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VISION  作者: Mr.M
四章 殺人未遂事件

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第55話 動悸と動機

部屋は不自然なほど静かだった。

胸の鼓動がやけに大きく感じられた。

「笠原さんのグラスには・・。

 毒が入っていた、

 そうですよね?」

私はそう言って鈴木をじっと見た。

丸眼鏡の奥の細い目は、

前髪に隠れていて、

その表情は読み取れなかった。


ふたたび沈黙がこの場を支配した。

私と鈴木の小さな息遣いだけが、

部屋に響いていた。


「は、は、は・・」

ふいに鈴木の口から

乾いた笑い声が漏れた。

「やはり・・貴女は・・。

 わざと奴にぶつかったんですね・・」

鈴木は震える声で呟いた。

「・・認めるんですね?

 笠原さんを殺そうとしたことを」

私は鈴木の疑問には答えずに、

さらに問いを重ねた。

鈴木は項垂れて力なく首を振った。

「どうしてですか・・」

私はただ鈴木の答えを待った。

みたびの沈黙が部屋に重く落ちた。

息苦しさを感じて、

私はゆっくりと息を吐いた。

鈴木の息遣いは聞こえなかった。


「・・私には娘がいました」

唐突に鈴木が呟いた。

「生きていれば20歳です。

 貴女や小鳥遊さん、

 そして蒼井さんと同じ年です」

鈴木はそう言って丸眼鏡にそっと触れた。

「娘は18歳の時、

 自ら命を絶ちました」

その言葉に私はハッと息を呑んだ。

鈴木の表情からは

何も読み取れなかった。

「娘は17歳の時、

 学校帰りに男達に襲われたのです。

 発見された時には酷い姿で・・」

そこで鈴木は一度口を閉ざした。


重苦しい空気が部屋を包み込んでいた。

私はかける言葉が見つからず、

鈴木から目をそらした。


「娘を襲った男は2人だったようです。

 そのうち1人の名前を

 娘ははっきりと覚えていました」

胸の奥がざわついた。

僅かに動悸が早くなった。

私は恐る恐る口を開いた。

「まさか・・その人が・・。

 鈴木さんがここに来た目的は・・。

 娘さんの仇を討つため・・ですか?」

私の問いに答える代わりに、

鈴木は右手の人差し指で

丸眼鏡のブリッジを

クイッと押し上げると、

静かに頷いた。


「・・ごめんなさい。

 私のせいで・・」

私は無意識のうちに

謝罪の言葉を口にしていた。

「どうして貴女が謝るのです?

 貴女は何も悪いことはしていません。

 それどころか。

 1人の人間の命を救ったのですから。

 しかし。

 これで安心しました。

 毒の包みを私の荷物から盗んだのは

 貴女だったんですね。

 私はそれだけが心配でしたので」

鈴木の口許が小さく緩んだ。

私は鈴木に気付かれないように

小さく息を呑んだ。

「鈴木さん・・。

 毒はもうないんですよね?」

鈴木が静かに頷いた。

「毒の包みは・・。

 2つしか用意されていませんでしたので」

その言葉に微かな違和感を覚えた。

「2つ・・」

「はい。

 元々は。

 私は・・笠原を殺した後、

 自らの命でその責任を取ろうと

 考えていたので」

そう言って鈴木は小さく笑った。

私はこくりと唾を飲み込んだ。

「・・そうですか」

それ以上、

かける言葉が見つからなかった。

私は軽く頭を振った。

「あの・・。

 毒が盗まれたことに気付いたのは、

 いつですか?」

「どうしてそんなことを聞くのです?」

鈴木が首を傾げつつ、

口許に手を当てた。

「あれは・・。

 笠原を殺すことに失敗した私は、

 残った毒の包みを

 使うことに決めました。

 それで部屋に戻ったのです。

 その時に・・」

鈴木の話を聞きながら、

私は昼間のことを思い出していた。

大烏の使いを終え、

ここへ戻ってきた時。

血相を変えた鈴木が、

一目散に廊下を走ってきた、

その姿を。

あの時・・。

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