準備中
「ねえ、イリーシス。モーティマも連れて行っていいかい?」
「モーティマさんをですか? あなたなら一人でも大丈夫でしょう。道案内役のマリーさんもいれば問題ないのでは?」
あ、そうだ。モーティマだ。
モーティマの事を忘れてたんだ。
「テッド村へ行くまでにもけっこう時間かかっちゃうでしょ? モーティマも一緒なら、ウルを使った実験を色々できるし、時間が無駄にならないんじゃないかい?」
「そうですね……」
ギルド長が難しい顔をして沈黙する。
「いいでしょう。ウルさんの実験を同時進行でやって頂けるのなら助かります。魔族の事が絡むかもしれないので、あまり大人数になるのは困りますが、一人くらい問題ないでしょう。
モーティマさんを呼んできますので、少々お待ち下さい」
しばらくの間、悩んでいたギルド長だったけど、モーティマを連れて行く許可が出た。
ギルド長がモーティマを呼ぶ為に、部屋から出て行く。
結局モーティマも一緒に行くなら、追い出さないでおけば楽だったのに。
それに……魔族が絡むとなにがいけないんだろ。
「ねえ、魔族が絡むとなんで大人数だとダメなの?」
「魔族は怖ろしいってイメージがあるからね。王国内に魔族がいるって騒ぎになると大変だから、あまり知っている人は多くない方がいいのさ」
「でもそんな怖ろしいなら、大人数で行ったほうが安心じゃないの?」
「うーん。もし戦うってなったらそうかもしれないけど、今回は調査だからね。調査するなら人数は少ない方が動きやすいし」
「そうなんだ……」
魔族の人達ってそんなに怖くないのにね。
もっとちゃんと話し合えばいいのに。
モーティマを連れて戻ってきたギルド長が、モーティマへ説明をしてあげてる。
「で、どうでしょう。協力して頂けますか?」
「……俺の昇格試験はどうなるんだ?」
「この依頼を受けて頂いた場合、帰って来てから筆記試験を受けてもらうことになります」
「……わかった。やってやるよ。マリーの村が危ねえんだもんな」
「では、明日の一の鐘が鳴るまでに、冒険者ギルド前へ馬車を用意しておきます。そこへ荷物を載せて出発してください」
荷物? さっきの話だと物を運ぶなんて言ってなかったと思うけど……
「荷物ってなにがあるの?」
「ウル、あたし達人間は食べなきゃ生きていけないし、何ヶ月もかかるなら野宿する為のテントとかも必要になってくるんだよ。だからその荷物を運ぶ為に馬車を用意してくれるって話さ」
「それくらい僕にだってわかるよ! ただ、その程度の荷物なら、僕の“アイテムボックス”に入ると思うよ?」
「あ、そっか。ウルがいれば荷物も預けられるし、“クリア”もあるんだったね」
「“クリア”って物を綺麗にするだけの魔法だろ? なんの為に必要なんだ?」
「ウルは全身に魔法をかけられるから、水浴びいらずなんだよ」
「ふーん……」
モーティマは“クリア”には全然反応しないや。
いつも水浴びとかしないのかな?
「……ウルさんの“アイテムボックス”は、どれくらいの容量があるのですか?」
「え? 容量……調べたことないから限界はわからないけど、かなり入ると思うよ。三人分の荷物なら余裕だと思うけど」
「そうですか。それなら馬車ではなく、馬だけのほうがいいですね。三人とも馬には乗れますか?」
「もちろん!」
「はい、乗れます」
「……俺は乗ったことねえ」
「巨人族との混血なら仕方ないかもしれませんね。その体型では乗れる馬も限られてしまうでしょうから。
では今回は小型の馬車を用意します。荷物がない分、予定よりは早く目的地へ着けるでしょう」
「すまん……」
「気にしなくていいよ、モーティマ。馬車の方がゆっくりできるからあたしはその方がいいし」
「私もそんなに経験ないから、王都からテッド村までずっと馬に乗っていくのは不安だよ」
モーティマがちょっと落ち込んじゃったけど、とりあえず明日の朝、冒険者ギルド前に集合ってことで決まった。他にも細々した話はあったけど、ご飯の話とかお金の話だったから僕にはよくわからなかった……
それにしてもマリーの故郷かあ……楽しみだね。
「あ、ウルはあたしが借りてくよ。“アイテムボックス”があるなら色々詰め込みたいし」
えっ?
何を入れる気!?




