表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

第17回 「手作りの威力って奴よ」



「いよぅ、ナツヒコ(・・・・)

「お邪魔します」



 同日、午後。

 商業区はリバーサイドマーケットの一画。

 ケンちゃん金属武器防具店。

 例の未舗装の下地にテント設営の簡易店舗。商品が適当に置かれたテーブルを横目に。


 短い金髪の鍛冶師は、昨日の約束通り俺を呼び捨てた。

 嬉しくて。歯を見せて、笑みを返す。

 昨日よりは自然に、にやりと笑って、ケンちゃん氏。


「えーなにそれ。どういうこと?」


 俺とケンちゃん氏を交互に見て、きゃみさまは一人困惑顔。

 さて、なんて言い訳したものか。


「ちょっと……その、愚痴聞きしてもらったんだ」

「愚痴聞きィ?」


 きゃみさまはジト目を向けて、口をとがらせる。

 納得してなさそう。

 助け舟を期待して、ケンちゃん氏をチラ見すれば、こちらはこちらで苦笑するばかり。


 さてさて。ひとつ、溜息。

 

男と男(・・・)のナイショ話」


 鼻先に指を立て、片目を閉じる。否応なしに眉は寄るものの。


「オトコって……ケンちゃぁん!?」


 あ、これはまずい言い方だったか。

 案の定、俺を女寄りにしたいと思っているらしいきゃみさまの事、これには不服があるらしく。

 途中からケンちゃん氏に向き直り、膨れ面を隠しもせずに詰め寄る。


"せっかく女の子になろうとしてるなっつんを(たぶら)かさないで"


 と、言ったところだろう。

 もちろんケンちゃん氏にそんなつもりはないだろう。

 しかしながら当の俺がそう言うんだから、言ったって事になっちゃう。の、かな。


 って。

 ケンちゃん氏は苦しい顔で首をかしげながらも、反論はできず、詰め寄るきゃみさまに降参のポーズ。


 流石にこれは俺の所為。

 見て見ぬふりはできなくて、きゃみさまとケンちゃん氏の間に割って入る。


「まってまって。その、昨日はちょっと精神的にぐらついててさ。ヤバかったんだ」

「え、だ、大丈夫なの?」


 精神的に──って辺りで、ハッとしたようにこちらに向き直って、きゃみさま。

 彼女は彼女で、俺が落ち込んでればこうやって他をそっちのけて俺の無事を考えてくれるんだ。だから無下にもしたくはない。


「えっと。そんでたまたま身近にケンちゃんさんが居てさ」

「ケンちゃんさん男向けの(・・・・)愚痴聞きしか出来ませんよ……っと」


 降参のポーズからそのまま肩をすくめてみせるケンちゃん氏。

 彼のお人柄はきゃみさまとて知ったところだし、元々本気で罵倒したいわけでもなかったろう。

 事が俺の話だとそれでも怒ってくれるってのは嬉しくもあるんだけど。


「聞いてくれるだけでも助かったんだ」


 だから。と、上目遣いにピンクの彼女を覗き込んでみれば、渋々納得といった顔。


 実際昨日はとても救われた。


 最初の最初に感じていた"女であることが恥ずかしい"という気持ちはだいぶ薄れた。体はもう女なのだから、女として生きるべきだ。それが自分の幸せの為でもある、と。

 結局、虚象事件の時に決着がついたのはその部分だ。なら最近の俺は何に燻っていたのか。

 結局──


"だったら、男の部分は全部諦めなくちゃいけないのか"


 ──という事だ。

 正直、こんな理不尽な現象で一切合切を諦めきれないことは山ほどある。

 でもそれって結局男と女のイイトコ取り。諦めたくない気持ちの裏側で、贅沢だ、とか。我儘なのでは、などと。


 ──なんて、傲慢。


 ケンちゃん氏の前で言いかけて、強く否定された。

 俺の立場は唯一無二。贅沢だって? 我儘だって? それは何と比較して(・・・・・・)だ。比べる相手なんてどこにも居ない癖に。

 良いんだ。

 自分が女であることを認めたうえで、それでも男を諦めなくても良いんだ、って。


 そう言ってもらえた気がしたんだ。


 女の俺を守ろうとしてくれるきゃみさまの気持ちも嬉しい。

 男の俺を認めてくれるケンちゃんさんの言葉も嬉しい。

 ちょっと感極まって。


「どっちも、嬉しい」


 二人の胴を両手に抱える様にしてぎゅーっと抱きしめる。

 単純に驚いた風なきゃみさまと。

 なんかマンガみたいに口をVの字にして、張り付いたような笑顔で冷や汗をだらだらと流す、ケンちゃん氏。オートエモーショナルコントロールって奴だな。全感覚型デバイスでももれなく搭載されてるっていう。


