僕と仮説
「僕が知識あるアイテムになれたのは、魔王様のおかげだと思うよ」
「ほうほう、なんでそう思うんだい?」
グリュエールが目をキラキラさせながら聞いてくる。
「なんで……? なんでって言われると……
あ、そうだ! 僕は魔王様が使ってた魔法が使えるから、これは魔王様の魔力に染まったからなんじゃないかなって」
「なるほどね。同じ魔力だから同じ魔法が使えると……
確かに魔力が強い人が亡くなると、そこに魔力溜りが出来やすいって話は聞いたことがある。魔王ならすごい魔力量だろうから魔力溜りが出来て知識あるアイテムになる可能性もあるのかな」
「うん……だから僕は魔王様の願いを叶えたいって思ったんだもん!」
「ふーむ……じゃあ……その魔王? いや、でも……」
またグリュエールがぶつぶつと言いながら、耳の先っぽを触ってる。
これ考える時の癖なのかな。
ギルド長もなにも言わずにグリュエールを見つめてるだけだし、見慣れてる?
「魔王ってどんな性格だったの? ウルがわかる範囲でいいから教えて」
「魔王様はね、すっごい優しい人だったよ! 仲間思いだったし、心の底から平和を願ってた!」
「仲間思い……ね。じゃあもし、魔族の仲間達が傷付けられたらどうしてた?」
「えっ? えっと……危険なモンスターとか出たら、討伐隊を出したりしてたと思うけど」
「じゃあ相手が人族だったら?」
「うーん……わからない。僕が知ってる中で人族が攻めてきたのは、魔王様が殺されちゃったときだけだから」
「……仮説だけど、あたしの考えを話してもいいかな?」
「うん! 聞きたい!」
「ウルは魔王の魔力に染められてる。それならウルの感情も少なからず魔王に寄ってると思う」
「うん」
「斬りたいって溢れてくる衝動も同じ。魔王の感情なんじゃないかな」
「魔王様が!? あんなに優しかったのに、そんなこと考えるわけないよ!」
「あたしの予想なんだから、外れてるかもしれない。だから落ち着いて聞いて?」
「うん……ごめん」
「魔王は優しかったからこそ、仲間達が殺されるのを許せなかったんじゃないかな。仲間を助けることも出来ない。仇をとることも出来ない。だって死んじゃってるから」
グリュエールの話を聞いてると、本当にそうなんじゃないかって思えてくる……
「だから恨んだ。魔族領の攻めてきた人族を。自分を殺した人族の勇者を」
魔王様……そうだったの?
人族を恨んでいるの?
「ウルが鞘から抜かれた時。周りに人族がいると斬りたいって衝動に襲われたんじゃないかな? 思い出してみて」
……最初にあの衝動がきたのは、クルトに抜かれた時。
クルトとその周りにいた人達はたぶん人族だよね。
マリーに初めて抜かれた時はあの衝動はこなかった。マリーが獣人だったから?
ダンジョンに入ってイゾウの目の前で抜かれたら、あの衝動がきて……
モーティマと一緒のときに衝動はきたけど、軽かった。
モーティマは混血だから!? 人族の血が半分だけ流れてて、それに反応したの!?
次がギルド長……ギルド長は人族だもんね。
グリュエールに抜かれて衝動が来なかったのは……グリュエールがエルフだから……
「ねえ、ギルド長。イゾウって人族?」
「はい。あの方は人族です」
「そっか……グリュエールの言う通りかも……」
「まだ仮説だから分からないよ。もっと調べてみなきゃ」
「でも……でも……」
魔王様は人族を恨んでた。
ううん、今でも恨んでる。
だから人族を斬りたいって……そう言ってるんだよね……?




