表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆流者の旗  作者: 秋月 爽良


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

第1話 俺の名前は「ミウマ」じゃない

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

「うわぁっ――!」


 俺の大きな叫び声に驚いたのか、鳥たちが慌てたように一斉に飛び立つのが目に映る。


「はぁっ、はぁっ……ゲホッゲホッ! 死んだと思った。ん……あれ?」


 全身の力が抜けるのを感じながら、ゆっくりと上体を起こす。

 

 そこは見たこともない草原だった。

 風が心地よく吹き抜け、小鳥のさえずりが遠くに聞こえる。


「え? どこだ、ここ……天国か?」


 澄みきった青空と、遠くには山々の稜線。

 鼻をくすぐる甘い花の香り。


 まるで絵に描いたような風景に、しばし呆然とする。


「……夢、か?」


 だが、寝起き特有のぼんやりした頭が次第に冴えてくるにつれて、さっきの出来事が蘇ってきた。


 確か俺は、飛び出してきた子どもをかばってトラックに――。


「……俺、死んだのか?」


 でも……あの子が無事だったならそれでいい。

 

 胸の奥が、少しだけ熱を持つ。

 そう思いながら立ち上がった、その時。

 

 ふいに目の前に現れたのはローブに身を包んだ、いかにも神様じみた雰囲気の老人だった。


「こんにちは」

「えっ! あ、はい。こんにちは……?」


 反射的に挨拶を返しながらも、俺は目をパチパチと瞬かせた。

 

 どこから現れたんだ、この人……。


「あーコホン。んー……」


 老人は俺の様子も気にせず、喉を鳴らしながらなにやら咳払いを続けている。


「あの……どうかしましたか? ていうか、ここどこなんです?」


 思いきって問いかけてみたものの、彼はまるで聞いてない。

 そのまま杖を高々と天に掲げ、声高に叫んだ。


「ようこそ、我が造りし世界へ! 選ばれし者よ!」

「いや、ちょっと!? 俺の話、聞こえてますかーっ!?」


 神様っぽい老人は片手を耳に当てると、ぼんやりした視線をこちらに向ける。


「ん……なんじゃ? 聞こえんかったわい。何を言っておるのじゃ、お主」


 1mも離れてないのに……聞こえてないのか?


「うむうむ、では次じゃな。特別なスキルを授けてやるから少し待っておれ。これでも準備が必要なんじゃ」


「あ、はい……分かりました。ところで、あなたは誰なんですか?」


 やはり彼には俺の声は届きにくいらしい。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら、左手のローブの袖からルーレット盤を出してくる。


 ……どこに入ってたんだ、それ。


「お主の名前は……ミウマじゃな? よし、『ミウマ』と刻んでおこう」

「いや違いますよ!? ミウマって誰ですか!?」


 この爺さんのことは、ひとまずローブ(しん)と呼ぶことにした。

 どう見ても神様っぽいのに、妙に関わりたくない空気だけはしっかりある。


「うむ、これでよし。お主、回すのじゃ」

「え? は、はい」


 差し出されたルーレット盤を勢いよく回すと、ローブ神がちいさな白いボールを放り込んだ。


「グルグル回れ~、どんどん回れ~。ホイっと」


 おかしなリズムで歌い始めたと思ったら、彼の合図でルーレットが高速回転し始める。


「あの、このままだとボールが外に飛び出るんじゃ……」

「よしよし、もっと回したいんじゃな?」


 ローブ神は指でくるっと、空中に円を描く。

 その瞬間、ルーレット盤の回転はさらに勢いを増した。


 これ、本当に止まるのか……っていうか、こんな近くにいて平気なのか?


「ホイっと」


 ローブ神のかけ声で、高速回転を繰り返していたルーレットはピタリと止まる。


 え……今、止めたよな?


「ほうほう、お主のスキルが決まったようじゃ」

「……!? ス、スキルですか? どんな?」


 腕組みをしながらローブ神は、眉間にシワを寄せた。


「うーむ……出たのは、《逆流者の旗》と《千の言葉》じゃな」

「おおっ、なんか凄そうなネーミング……で、具体的にどう使えるんです!?」


 俺は少し声を張って、彼に尋ねた。


「《逆流者の旗》……己の言葉が相手の心の隙に入りやすくなる、じゃな。まあ、詐欺師にも向いとるスキルじゃ」


「さ、詐欺師!? へ、へえぇ……なかなかいいスキルじゃないですか! それで、もうひとつの方は!?」


 俺が大声で話し掛けると、ローブ神はちらりとこっちを見て、露骨に嫌な顔をする。


「お主、声が大きすぎる。耳がピリピリするわい」

「……す、すみません」


 聞こえてるのかいないのか、どっちなんだよ……。


 片耳をさすりながらブツブツ文句を言ってはいるけど、ローブ神は説明を続けてくれた。


「《千の言葉》とは、どんな状況でもそれを乗り越える言葉が閃く、というものじゃ。これも詐欺師の必須スキルじゃな」


「そのうち本当にそっちへ転がっていきそうで怖いですけど……でも、ふたつとも役立ちそうなスキルで安心しました」


 少し肩の力が抜けた俺を横目に、ローブ神は不満そうな表情を浮かべる。


「こんなもので喜んでおるのか、変な奴じゃのう。言っておくが、このふたつのスキルは相手を欺く方向に働きやすい、いわばクズスキルじゃ」

 

