼女は返してもらう。邪魔するなら容赦しない!」


 背後から取り出した拳銃を構えながら副官はすごんだ。しかしトーマは相変わらず緊張感の無い顔でへらっと笑う。


「邪魔するつもりはないっすよ。殺し屋二人に俺一人じゃ、かないっこないし」


 トーマは両手を肩の位置まで上げて降参のポーズをとる。


「それに俺、見張ってろって言われただけなんで」


 わずかに戸惑ったものの、副官は目配せして動いた。シュウにかばわれながらヒメルも扉に向かって駆け出す。しかしすぐに足を止めて振り返った。

 シュウが迷惑そうな顔をしたが、ヒメルは気になって仕方がなかった。


「スエサキ軍曹ッ! どうしてですか?」


 こんなことをしたら、自分の立場が危うくなるんじゃないのか。

 ヒメルの不安げな表情を見ても、トーマはおどけるように肩をすくめるだけだ。


「さあね。俺、根っから不真面目なもんで……」


 ヒメルはそれだけでは到底納得できなかったが、シュウに引きずられるように部屋を出た。早くここを脱出しなければ人が集まって来てしまう。それも分かっていたので、部屋を出てからは遅れないように懸命に走った。


「敷地の外に司令官たちが待機してる。立ち止まるなよ!」


 先頭を走る副官が言った。彼はこの建物の間取りを熟知しているのか、迷いなく廊下を走り抜ける。ヒメルは必死にその背中を追いかけた。


 この長い廊下は確か総督に案内されて通った廊下だ。

 前方には曲がり角があり、その角を曲がると少し先に階段があったはず。

 副官が廊下の角を曲がり、ヒメルもそれに続いた。しかし思いがけず先頭が立ち止まっていた為に、ヒメルは副官の背中に鼻をしたたか打つはめになった。


「ぶふッ! ちょっ、副官ッ?」


 急に止まらないでくださいと言おうとして副官を見ると、副官は鋭い視線を前方に向けている。


「──?」


 ヒメルは副官の脇から顔を出して前をのぞいた。


「そこにいるのは誰だッ!」


 階段の下から女性の声が響いた。


(この声は、さっきの人──?)


 トーマの先輩だという、キツい態度をしていた女性だ。

 たがその後ろにもう一人、小さな人影が見えた。


「どういうことだ? こざかしいネズミが入り込んでいる……」


 妙にくぐもった声。

 階段を上がって来たのは、腰の曲がった老人のようだった。

 頭からすっぽりと被ったローブで顔は良く見えない。

 腰が曲がっているからか、背中が異常に盛り上がっている。まるで誰かを背負っている様な身体を杖で支えながら、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

 

 まずい、行く手を塞がれてしまった。

 しかし人数ではこちらが勝っているし、一人は老人。強引に突破できなくはない気がするのだが、副官は立ち止まったまま一向に進もうとしない。

 どうしたんだろう。

 そう思って見上げると、こちらにぎりぎり聞こえる小さな声で副官は言った。


『セイジョウ、目を閉じろ』

『えッ? 目、ですか?』


 こんな時にいきなり何を言いだすんだろう。


『合図をしたら後ろの窓に向かって走れ』

『まっ、窓ッ?』

『あいつは危険だ。すぐに逃げろと彼女が言っている』

『えっ? 彼女って──?』


 誰の事ですかと聞く間もなく、副官は腕を大きく振って何かを床に叩きつけた。

 ヒメルは思わず目を閉じた。その瞬間、ぶわっと強い光があふれ目の前が真っ白になる。


「走れッ!」


 ヒメルは訳が分からなくなりながらも、もと来た道を走った。しかしこの先は曲がり角だ。窓とはこの廊下の角の窓だろうか。

 薄目を開けると、シュウが横からすごい速さで前に出て、大きな窓に向かって刀を抜いた。


(えッ? 斬るの──ッ!?)


 と言うか斬れるの?

