マリーと試験官
試験官は二階を通り過ぎ、更に上へ続く階段へ足を向ける。
マリーも後を追うけど……
会議室とかで話すんじゃないのかな?
三階ってなにがあるんだろ。
三階に着くと、そこにはドアが一つだけ。
ドアについてるプレートには『ギルド長室』って書かれてる……
ギルド長!?
そんな偉い人が出てくるような案件だったの!?
「マリーさん、こちらへお入りください」
「えっと……はい……」
試験官がドアを開けて、マリーを促す。
マリーもきっと会議室とかで話すだけだと思ってたみたい。
ギルド長って言葉を見てから一気に緊張しちゃってる。
「しっ……失礼します」
マリーがギルド長室に入る。
部屋の中はけっこう広くなってた。
目の前には立派な机。
壁際には何個も本棚が並び、その中に本や書類みたいな物がギッシリと詰まってる。
部屋の中央には、向かい合うようにソファーと小さめの机が置かれてる。
マリーは周りをキョロキョロしてるけど……
人がいない。
あれ? ギルド長は?
「えっと……誰もいらっしゃらないみたいなんですが?」
マリーが試験官へと振り返り、声をかける。
「はい、そうですね」
試験官はそう言うと、机の向こう側まで歩き、慣れた様子でイスへと腰掛けた。
「えっと……?」
「申し遅れましたが、私、王都冒険者ギルドのギルド長をしております、イリーシス・ターナーと申します」
「えっ? えっ……? えーーーー!? ギルド長だったんですか!?」
えーーーー!?
ヒョロヒョロしてて頼りない眼鏡の男とか思ってたのに……
ギルド長だったんだ!?
「はい、そうです。あまり冒険者の前には出ないので、知らない人の方が多いですが」
「えっと……でも……じゃあなんで、昇格試験の試験官なんてされてたんですか……?」
「どんな冒険者がいるのか、自分の目で見るのが一番わかりやすいからです。毎回試験官をやることは出来ませんが、今回のように手が空いていればなるべくやるようにしているんですよ」
「そうなんですか……」
「では、そちらのソファーにお掛けください」
「はい……」
マリーはソファーへと腰を掛け、ギルド長へと向き直る。
「それでは、リンさんとなにがあったのか教えて頂いてもよろしいですか」
「はい」
来た!
ちゃんと話を聞いてくれなかったら僕も話そう。
それでもダメだったら、魔法でもなんでも使ってマリーを逃すんだ!
マリーはリンとの間で起きたことを話しだした。
ダンジョンに入る前、まだ王都にいたときに話しかけられ、薬を渡されたことから始まり、四階層に入った後、フードを被ったリンにキラーアントの頭を投げつけられた。
その後にたくさんのキラーアントに襲われて、なんとか逃げ切ったけど、その後に倒れているリンを見つけた。
リンを助けたら……罵られた。
最初に渡された薬が、実は毒薬だったことをこの時に知った。
というような話を詳しく説明する。
どうやってキラーアントから逃げたかは話して無かったけど……
「なるほど、わかりました」
「私から話すことはこれで終わりです。あったことを話しただけなので、これ以上は何もありません」
「はい。リンさんがマリーさんに危害を加えたということで処置致します」
「え? ……信じてくれるんですか?」
「はい」
……あれ?
証拠がないとダメなんじゃなかったの?
証拠もなにもないから、もっと面倒なことになったりとかするのかと思ってたのに。
ヒドイ場合は、マリーが犯人にされちゃうんじゃないかって……
「えっと……なんでそんな簡単に……?」
「そうですね。ここから先の話は口外しないと誓って頂けますか?」
「……はい。言いません」
「では、先にマリーさんに謝らなくてはならないことがあります」
「謝る……ですか?」
「はい。実はリンさんがマリーさんにモンスターを押し付けたことは、我々冒険者ギルドも把握しておりました」
「えっ!?」
「それなのに、帰りの馬車等でマリーさんにリンさんを近付けることになったことは、大変申し訳なく思っています。リンさんに我々が気付いていることを知られたくなかったので、あのような対処を致しました」
「あ、はい。それはわかりました。それより、なんで知って……?」
「はい。実は……」
それからの話はこうだった。
昇格試験でダンジョンへ潜る時には、それぞれの受験者に対して一人、監視役が付いていた。
監視役は基本的に何も手を出さない。受験者が無理しすぎて死にそうになった時だけ助けるように指示しているらしい。そうしないと、せっかくの人材が死んでしまう可能性が出てきて、冒険者ギルドとしても損をするだけだから。
監視役をするのは、元高ランク冒険者で今はギルド職員として働いてる人がやることが多い。魔法や特技を使って監視するらしい。
それで、今回もそんな監視役の一人がマリーに付いていた。
マリーも僕もまったく気付かなかったんだけどね。
その監視役の人から、マリーが何かを投げつけられて、キラーアントに襲われた所までは見ていたと話を聞いていたんだって。
その後に土の壁が出てきて、マリーの後を追えなくなったみたいだけど……
土の壁の話が出た辺りで、ギルド長の目がちょっと厳しくなったように見えたのは……気のせいかな……
「……というわけです。なので、マリーさんが倒れているリンさんと遭遇した時の状況は把握できておりませんでしたが、その前までは確認できました。
フードを被ってた人がリンさんだというのも、監視役から報告があがっておりますので、後はこちらで対処致します。ご安心ください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
話を聞いてマリーはホッと息を吐く。
証拠がちゃんとあったんだね。
良かった……
無事に済んで本当に良かった!
「さて、それでは他にも質問があるのですが、よろしいですか?」
「え?」
え?
まだ何かあるの?