 そして目の前に何かを突き付けられたような、少し仰け反った様な顔。

 ははぁ。例の異性キャラクターに触れてますって警告か? あれこの場合、俺の方に出るのでは? 男の方にだけ出るのならとんでもない差別なんだが。

 あ、こっちにも出た。



◇◆◇◆◇



「で、結局渡したい相手って、ケンちゃんさんの事だったの?」

「そうそう。あ、ケンちゃんさん、コレ、昨日のお礼というかなんというか、です」


 言いながら、インベントリから紙袋をジェネレートして取り出す。

 紙袋(・・)ってとこを見咎めて"あー! 可愛い奴にしなかったわね!?"っていうきゃみさまの視線を苦笑で躱して。

 さらにその紙袋から、ひと廻りこじんまりとしたピンクの布袋を取り出す。白いレースのリボンとかで封がしてあって、なんかこう、しゃらんらーとか擬音が付きそうなファンシーさ。

 Thebesはこういうストレージ・イン・ストレージみたいなとこ柔軟だ。俺のインベントリの中でさっきまで

"クッキー入りの布袋が入った紙袋"

 みたいに表示されてた。


 俺自身としては思わずウッっとなるようなキラッキラなピンクに、きゃみさまは満足そうだ。


「オレに?」


 キョトン顔で自分を指すケンちゃん氏に、ちょっとはにかみながらクッキーを差し出す。

 其処でふと思い出し、昨夜借りていたロゴ入りのフードパーカーを取り出して、それも一緒に渡す。


「あ、あとこれも。昨日はありがとうございました」

「ひゅっ!?」


 鋭く息を呑む音に、何かと思って振り仰げば。

 なにやら今度はきゃみさまの口がVの字だ。何その顔流行ってんの?

 御多分に漏れず冷や汗のようのものがたらりと。


 しかしこれはいったいどういった反応だ?

 きゃみさま目がまん丸なんだけど。

 目線は俺がケンちゃんさんに返そうとしたパーカーの背に書かれたロゴに注がれているが。


「なっつん……それ着て街歩いたの……?」

「え? うん、セーラー服じゃ目立つからって」


 今度こそ。

 遠慮なく、ケンちゃん氏にジト目を向けるきゃみさま。

 ケンちゃん氏はケンちゃん氏で、そっちは言い訳できることがないのか無言で眼を逸らす。


 うん?

 なんだ? このパーカーやっぱりなんかあるの?

 どうやら自分だけが事情を理解していないらしく、何だかもどかしい。


「あ、ええっと。まぁ、昨日言った通りそれ(・・)は機会があったら……な。それよりコレ、今食っても良い?」

「ええ、どうぞ」


 なにやら苦し紛れの話題逸らし。

 困ってる風だったので、助け船のつもりも兼ねて、そんな風に返す。


 きゃみさまのジト目は未だ以て刺々と注がれているが、逃げるようにそそくさと、ケンちゃん氏。

 そのままいそいそと布袋を空けて、プレーンの方のクッキーをひとつまみ。

 一口でクッキー一枚を頬張る姿に、男っていいよな、今俺があんな食べ方したらきゃみさまになんて言われるか。なんてちょっと拗ねたことも考えるが。


 ああ、そう言うの、もう我慢しなくていいのかな。

 少なくともこの人の前では。


 なんて。


「お」


 少し。驚いたような声。

 見れば、目を丸くして、ケンちゃん氏。ココア味の方をもう一枚取り出してかじりながら。


「うまいねこれ」

「そ、そうです、か?」


 わ。わ。

 なんだろこれ。

 なんか、その、うれしい。


 ──自分で作ったお菓子を褒められてうれしいだなんて。


 こういうのは。こういう気持ちは。

 "女"

 だろうか。


 い、いやちがう。男でもうれしいし!

 りょうりにんのきもちだしっ!


 上気する頬に静まれと手をやって目を閉じていると。


「参考までにどこで売ってるか(・・・・・・・・)聞いても良い?」

「あ、いえ、それ俺が作った(・・・・・)んですよ。朝から飲食街の菓子工房に籠って、きゃみさまに教えてもらって」


 褒められてうれしい気持ちのまま、純粋に誇らしげな気持ちでそう返してみれば。


「え、これ手作りなの……?」


 一枚目をかじって美味い! の時よりさらに目を見開いて、ケンちゃん氏。

 口に入れようとしていたクッキーを取り落としかけ、慌てて空中キャッチ。

 何か、確かめるように咀嚼した後、急に顔を真っ赤にして。

 赤面隠す様に片手で口元を押さえ、顔を逸らす。


「え……?」


 え。

 何だその反応は。

 俺が作ったってわかったとたん味変わったみたいに?


 ケンちゃん氏の反応に俺が首をかしげていると、徐に後頭部に衝撃。

 あいたっ。

 これはきゃみさまの突っこみチョップだな?

 

 恨みがましい目で振り返れば。

 呆れたような顔で長い息を吐く、きゃみさま。

 なんなの。今度は俺、何やっちゃったの。




「言ったでしょ? 手作りの威力(・・・・・・)ってやつよ」



 えー。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