 なんて場違いな疑問を思い浮かべるヒメルの身体を、副官の腕が抱え込む。

 その後は一瞬の出来事だった。

 シュウが窓ガラスを斬りつける。副官はその窓を突き破って外に飛び出した。


「うそッ!? ここは──ッ!!」


 確か二階だったはずだ。

 ヒメルは副官の小脇に抱えられながら、身体が一旦浮遊し、続いて落ちていく感覚に恐怖を覚えた。


「────!!」


 本当に怖いと声も出ないものだ。


 着地の衝撃で腹部に副官の腕が食い込んだものの、それ以外に痛くはなかった。副官とシュウも怪我は無い。それどころかふらついてもいない。

 何なんだろう、この人たち。


「誰かッ! 捕まえろッ!」


 割れた窓ガラスの向こうから女性秘書の声が聞こえた。しかし声はその一度だけで、人が集まってくる様子もない。かわりに窓辺にはあの老人が立ちこちらを見下ろしていた。


 異様な気配。

 何と言えばいいのだろう。背中の毛が逆立つみたいな。

 恐怖、だろうか。


「行くぞッ!」


 副官にせき立てられ、我に帰ったヒメルは駆け出した。

 早くこの場所から逃げ出さなければ。

 あの老人の目が怖くてその後は一度も振り返らなかった。




「本当に追いかけなくてよろしいのですか?」


 先輩は恐る恐る腰の曲がった老婆に尋ねた。逃がしてしまった責任を問われるのが怖いのだ。


「追わずともよい。あれは偽者だ」

「なッ!?」


 偽者と聞いて先輩はとっさにこちらを睨み付けた。


「お前ッ! 騙したのかッ?」

「そんな、あれは間違いなくツルギ・ハインロットでしたよ?」


 そうだ。あれは確かにハインロット大佐だった。

 見た目だけは。


「術で姿を変えているのだ。人間なんぞに見破れぬ」


 くつくつと、老人は背中を上下させながら笑う。

 直角に曲がった腰。背中が奇妙に盛り上がり、首は肩の位置よりも低い。


(──気持ちの悪いばあさんだ……)


