タイフーン
斥候が走り去ってから少しすると、地響きが聞こえてきた。
大量のオークがこっちへ向かってきている音なのかな。
「もうすぐ見えてきそうだね」
グリュエールがそう言うと、森からオークが姿を現してきた。
一匹、二匹……うわっ! 多すぎて数えてられないよ!
「来たぞー! 全員構え!!」
僕達の後ろから声が聞こえてきた。
防壁の方で待ち構えている冒険者達もちゃんと準備しているみたいだね。
「ウル。魔法の射程内に入ったら撃ってくれるかい?」
「え? 射程内に入ったら撃っていいの? あそこなら当たると思うけど」
「はあ!? まだかなり距離あるよ!?」
「うん。“タイフーン”は前にも使ったことあるって言ったよね? あれくらいだったら届くと思うよ」
「そっ……そうなのかい。じゃあやってみようか?」
「うん! わかった!」
この前、魔王城の瓦礫をどかすために“タイフーン”を使ったときは、僕を中心にして五つの竜巻が生まれてた。
五つの竜巻はバラバラの方向へ飛んで行ったけど、ここでそんなことしたらアンカの町にまで被害でちゃうから、絶対にダメ!
全部を前に。オークの方に全部飛んで行くようにしないとね!
よーし、いくよー!
「“タイフーン”!」
よし、うまくいった!
五つの竜巻が前の方に出てきた。
五つの竜巻はどんどん大きくなっていく。
あ、どうしよう。
竜巻同士がぶつかってる……
あれ? 合体した?
うわー……
すっごく大きくなった……
アンカの町なんて飲み込みそうなくらいの大きさ。
風すごっ!
グリュエールたちは飛ばされないように踏ん張ってるのがやっとで前が見えてない。
あ、オークたちに向かって進み始めた。
動き出したらスピードも凄く速い!
もうオークに衝突した!
オークがどんどん竜巻に巻き込まれていって、森まで巻き込まれちゃってる。
あれ……どこまで進んでいくんだろ。
うわー……
竜巻の通った後はメチャクチャになってる。
木が倒れていたり、オークの死体が転がってたり。
土も舞い上がってるから、土に埋もれてるやつもいそうだし。
あ、竜巻がやっと消えた。
動いてるオークは……いなそうだね。
オークの上位種がいるかもって言ってたけど、これじゃあどれが上位種なのかもわからないや。
「終わったみたいだね」
「「「…………」」」
あれ? 三人とも黙ったまま。
後ろにいる冒険者たちも静かだし。
うん。やりすぎたみたいだね。
僕もこんなことになるとは思ってなかったんだよ。
えっと……
大丈夫かな。これ。
「ウル……これ……何?」
「何って?」
「“タイフーン”だよね? 使った魔法は」
「うん。そうだよ」
「なんでこんなことになるんだい?」
「え? そんなこと聞かれても……僕もびっくりしてるよ」
「前に使ったことあるって言ってなかったかい?」
「前はバラバラの方向に飛んでいったんだ。でも、今回のは合体しちゃったから、あんなに大きくなったのかな」
「そうなのかい……」
グリュエールが呆然と竜巻が通った後を見ている。
マリーとモーティマはまだしゃべることもできてないし……
うーん……どうしよう。




