チート的スキル
演奏を聞きながら、シームァはクラルの魔力を見ようとしたが見えなかった。意図的に隠してるようだ。
キョウの魔力はわずかながら見える。
金色の小さな光。いずれ大きくなるかもしれない。
ふと、シームァはこちらを見ている視線に気づいた。
「こっちを見てる人がいる……」
シームァは。クラルに耳打ちするようにこそこそ言った。
「ん?」
クラルは警戒する。怪しい気配を感じてはいなかったからだ。
「どっち?」
シームァはルウの地の外の方向を指さす。
「もしかして、赤い髪の大きな男?」
シームァが頷いたので、クラルは苦笑した。
「彼は大丈夫だよ」
早速、忠告してやる。
――リゾ君、キョウ君のこと見過ぎ。
最高位同士はこんな風に声を出さず、目の前に相手がいなくても会話できる。
――……!?
クラルことケイには、リゾが息を飲み驚いているのがわかった。
――僕だよ。
――……ケイ?
――気づいてなかった? 今、キョウ君の家の前にいるピエロのお面が僕だよ。
ケイは今、魔法を駆使していないから、結界の向こうは見えていない。
だが、シームァからの情報を察するに、リゾは今まさにこちらを見ているはずだ。
ケイはリゾの家の方向へ手を振ってみた。
なぜか、シームァも一緒になって手を振っていた。
――あぁ。わからなかった。隣のいるのは?
リゾはシームァのことを聞いた。
ケイはシームァの肩を抱く。
――彼女はシームァ君。結界の向こうが見える目と、結界が見える目のチート的なスキルを持った彼女だよ。
その時、キョウが家から出て来た。
「はい。バイオリンケース」
キョウは修理の終わったバイオリンケースをクラルに渡した。
「ありがとう」
クラルは受け取る。
今まで裸のまま持ち歩いていたバイオリンをケースにしまう。
パチンと閉まる留め具の音が心地よかった。
「また、機会があったら頼むよ」
そう言い、クラルとシームァは、キョウの家を後にするのだった。




