実験開始
「よし、じゃあまずは……マリー、ウルを抜いてみて」
「はい! 行くよ、ウル」
「うん!」
マリーが僕を手に取り、鞘から抜く。
ダンジョンの帰り道にモーティマと一緒に歩いていた時みたいに、ちょっとモヤモヤした気持ちになるけど……
声は聞こえてこない。
ねえ、聞こえる?
魔王様なの?
返事して……
「どうだい? ウル」
「……声は聞こえてこないよ」
「会話出来た時とは違う感じがするのかい?」
「えっと……」
確か、会話出来た時はもうちょっと衝動が強かったような気がする。
今みたいに、ちょっと変な気分になるのは、オーガ退治が終わった後、モーティマと一緒の帰り道。
モンスターの群れを前にして、マリーが僕を鞘から抜いた時にはもっと強い衝動が来てたんだ。
今よりは強くて、それまでよりは弱い衝動。
「会話が出来た時は今より衝動が強かったんだよ。今の衝動はそれより弱くて、モヤモヤした気分になるくらいなの。説明するの難しいんだけど……」
皆にわかるように説明ってどう言えばいいんだろ!?
僕もちゃんとわかってないのに……
「なるほど。つまり衝動にも強弱があると。丁度いい強さじゃないと会話はできないみたいだね」
「うん。たぶん……」
「今までにウルが感じた強さをランク付けすると……」
グリュエールが四段階にわけて、衝動の説明をしてくれた。
・強……僕でも抑えられない衝動が来る。かなり怖い。
・中……これがきっと会話出来た時に来た衝動。これを今目指してる。
・弱……今の状態。モヤモヤするくらい。
・無……まったく衝動が来ない状態。
「こんな感じかな。どうだい?」
「うん! そんな感じだと思う!」
グリュエールがまとめてくれるとわかりやすい!
今よりもうちょっと強い衝動ならきっと会話出来るんだ!
でも……もうちょっと強い衝動ってどうやれば来るんだろ?
「さて、じゃあ次だね。ウルも気付いてると思うけど、もうちょっと強い衝動が来てほしいわけだ」
「うん。そうだね」
「人族がいる時以外で、衝動が来たとか、強くなったとかそんなことはなかったかい?」
「うーん……」
人族が原因かもしれないっていうのも聞いたばっかだし、そんなこと考えてなかったから全然わからない……
あ、でもあの時……
「……モーティマを助ける為にモンスターの群れと戦ってた時なんだけど、マリーが怪我をした時に衝動に呑みこまれそうになったような気がする」
「えっ!? そうなの?」
「うん。でもマリーが怪我させられて、僕が怒っただけで……衝動が強くなったわけじゃないかも」
「ウル……」
マリーが僕を優しく撫でてくれる。
「マリーが傷付けば衝動が強くなる……よし、モーティマ。マリーを殴ってみてくれるかい?」
「はあ!? おまえ……いきなり何を言ってんだ!」
「え? 何って、実験だよ。それで衝動が強くなれば成功でしょ?
マリーだって協力してくれるって言ってるし!」
「おまっ……」
モーティマが口を開けたまま呆然としてる。
僕もちょっとグリュエールが怖い……
マリーは……
「私はいいよ。それくらいでウルの為になるなら」
「ちょっとマリー!? 僕の為って言っても、怪我とかヤダよ! グリュエールもやめて!」
「でもそれで衝動が強くなるなら……」
「だから、衝動が強くなったわけじゃなくて、僕が衝動を抑えようって思わなくなっちゃったせいで呑みこまれそうになっただけだってば!」
「本当かい? あたし達は今のところ、ウルの言葉を頼りにやっていくしかないんだよ?」
「……うん。本当だと……思う」
「そうかい。まあウルの機嫌を損ねちゃうのも問題だしね。マリーを傷付けるのはナシにしておこう」
良かった……
でもグリュエールは実験の為ならなんでもしちゃいそう?
ダメな物はダメってちゃんと言わなきゃ!




