実験終了?
「じゃあ次は……モンスターのいるところで抜いてみるっていうのもやってみたいけど、今すぐは無理だし。
あ、そうだ、ウル。人数が増えるとどうなるんだい? 人族がいっぱいいたりとか」
「えっ? 人数? どうだろ……わかんないや」
言われてみて気付いたけど、ギルド長のときもイゾウのときも、人族は一人しかいなかったんだ。
最初に抜かれた、盗賊のときにはいっぱいいたのかもしれないけど、誰が人族で誰がそうじゃないのかなんてわからなかったし……
「混血の人が二人いたら、衝動がちょっと強くなるってことはありえそうかい?」
「うーん……やってみないとわからないよ」
「そりゃそうだよね! よし、誰か混血の知り合いはいないかい?」
「私は王都に知り合いが全然いなくて……」
「……俺もいないな」
「残念。あたしの知り合いにも混血の人はいるんだけど、今は王都から離れてるんだよね。
混血の人に関しては、イリーシスを頼ってみるか」
この実験もすぐには無理みたいだね。
「やりたい実験は色々あるけど、今ここの会議室で出来ることは少ないみたいだね」
えっ? もう終わり!?
「よし、じゃあ今からモンスターのいる所までいこうか!」
「ちょっ! ちょっと待ってくれ! モンスターのいる所ってどこまで行く気だ?」
「昇格試験で使ったダンジョンがいいんじゃないかい? 同じ場所の方がいいだろ?」
「今から行って実験してたら、明日中に帰ってこれないかもしれないよな?」
「まあそうだね。どれくらい時間かかるかわからないし」
「それは困る。明日もう一度試験を受けるんだ」
「ああ、そうか……
もう不合格でいいんじゃないかい?」
「良くねえよ!」
僕も自分のこと知りたいけど、モーティマの試験も大事だよね。
グリュエールも、さすがに無理矢理連れて行くわけにもいかないみたいで、渋々諦めてる。
「あの……私も……」
「え? マリーも何かあるのかい?」
「あまり何日もかかるようなら、一度村に帰ってからがいいんですが……」
「村? どこの村だい?」
「テッド村です」
「テッド村!? そんなの下手したら何ヶ月もかかるじゃないか! なんでそんな村に……」
「私の産まれ故郷です。村の復興資金が貯まったので、渡しに行きたくて」
「ああ、そうなのか。テッド村ね……マリーも苦労してるんだね」
「私はそこまでじゃないです。村に残ってる人達の方がきっと大変で……」
「テッド村? どこだ?」
グリュエールはテッド村って聞いただけで、モンスターに襲われた村だってことまで理解したみたい。
モーティマは何もわかってなさそうだけどね。
「村へはいつ出発予定なんだい?」
「まだそこまで決めてはいなかったんですけど、なるべく早めに帰ろうと思ってました」
「なあ、マリー。村へ帰るのか? 冒険者ランクがあがったばっかなのに?」
「うん。ごめんね、モーティマさん。今日ちゃんと話そうと思ってたんだけど、私は元々村の復興資金を稼ぐ為に王都に来たの。
稼ぐ為には冒険者ランクが高い方がいいから、昇格試験も受けたんだけど……
目標だった金額が貯まったから、村へ帰ろうと思ってる」
「そうか……」
モーティマが寂しそう……
モーティマはずっと一人で冒険してて、昨日の昇格試験で久しぶりにパーティ組んだって言ってたし、マリーとの冒険が楽しかったのかな。
「マリー、村に帰るまでは協力してくれるのかい?」
「はい! それまでで良ければ」
「そうかい。ありがとう。とりあえず、今ここで出来ることはもうないから、今日は解散かな。明日、モーティマの試験が終わった後にもう一度集まってもらえるかい?」
「モーティマさん、筆記試験はいつまで?」
「昨日と同じで、二の鐘から三の鐘までだ」
「じゃあ、それまでに私は村へ戻る日取りとか決めておきますね」
「よろしく! じゃあ明日、冒険者ギルド前に三の鐘でいいかい?」
「おう」
「わかりました」
今日はもう解散。
後は明日か……
「よし、じゃあイリーシスへ報告に行こうか。あたしだけでもいいんだけど、どうする? 皆で行く?」
「ギルド長室ってちょっと気になるんだよな。一緒に行っていいか?」
「うん、いいよ。マリーはどうする?」
「あ、じゃあ私も行きます」
三人で会議室を出て、階段を上っていく。
グリュエールがギルド長室の扉をノックしようとした時、中から扉が開けられた。
「うわっ! ああ、すみません」
中から冒険者のような格好をした人が出てきて、目の前にいたグリュエールに驚いてる。
「こちらこそ、ごめんよ。ちょうどノックしようとしたところだったんだ」
「いえ、すみませんでした。では……」
冒険者風の男はそのまま階段を降りて行った。
「グリュエールですか? 丁度いい。入ってきてください」
部屋からギルド長が声をかけてくる。
丁度いいって……?