「なんですか、それ……めちゃくちゃ悪用前提じゃないですか」


 ローブ神は憐れむような目で俺を見つめると、ルーレットをまた袖の中に収納し始める。


「お主、くじ運が悪いの」

「いや、そもそも何でこんなスキルが入ってるんですか!? どうにかしてくださいよ」


「ふぉっふぉっ……まあ、ワシは授けるだけじゃ。中身に文句を言われても困るわい」

 

 ローブ神は満足そうな顔で、長いあごひげを丁寧に撫でた。


「さて、これでワシの役目は終わりじゃ。帰るとするか」

「えっ……いや、待ってください。話はまだ……」


 俺の言葉は無視されたまま、ローブ神の身体がゆっくりと透け始める。


「じゃあの、ミウマくん!」

「だからユウマだって言ってるでしょ……って、消えるんですか!?」


 最後に片手をひらひらと振り、ローブ神は空気に溶けるように透明になって、そこには俺ひとりだけが残された。


「嘘だろ……これからどうすればいいんだ」


 俺はしばらくその場に座り込んで、呆然としていた。

 お腹の鳴る音に気づいたときには、もう空がオレンジ色に染まり始めていた。


「……こんなところにいたら危なくないか?」


 慌てて立ち上がって周囲を見渡すと、遠くに街らしき建物が見えるのは運が良かった。

 ローブ神の姿が霧のように消えた後、辺りには静けさだけが戻っている。


 俺は自分の頬をパシッと軽く叩いて、気合いを入れた。


「……考えてても、真っ暗になるまであと少ししか時間がない。とにかくあの街まで急いで行ってみるか」


 昼間の熱をまだ残した生ぬるい風が、歩き出した俺の頬を撫でていく。

 草の香りがほのかに混じった空気は、どこか甘く感じられた。


 見上げると、すっかりオレンジ色に染まった雲は薄く柔らかで、どこまでも見慣れない空が広がっていた。


 その余韻に浸れないほど、俺の腹は次の食べ物を求めて盛大に音を鳴らし続ける。


 ふと視線を落とすと、足元には見たことのない草が広がっていて、葉の中心に実のようなものがついていた。


「うっ、なんだこれ……苦い!」

 

 魔が差して、試しにひとつ摘み取って恐る恐る口に入れてみたけど、ゲホゲホと咳き込みながらすぐに吐き出した。


 舌に残るえぐみに顔をしかめ、すぐに水を探して辺りを見回す。

 近くに流れる川の音を聞きつけて、慌てて走って行って水を口に含んでゆすぎ続けた。


「……水さえあれば生きられるって聞いたことがあるけど、やっぱり腹は減るよな」


 落ち着きを取り戻した俺はそのまま歩き続け、やがて小さな丘を越え、広場のような場所に出た。

 

 中央には大きな掲示板が設置してあって、雑に貼られている紙が今にも風に飛ばされそうだ。


「うーん、文字っぽいけどやっぱり読めないか……街に行くにしても、言葉が通じないと困るしな」


 消えないように描かれているのは、おそらくこの辺りの地図だろうけど、書き込まれている文字は全く理解できない。


 でも掲示板の下に、古びた小さな硬貨が、1枚だけぽつんと落ちているのを見つけた。


「……お金だよな、これ」


 鈍く光るそれを手に取って表裏をひっくり返して、じっくり眺めてみる。

 だけど価値が分からない。


「四角って珍しいな……丸い硬貨に慣れてると、形が違うだけで不思議な感じがする。とりあえず貰って行ってみるか」


 硬貨をポケットにそっとしまった瞬間、なんだか胸がそわそわした。

 

 拾ったものを勝手に持ってくのは良くないけど、背に腹は代えられないって言うし……それに、これで何か食べられるかもしれない。


 胸の奥が少しだけ浮き立つのを感じながら、俺はまた歩き出した。

 さっきまで草の実で吐いてたのに、自分でも単純だと思う。

 

 しばらく歩くと、やがて目の前に高くそびえる壁と門が現れた。

 歩みを進めるほど、人の声がハッキリ耳に届いてくる。


 思っていた以上に大きな街らしく、その壁の高さに思わず圧倒された。


「おい、そこの男、止まれ!」


 俺が門を通り抜けようとした瞬間、槍を構えた兵士に呼び止められた。


「あ……俺のことでしょうか?」

「そうだ。身分証か、ギルドの登録証を持っているか?」


 ……やばい、これ詰んだかもしれない。


 焦って俺が考えるより先に、言葉が勝手に口をついて出る。


「た、助けてくださいっ! さっき盗賊に襲われて、身ぐるみ剥がされたんです……!」

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます

もしよろしければ、ブックマークや★評価をいただけると嬉しいです。今後の励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