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 ポワルドゥルキャロットのカールバーンが来たと同時に僕の生活は一変したわけだけど、それはとても胸の躍る生活だった。知らないことを知るのは大変だけど、僕は言語の習得が苦にならないし、それに伴って知らない文化を知ることも興味がある。そういう意味では、カールバーンがやってくるということは、このうえもなくエキサイティングな経験だった。

 彼らがやってきて、最初のうち数日間は誰もかれも興奮していて、村もそうだけどお城の中もざわついていた。お城に来たポワルドゥルキャロットの人は10人で、基本的に長の家族。それとお付の人が男女一人ずつだった。だから、足を洗うのも、長の家族として接すればいいので、こちらもやりやすかった。

 あ、さすがに女の人の足は洗わない。お付きの女性は洗ってほしいと言っていたのだけど、やっぱりなんか女性の足を洗うのってねえ・・・僕にはできないよ。ただ、熱く絞った布を差し上げたらとても喜ばれた。

「ありがとう、ミツヒコ。わたくしは、アルジャメッロ。メッロとお呼びください」

 ちょっと発音が難しい名前だけど、メッロなら呼びやすい。ちなみにこのお付きの女性、ものすごい美人で、僕としても二人で話すだけでもドキドキしてしまうほど。それなのに彼女は僕がドキドキしていることなんて気にしないみたいに、自分の足を洗うと、僕があげた手ぬぐいで足を拭き始めた。

 目のやり場に困るんだけど・・・

 ガン見するわけにもいかないし、だからと言ってわざとらしく後ろを向くのもどうかと思うので、使い終わった布を洗ったりその辺を片付けたり、ちょっと忙しそうにしてみた。

 それなのにメッロはゆっくりと足を拭いていて、なかなか終わりそうにない。

 そんなに時間かからないでしょ!?

 ポワルドゥルキャロットの衣服はしっかりと織られた布でできている、細身のワンピースのようなものを着ている。やっと彼女は足を拭き終わってスカートを元に戻した。

「お受け取りします」

 布を受け取るとき、彼女はにっこりと笑っていた。

 えっと。

 えっと。

 普段は誰にでも話すのは好きなんだけど、なんだか彼女には言葉が出てこない。聞きたいことや話したいことはあるんだけど、うまく言葉が出ない。き、緊張する。

 彼女はクスっと笑って、口を開いた。

「あなたはデュウの人ではないみたい。髪の色もそうだし、目の色も」

「え」

 いきなり至近距離でのぞき込まれて固まってしまった。

 うわ、顔、近い、んですけど・・・

「メッロ!」

「はあ~い」

 いきなり向こうから、ポワルドゥルキャロットの奥さんが声をかけたので、メッロはそちらに向いた。はあ、圧迫感からの解放。そんなことを言ったら失礼か。

「お仕事の邪魔をしてはいけませんよ。ミツヒコが困っているじゃないの」

「わかっていまーす。ではまた、ミツヒコ」

「はい。ありがとうございます」

 メッロも僕にチップをくれた。しかも2枚も。うーん、そんなサービスしてくれなくていいのに。布しか貸してないのになあ。

 メッロと奥さんは楽しそうにおしゃべりしながら奥の部屋へ歩いて行った。こうしてみると友だちみたいだ。メッロは僕と同年代だと思う。奥さんの方が少し上だろう。小さな子がいるから。

 それにしても、本当にきれいな人だな。


 お城に滞在している10人は基本的に、午前中にお城を出て村の外にテントを張っている人たちと合流する。そしてそこで一緒にカールバーンを営むんだ。だから帰ってくるのは早めの夕方ごろ。

 僕もその時間にお城にいれば良いので、午前中は村のカールバーンを見に行けることになった。

 ダチョウの係りのオンブリカルが僕にもダチョウを貸してくれた。

「見失っても大丈夫ですよ。賢い子ですから。でも一応、首に目印をつけておきましょうね」

 と言って、僕用のダチョウの首に緑色の紐を巻いておいてくれた。

「ありがとう。オンブリカルも一緒に村まで行かないかい?」

「私はけっこうです。ここにいてダチョウの世話をするのが好きなので」

「オンブリカルは本当に動物が好きなんだね。ポワルドゥルキャロットの動物とも仲良くなっているし、すごいなあ」

 そう言うとオンブリカルは嬉しそうに笑って、ポワルドゥルキャロットのラクダのことも撫でていた。動物のほうも彼にはすぐに懐く気がする。こういうのも一種の才能だろうな。

「じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。楽しんできてくださいね」

 彼は笑顔で僕を送り出してくれた。僕もダチョウの上から手を振った。

 オンブリカルはダチョウの首に緑色の紐を巻いてくれたんだけど、これって、僕の首に緑色の紐が巻いてあるからかもしれない。この緑色の紐はお城勤めの証で、ネクタイみたいな物って言えばわかるかな。お城の人はみんなネクタイをしているんだけど、僕のネクタイが緑色なんだ。緑色のネクタイをしている人は他にはいない。お城のデュウの人は基本的に朱色。会計や教師のような人は赤茶色。食事関係の人は黄色系、と色で職種が区別されている。とにかく、お城にいる人はみんなネクタイ。これが制服なんだな。

 それで、僕だけは緑なので、オンブリカルはそれに合わせた色を付けてくれたんだ。すごく気が利いて素敵だよね。

 彼の気遣いのお礼に、何か良いものがあったら買ってこようと思う。ということで、一度自宅(ハタさんの家の隣)に寄ることにした。



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