逃走
馬車が猛スピードで走っていく。
あれからそれなりに時間はたってるけど、まだ森の出口は見えてこない。
後ろからはラーウルフ達の遠吠えが何回か聞こえてきているし……
遠吠えが聞こえてくる度に、距離が縮まってるような気がする。
このまま逃げられるのかな……?
「今のところラーウルフの姿は確認できませんが、近付いてきてはいます」
「ああ、わかってる。またなにか変化があれば教えてもらえるかい?」
「わかりました」
マリーは耳を澄まして後ろを警戒している。
モーティマもキョロキョロを辺りを見まわしてる。
「草をかき分ける音が聞こえてきました。けっこう近くまで来てます!」
「とうとう追いつかれちゃったのかい。どれくらい来ているかわかるかい?」
「そこまでは……でも……あれ!? グリュエールさん! ラーウルフ達が馬車より前へ行こうとしてます!」
「なんだって!? くそ……思ったよりも早いね……モーティマ!」
「おう! なんだ!?」
モーティマが慌てて、グリュエールへと聞き返す。
「おそらく、森からラーウルフが飛び出してきて馬を狙うと思う。馬が襲われる前になんとかウルと協力してラーウルフを撃退してもらいたいんだ」
「おう。わかった」
とにかくラーウルフが近付く前に魔法を当てればいいってことだね。
あれ? 横の茂み……揺れてるよね?
あそこにいるのかな。
「モーティマ、僕をあっちに向けて」
「なんだ? あっちか?」
モーティマが茂みが揺れていた方に僕を向けてくれた。
あの辺りかな? 大体でいっか。
「“ウインド”! “ウインド”!」
木を切り倒しながら、風の刃が森の中へ入っていく。
木が倒れる音の他にも、なにかが地面を転げる様な音も聞こえてきた。
当たったのかな?
「ウル、今のって……ラーウルフに当てたのかい?」
「うん。たぶん。茂みが動いてたから、あの辺りにいるかなって」
「やるね、ウル! その調子で狙えると思ったら撃っちゃって! モーティマもよろしくね」
「うん!」
「おう!」
「今ので木が倒れて邪魔になったのか、ちょっと距離が出来ました!」
「マリー、本当かい!? ウル、逆側も木を倒して!」
「わかった! “ウインド”!」
両側の木が倒れて少しラーウルフと距離が出来たみたい。
この調子でたまに木を倒せば、前に回られることはないかな?
「ラーウルフが街道に出てきました! 狙います!」
マリーがラーウルフへ向かって矢を放つ!
こんな揺れてる馬車じゃ、当たらないんじゃ……って思ってたのに!
「よし! 当たった!」
マリーの放った矢はしっかりラーウルフに当たった!
急所じゃなかったみたいでまだ生きてはいるけど、追ってくるスピードは落ちたから、あのラーウルフは馬車に追いつけなそう!
マリー凄いよ!
その後も、横から来るラーウルフは僕が。
街道に出てきて、後ろから追ってくるのはマリーが。
なんとか撃退しながら、馬車は進んでいく。
ケガをさせたりして少し距離が稼げたと思えば、他のラーウルフが出てきて追いかけてくる……
何匹いるんだよ!
このままじゃ、そのうち追いつかれちゃう!
「おい! 出口はまだか!?」
「まだ……あ! 見えてきた! もうすぐ森から抜けられるよ
周囲に生い茂っていた木々が減っていく。
良かった! これでやっと森を抜けられたんだ!
「マリー、後ろの様子は!?」
「ラーウルフ達は……追ってこないみたい。森から出てこないです」
「そうかい……無事に抜けられたね」
「良かった……」
「疲れたな……」
「さて、じゃあもう少し進んだら今日は休もう。この子もさすがに休ませてあげないと」
グリュエールはそういいながら馬車を牽いてくれている馬を見ている。
あれだけのスピードでずっと走っていたんだもんね!
馬って凄いな。