 トーマは初めて会った時からそう思っていた。


「わざわざ足をお運びいただいたというのに、申し訳ございません」


 先輩は膝を付いてこうべを垂れた。それを、トーマは苦々しく思う。


 信用なんかできない。

 なんの為にこんなことをするのか、教えてもくれないのだ。


「再び私の前に立ちはだかるのか……。セシリア──」


 聞き取るに難いくぐもった声が、微かにトーマの耳に届いた。




 あらかじめ決めておいた集合場所は、人通りもまばらな官庁街の外れ。

 道路脇に待機していた車にたどり着くと、ヒメルはいつの間にか元の顔に戻っていた。


「ヒメルッ!」


 車の中には司令官が既に乗っていて、ヒメルの顔を見るなり首に抱きついた。


「怖かったよね! もう大丈夫だから!」


 その言葉でヒメルもやっと安心したのか、肩の力を抜いて座席の上でへたり込んだ。


「すいません……。あんまり、役に立たなかったかも……」

「そんなことない! そんなことないよッ! すんっごい役に立ったんだからッ!!」


 言いながら、司令官は抱きついた腕に渾身の力を込める。


「あの、すいませ、司令、くるし──!」


 このままでは完全にヘッドロックが決まってしまいそうだったので、スノウは司令官とヒメルを引き剥がして冷静な声音で言った。


「落ち着いて下さい司令官。まだ油断はできません。すぐにここを移動しないと」

「ああ、そうだった」


 はたと顔を上げた少女は運転席に座ったヘルミナを振り返る。


「ヘルミナ出して!」


 ヘルミナは黒髪を少し揺らしてうなずくと、前を向いて車のスターターキーを回した。

 小気味良いエンジン音が身体に響き、車体がゆっくりと動き出す。


「あ、あの。これからどこに行くんですか?」


 戸惑った様子でヒメルが言った。誰かに答えを求めるように車内を見回す。

 彼女が不安に思うのも無理はない。軍の力が及ぶ国内には安寧の地は無い。

 助手席にはジェイスが座っていて、まるでいつぞやガンデルクから逃げてきた時のような錯覚を覚える。


「まあ、しばらくは陰とん生活だな……」


 言葉とは裏腹に、これからやってくる日々を楽しんでいるかのような明るい口調でジェイスは言った。

 それをスノウは眉をひそめて見やる。まったく不謹慎な奴だ。


「これからイルムガードを出て銀狼党ぎんろうとうの本部へ行くの!」

「ぎんろうとう?」


 初めて聞く名称にヒメルは怪訝な表情で司令官の顔を見つめる。


「それってどこにあるんですか?」

「サンクアラだよ」


 司令官が地名を答えてもヒメルの顔は晴れない。あの顔ではどこの国か見当もつかないのだろう。

 スノウは溜め息を付いてから補足説明することにした。


「サンクアラはアルフ・アーウの属領だ」

「アルフ・アーウッ? 帝国に行くんですかッ!?」


 やはりそういう反応をするだろうなとスノウは思う。

 帝国の手から逃げていると言うのに、まさにそのお膝元に潜伏しようと言うのだ。


「だっ、大丈夫なんですかッ? 捕まっちゃうんじゃないんですかッ?」

「サンクアラには現国王政府に抵抗するレジスタンス組織の本拠地がある。そこにちょっとお願いして匿ってもらうわけさ」


 助手席から半身を返してジェイスが言った。


「レジスタンスッ!?」


 かわいそうに。ヒメルはいよいよ物騒になってきた話に愕然としている。


「地下組織だから詳しい場所とかは明かせないんだ。わりぃなヒメル。お前は一応、引き続き行方不明ってことで」

「ええーッ!?」


 ついこの間までいたって平凡な女性兵士だったはずのヒメルの、悲痛な叫びが車内にこだます。


「あ〜あ、これで僕たち、本当に誘拐犯になっちゃったってことじゃん……」


 こちらはこちらで何かと気苦労が絶えない殺し屋の少年の呟きを、スノウは確かに聞いた。



 ◇◆◇



 誰も居なくなった書斎で、ユリスは執務机に掛けひとり物思いに耽っていた。

 今頃、ツルギ達の乗った車はイルムガードを出国する為、国境に向かっているはずだ。


 手配は済んでいる。このまま何事もなく、まずはサンクアラ領に入る。サンクアラはアルフ・アーウ国の属領だ。イルムガードから直接アルフ・アーウには行けないが、サンクアラを経由すれば入国できる。

 サンクアラにはアルフ・アーウ国政府に対抗するレジスタンス組織『銀狼党』がある。

 あとのことは、彼らに任せよう。



 ふう、と息を吐いてユリスは室内を見回した。


「ついに、私ひとりになってしまったか……」


 ツルギがいて、ジェイスとヘルミナがいて。

 うるさいくらい賑やかだった、ほんの数年前。それが今は、たったひとり。



 ツルギが二人で話がしたいと言ったとき、遂にこの日が来たかと、覚悟を決めた。

 あの子が自分から自らの出生について尋ねてくる日を、自分はずっと待っていたのか、それとも避けていたのか……。


 避けていたのかもしれない。自分の過ちに目を背けるように。

 だがいざ尋ねられた時、心の奥では安堵もしていた。


 やっと…、これでやっと自分は解放されるのかもしれない。


 拭うことのできない、罪の意識から──。



『僕にあの夢を見せていたのは君だね、ユリヤ……』


 そう問いかけたあの時、娘の姿をした『彼女』は悲しげに微笑んでいた。


 ツルギの容姿は彼女の生き写しだ。

 いや、むしろ()()()()()()()()()()()()

