Side リン
時間は少し遡り、マリーが筆記試験を受けてるタイミングから始まります。
「くそっ! くそっ! なんなのよ、あいつ! なにが試験官よ、偉そうにして!」
あー、イライラする!
ちょっと寝坊して遅れただけなのに、失格ってどういうことよ!
「しかも……いい子そうに座ってたあいつら……ボクが困ってるんだから、だれか助けてくれたっていいじゃない!」
あそこで「そんな優秀そうな方が昇格試験を受けられないなんて、冒険者ギルドの損ですよ! 少しの遅刻くらい多めにみましょう!」とか言ってくれる人いてもいいと思わない!? 思うでしょ!
あーーーーーー! もう! ヤダヤダ!
皆死んじゃえ!
実技試験で全員死んじゃえ!
「ホントなら今頃、試験中のはずだったのに……筆記試験の為にカンニングペーパーこんなに用意したのに。もういらない!」
ポケットの中、服の隙間、裾や袖にと隠しておいた紙を全部投げ捨ててやった!
試験中にどんな隙があるかわからなかったから、どこからでも取れるようにあちこちに用意しておいたのに……全部無駄になっちゃったじゃん!
「あーあ、この後どーしよーかな。なにも予定ないし……」
いつも通り裏道を歩く。
大通りに並ぶ店には無い、面白い物が裏道の店にはいっぱいある。
「あ、この店。今日は開いてるんだ」
たまにしか開かない店。開く日も不定期で、月一回開く日があるかどうか。
そんな店だからこそ、ボクは王都にいる日は毎日この道を通る。
だって……このお店で売ってる物ってすごいんだもん!
「こんちわー! 今日は何売ってるの?」
「またあんたかい。開く度に来るのなんてあんたぐらいだよ」
「えー、だってこの店いいもんばっか売ってるじゃん。来なきゃ損だよ」
「そうかい、そうかい。ありがとよ。そうさね、今日はこんな物あるよ」
婆か爺かもよくわからない、皺くちゃな顔をしてローブを被った店主が液体の入った小さな瓶を渡してくる。
「なにさ、これ」
「簡単に言えば、毒さ。しびれ薬だよ」
「しびれ薬~? そんな惹かれないかな」
「いいのかい? そんな事言って。それはかなりの一品だよ?」
「だってしびれ薬なんて、使えないじゃん。臭くて苦くて、すぐにバレるもんでしょ」
「この店でそんな物売ると思ってるのかい? 常連だと思ってたのにまだまだだね」
「なにさ! じゃあこのしびれ薬は普通とは違うっていうの!?」
「そうさね。元は無味無臭。そこに、味を付けるのに成功した。なんと、市販の回復薬と同じ味と臭いなのさ!」
「……だから?」
「まだわからんのかい。つまり、これを回復薬だって言って渡せば、その内勝手に飲むかもしれないんだよ? わかるかい?」
「えっ! あ……なるほど! えっ……それなら……」
これ使ってあいつらに仕返しできないかな。
試験官はさすがにムリ。
昇格試験を受けに来てた奴ら……
どんなのがいたっけ。
たしか……
お嬢様みたいな奴と、そのお付き。
布で顔全体を覆ってた変な奴。
でかいおっさん。
田舎くさい獣人。
お嬢様とお付きはダメだね。他人からもらった物を飲むわけがない。
布の奴は……微妙。
騙しやすそうなのは、おっさんと獣人。
でもあのおっさんはたぶん巨人族の半人でしょ? 巨人族に効くのかな、これ。
狙い目はあの獣人かな……
「どうするんだい? 買うかい?」
「ちょっ……ちょっと待って、今考えてる!」
渡したからって飲むかわからない……
しかも回復薬くらいなら持ってるもんじゃないの!?
ダメじゃん!
あ、でもあの獣人はこの王都で見たこと無い奴だった。
もしかして王都に来たばっか?
それなら……
「……買う。買うよ。いくら?」
「そうさね。本来なら金貨三枚!って言いたいとこだが、あんたなら金貨一枚でいいよ」
「ホント!? 買った! はい!」
ボクくらいの冒険者になれば、金貨一枚なんてはした金!
よし、これであとはあの獣人に渡すだけ!




