ついてて上げて
「あそこの家の人、ずっと横になってて、具合が悪いんじゃない?」
そんなこと言うと、女はケイを持ち上げ前後の向きを変えた。
「ついてて上げて」
そう言うと、女は歩き出した。
余計なことをしてくれるもんだ、とケイは方向をかえようと難儀する。
人間の身体なら振り返るのは簡単だが、キャタピラ走行の環境維持ロボではそうもいかない。
その時だった。
女の悲鳴が背中ごしに聞こえた。
ケイはぎょっとした。急いで振り返ろうとする。
そこで衝撃を受け、ケイの体が吹っ飛んだ。
視界が四散した。
丁度ケイの家に割れた鏡がある。視界がそんな感じに割れていた。
何があったか確認しようとするも、体は動かない。
「ごめんね。僕には時間がないんだ」
男の声のようだ。
ケイは急いで、本来の自分の体に戻ろうとした。
だが、男の悲鳴のような声が聞こえた。
男の気配が遠ざかる。男の呻きながら、逃げていくようだ……
女の笑い声のような音も聞こえていた。
視界がおかしくなり、聴覚もおかしくなったようだ。
――一体、何が?
そう思いながら、ケイは意識を失った。
* * *
ロイはまたケイの家に来ていた。
今回は食べ物持参でやって来た。
ずっとベッドの中で寝てたから、食べ物で釣ればそろそろ出てくるだろうという浅い知恵だった。
ケイはあいかわらずだった。
布団をかぶって、外の世界とは完全に遮断してしまってるようだ。
「まだ寝てる……」
呆れたロイだったが。
だが、なにかおかしい。
呼吸というか息づかいが荒いような……?
「ケイ?」
ロイは布団をめくってみた。
ケイはいた。
だが、それは惰眠を貪り怠惰な姿ではなかった。
仰向けで、目は瞬きもせず開いたまま。
息は荒く、体を小刻みに痙攣させている。
何らかの原因で環境維持ロボに同化するのが上手くいかなかったのだろうと思うが、様子がおかしい。