 彼女の選びそうな服装や髪型、小物や家具に至るまで、意図的にそれらを揃えた環境で娘は育った。


 そんな娘の姿を借りて現れた彼女の眼差しを前にした時、まるで自分まで過去に戻ったかのような錯覚を覚えた。

 同時に、懐かしさと後悔と、泣きたいような切なさで、胸の奥が焼ける感覚がした……。


 そして思い出した事があった。


 彼女は、小さな頃から普通の子供と少し違っていたということ。


 ハインロット家直系の女性には、そういう力を持った者が生まれる。屋敷の誰かがそう話していたのを聞いたことがあった。

 自分には見えないものが、聞こえないものが、彼女には感じ取れていたことを、自分は今になって思い出したのだ。


 あの夢は、戦地から遠く離れた場所にいる彼女が、兄の無事を祈る以外に出来る、唯一のことだったのだろう。


 身に降りかかる災難を予知夢という形で伝える。

 双子である私たちだからこそ出来た方法だったのかも知れない。


 だが、彼女は後悔していると言って表情を曇らせた──。



『私があんなものをあなたに見せたせいで、あなたに望まない呪縛をかけてしまった』

『望まない、呪縛?』

『ジールという呪縛……』


 ジール総督に取り立てられ、後に共犯となってしまったこと。

 そのせいで、今も関係を絶ち切れずにいること。

 そしてどこか心の奥底では、憎むことができないこと──。


『そんなことは──』

『いいえ、あなたは気付いていないだけ!! これは呪縛です。だってあなたはまだあの人のことを……!!』




 意識を現実に戻したユリスは、机に備え付けられた電話器を取り、番号を押した。

 数回コールし、掛けた相手と繋がる。


『……』

「やあリッチー、久しぶり。僕が分かるかい?」


 そう言うと、受話器の向こうでため息が漏れる。


『──ハインロット、お前か。こんな時間に何だ?』

「……なんだか無性に、君の声が聞きたくなってさ──」


 電話の相手は少しの間沈黙し、フッと小さく笑う。


『どうした。何かあったのか?』

「別に、どうもしないよ。ただ……」

『ただ?』

「君に、謝りたくて……」

『謝る……?』


 彼はいつも、こんなに優しく話す人間ではない。

 普段は小言しか言わないバリトンが、今は心地良く耳に届く。


「……ごめん、リッチー。僕は、総督を……」


 すべてを言うことができない。

 だが相手は、こっちが何を伝えたいのかちゃんと分かってくれる。


『お前が謝ることはない。仕方ないさ。頭で分かってはいても、どうにもならないこともある。それが人の気持ちならなおさら……。だが、いつまでも仲良しごっこをしてはいられない。お前が決心してくれたのなら、俺も、もちろんフィフィリーだって協力は惜しまない』

「ふふ、頼もしいな。さすがは海軍部長」

『お前だって陸軍部長だったろ』

「『元』ね」


 今はどうであれ、始まりは確かに総督への憧憬がすべての動機だった。


 あの人の役に立ちたくて、自分を認めて欲しくて。

 それがいつからか、あの人が何を考えているのか、何を見ているのか、分からなくなってしまった──。


『……いつ決行する?』

「もう少し待ってほしいんだ。今、娘が帝国に行っている。もう少し、時間が欲しい」

『分かった。くれぐれも、ジールに気取られるなよ』

「うん。ありがとう。またね……」


 それだけ言って、受話器を置く。

 ユリスはふーっと息を吐いて、椅子の背に身を預け天井を見上げた。


 お膳立ては出来ている。

 あとは実行するか、しないか……。


 いや、実行する以外の選択肢はもう残っていない。ここまで動いているんだ。今更後戻りは出来ない。

 あとはいつ決行するのか……。


「ジールの呪縛……か」


 確かに、呪縛というのは正しい。

 今だにユリスは、彼を前にすると身体が動かなくなり汗が吹き出る。

 たが断ち切らなければ。ツルギの為に。

 自分の為に──





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