第74話 あの後・・。
あの後・・。
大烏は本田に命じて救急車を呼ばせた。
しかし。
大烏の見立て通り、
時すでに遅し。
救急車が到着した時には、
すでに笠原は息を引き取っていた。
間もなく。
救急隊の通報で駆けつけた警察から、
私達は事情を聴かれた。
だが。
私にしても小鳥遊にしても歌川にしても。
そしてヒカルにしても。
鈴木が笠原を刺した瞬間に関しては、
誰も目撃していなかった。
唯一。
その瞬間を目撃していたのは、
大烏ただ1人だった。
そして。
その大烏は、
「包丁を手にした笠原が
鈴木に襲い掛かり、
揉み合いの中で、
笠原に包丁が刺さった」
と証言した。
つまり。
事故。
もしくは正当防衛。
さらに。
私達は警察から、
鈴木と笠原の関係性について聴かれたが、
小鳥遊と歌川、そしてヒカルは
当然何も知らなかったし、
私も黙っていた。
結局。
形ばかりの事情聴取はすぐに終わり、
私と歌川は泣き崩れる小鳥遊を支えて、
帰路に就いたのだ。
「まさか。
あのノブが死んじゃうなんてね・・。
人間万事塞翁が馬。
一寸先は闇。
本当。
人生何があるかわからないわね」
そう言ってヒカルは
ふたたび溜息を吐いた。
「鈴木さんはどうなるんでしょうか?」
「さあ?
でも。
あの役勃たずの男が、
『腕の良い弁護士を紹介するから
重い罪には問われないだろう』
って言ってたわよ」
「そう・・ですか」
皮肉だった。
鈴木は笠原を殺した後、
自らも命を絶つと決めていた。
それなのに。
今はその罪から逃れようと足掻いている。
「どっちにせよ。
ノブが鈴木さんを襲った理由は
わからずじまいだし、
ノブが死んだことで、
救われた人がいるのは確か」
そしてヒカルは意味深な視線を
こちらに向けた。
私はその意図がつかめず、
首を傾げた。
「あら。
聞いてないの?
派手な髪の子がいたでしょ?
彼女、ノブに襲われたらしいわよ。
酷くショックを受けてたみたい。
もっと遊んでる子かと思ったけど。
以外にもヴァージンだったみたいよ」
喋りすぎたと思ったのか、
ヒカルは慌てて口許に手を当てた。
そして片目を瞑ると、
自らの頭を叩く真似をした。
「ついでに言っちゃうと。
あのお手伝いさん?
彼女もノブの被害者だったらしいわ。
高校1年生の頃に、
襲われたみたい。
結局。
鈴木さんが刺さなくても。
ノブはいずれ別の誰かに、
殺されてたかもしれないわね。
今回のことは。
彼女達にしてみたら、
ある種の『救い』になったかも
しれないわ」
私はぼんやりとヒカルの話を聞いていた。
ほどなくして。
歌川が戻ってきた。
「彦ちゃん、
ブラッディ・マリーをお願い」
ヒカルが空になったグラスを揺らした。
突然、
名前を呼ばれた歌川は
照れたように頭を撫でた。
「大烏くんは元気にしてますかな?」
「さあ?
何でアタシにそんなことを聞くのよ。
さっきも彼女に話したけど。
アタシとあの人は何の関係もないの」
ヒカルは口を尖らせると、
続けて私の方へ視線を向けた。
「そうそう。
言い忘れてたけど。
あんなことがあったから、
別荘は処分したみたいよ。
すぐに買い手が付いたみたい。
世の中奇特な人間っているのね」




