ラーウルフ
街道の両側には、少し離れて森が広がっている。
今はその両側の森から狼の鳴き声が聞こえてくる。
まだ追いつかれてはないけど、もう時間の問題かな……
「そろそろ来そうだね。あたし達の魔法とマリーの弓矢があるなら、馬車を走らせながらでもいいかもしれないけど……向こうの方が速そうだし、馬が狙われると面倒だから、降りて戦うよ」
「わかりました」
「おう。そうじゃねえと、俺が何も出来ないからな」
確かに魔法と弓矢だけで倒しちゃったら、モーティマは見てるだけだもんね。
やっぱ皆で一緒に戦わないと寂しいしね!
「あそこ見えるかい? ちょっと開けている所があるだろ? あそこで馬車を停める。後ろからくる狼は、あたしとウル、マリーで相手するから、モーティマは前を警戒して」
「おう! 任せとけ」
馬車が、開けた場所まで辿りついた。
馬車を停めた直後、マリーとモーティマはすぐに降りて警戒をする。
グリュエールも僕を持って馬車の後ろ側へ周り、狼たちが来るであろう方向を見ている。
狼たちの遠吠えが聞こえなくなった。
周りも静まり返っている。
うわー……ドキドキする!
「ウオーーーン」
静かな森の中に狼の遠吠えが響き渡った。
ガサガサと草をかき分けるような音も聞こえてくる。
「来るよ!」
グリュエールがそう言った時、森の中から五匹の狼が飛び出してきた。
「マリーの予想通り、ラーウルフだね。ウル、“ウインド”でいくよ。威力は強くていい!」
「わかった! “ウインド”!」
「あたしも。“ウインド”!」
僕の放った“ウインド”が先頭にいたラーウルフに当たり、体を縦に裂く。そのまま後ろにいたラーウルフの足にも当たり、倒れ込んだ。
グリュエールの放った“ウインド”は避けられた! けど、そこへマリーの矢が飛ぶ。見事に矢がラーウルフの目に突き刺さり、そのラーウルフも転げていった。
あと二匹!
残った二匹は倒れているラーウルフを気にすることもなく、左右に別れてこっちへ向かって走ってくる。
「“ウインド”! “ウインド”!」
僕が左側のラーウルフに向けて、二発続けて“ウインド”を放つ!
二発とも見事に命中! ラーウルフはバラバラになって倒れる。
もう一匹は!?
飛んだ!
グリュエールに向かって飛びかかってきた!
「ウル、ごめんよ」
「え?」
グリュエールは僕に謝ったかと思うと、僕を投げ捨てた!
えっ!? ちょっ!
僕を投げ捨てた後、背負っていた杖を構えてラーウルフへ先端を向ける。
ラーウルフと杖がぶつかったと思ったら、杖をくるっと回して、ラーウルフを地面に叩きつけた。
えっ!? なに今の動き! どうやったの!?
グリュエールは地面に叩きつけたラーウルフの喉を短剣で斬り、絶命させる。
「一先ず片付いたね。モーティマ! そっちは大丈夫かい?」
「ああ、こっちは何も……うをっ!」
モーティマが悲鳴を上げてる!
「マリーはそのままそこで警戒! ウル行くよ!」
グリュエールが僕を拾って、モーティマの所へ駆けつける。
モーティマは二匹のラーウルフと睨みあっていた。
「一匹飛びかかって来やがったぜ」
モーティマはそう言いながら、棍棒を振り回してる。
きっと棍棒でラーウルフを弾き飛ばしたんだね!
「よくやったね、モーティマ。後は任せておきな!
行くよ、ウル!」
「うん! さっきと一緒でいいの?」
「そうだね。ウルは左を。あたしは右!」
「「“ウインド”!」」
僕とグリュエールの“ウインド”がそれぞれラーウルフに襲いかかる。
僕の魔法は見事に命中して、ラーウルフを真っ二つに。
グリュエールの方は……また避けられてる!
僕の魔法とグリュエールの魔法だと速さも全然違うみたい。
グリュエールの“ウインド”を避けたラーウルフはそのままこっちに向かって駆けてくる!
……と思ったら、一歩踏み出した直後に森へ向けて走り去って行った。
「終わったのか?」
「そうだね。ごめん、最後仕留められなかった」
「ま、いいんじゃねえか? 皆無事みたいだし」
ふう。これで終わりみたい。
ラーウルフは動きが速いから怖いね!
「よし、じゃあ魔石と毛皮を回収しておこうか」
魔石はどんなモンスターにも存在しているみたい。
今回は毛皮も持って行く。ラーウルフの毛皮は装備品の素材にもなるらしい。
三人でラーウルフの死体をまとめて、剥ぎ取りをしていると……
「ウオーーーーーン!!」
「なんだい、まだいるのかい!?」
狼の遠吠えがまた聞こえてきた。




