初めての野営
「お待たせ~」
「遅えぞ、なにやってたんだ」
「ごめん、ごめん! もう準備出来ちゃってる?」
「後はあんたを詰め込めばすぐに出発出来るぞ」
「ちょっと、あたしを荷物みたいに扱うのは止めてくれるかい?」
マリーとモーティマが出発の準備を整えておいてくれた。
グリュエールは僕を連れて遅れて到着。
御者台に座るマリーに僕を預けて、グリュエールは馬車に乗り込む。
「ねえ、ウル。グリュエールさんと何してたの?」
マリーはグリュエールと同じ部屋にいたのに、先に行っててと言われちゃって、その後もなかなか来なかったから気になるよね。
「うーん……グリュエールが後で教えてくれると思うよ」
「そっか。ならいいのかな?」
「ほら、話してないで出発するよ。予定よりちょっと遅れちゃってるから」
「あんたのせいだろ!」
マリーが苦笑いしながら、馬車を動かし始める。
シャリル村を出て、また街道を進む。
「ねえ、この辺もモンスターは全然出ないの?」
お昼休憩も終わって、御者台にはグリュエールが座ってる。
王都からもう馬車で一日半進んでるのに、モンスターの影も見えない。
「まだ王都に近い場所だからね。この辺もちゃんと整備されてるよ」
「そういうものなの?」
「そうだね。あそこに森が見えるでしょ?」
グリュエールが指さしたのは街道から離れたところにある森。
「うん」
「あの森の中にならモンスターがいると思うよ。でもこの街道は頻繁に人が通行するから、こっちに来たら危ないってモンスターも気付いているんだ」
「そうなんだね。じゃあ僕が警戒してる意味ってないんじゃ?」
「そんなことないよ。たまに群れからはぐれて街道までくるモンスターもいるし、警戒するのはモンスターだけじゃない」
「モンスターだけじゃない?」
「そうさ。モンスターだけじゃない、人にも気を付けないと」
「人に?」
「盗賊だっているし、すれ違った人がいきなり襲いかかってくるかもしれないよ」
「あ、盗賊かあ」
そういえば、マリー達も盗賊に襲われたんだった。
「ま、こんな荷物がほとんど載っていなそうな小さい馬車を襲う奴なんていないだろうけどね」
襲うのだって、返り討ちにあう可能性もあるもんね。
僕を最初に拾ったクルト達みたいに。
「今はまだそんなに気にしていなくてもいいさ。もっと王都から離れれば、モンスターに襲われることも多くなるから」
その後もモンスターにも人間にも襲われることもなく日が暮れてきた。
「さて、じゃあ今日はここまでにしておこうか」
グリュエールが街道の隅に馬車を停めて皆に声をかける。
「テントを張るのか?」
「そうだね。三人でさっさとやっちゃおう」
“アイテムボックス”の中からテント等を出したら僕の仕事は終了。
三人は慣れた手つきであっという間にテントを組み立てていった。
「ねえ、ウルは“ファイアーボール”を使えるんだよね? この薪に火をつけることってできるかい?」
「えっと……わからない。やったことないや」
「よし、じゃあ一回やってみよう!」
グリュエールがノリノリで薪を組み立てる。
「あそこ狙って“ファイアーボール”を撃ってみて」
「うん、わかった。“ファイアーボール”!」
薪に命中!
見事に燃え尽きた!
「あ、燃え尽きちゃった」
「弱く調整とかは出来ないのかい?」
「うーん……調整できるようになりたんだけど、やり方もわからないんだ」
「なるほど。高威力は出せるけど、調整は出来ない……と。ま、今はそれでいいか」
グリュエールはまた薪を組み立てて、今度は火打石を使って火をつけた。
火が強くなるまでは時間がかかって大変そう。
“ファイアーボール”で火をつけられれば、かなり楽できるんだ。調整できるようになりたいな。
そしたら、もっと皆の役に立てるのに。
「さて、じゃあご飯を食べちゃおうか」
グリュエールは僕の“アイテムボックス”に手を入れて、干し肉と黒いパンを取り出して配る。
「昨日の飯は美味かったのにな。野宿だとこれか……」
「しょうがないよ。日持ちする物なんてこれくらいなんだから」
モーティマとマリーが寂しそうに干し肉とパンを見つめてる。
「ふっふっふ……それだけだなんて誰が言った?」
「え?」
「これを見よ!」
グリュエールが更に取り出したのは大きな鍋。
「鍋? え……それって」
「そう! 啄木鳥亭のシチューさ!」
グリュエールは宿屋の店主さんに鍋いっぱいのシチューもお願いしてたんだ。
朝一で持っていくからって、厨房によって鍋ごと貰って来た。その分、代金は高くなったんだけどね。
その鍋を僕の“アイテムボックス”に仕舞ってあったから、アツアツのままなはず。
「グリュエール、あんた……最高だな! それで朝遅れてきたのか?」
「その通りさ!」
「……なんでまだ温かいんですか? 朝から時間経ってるはずなのに」
「ウルの“アイテムボックス”は入れた時の状態が固定されてるみたいなんだ。だから熱い物を入れれば、熱いまま取り出せる!
これに気付いたのが出発前日の夜だったんだよ……もっと早く気付けば、色々なご飯を持ってこれたんだけどね」
「そうだったんだ……」
「なんて便利な奴なんだ……」
モーティマが僕を見ながらつぶやく。
皆に喜んでもらえるなら、僕も嬉しいや!
「さあ、食べちゃおうか」
ご飯を食べ終わったら後は寝るだけ。
でも野営だから誰かが見張りをしていないと危ない。
「見張りは、あたし、マリー、モーティマの順番でいいかい?」
「はい、大丈夫です」
「それでいいぞ」
「あ、僕はずっと起きてるから一緒に見張りするよ」
皆が一斉に僕を見てくる……
「ウル、あんた便利すぎるね……」
褒められた? 僕は特に何もやってないのにね。
今夜は誰かが一緒に起きててくれるから、話し相手がいてくれて僕はうれしいくらいなのに。




