昔の名前
クスナは混乱した。
脈アリと思わせるとこ?
あの怪我を治したのはそうだと思われたのだろうか?
あの時は本当に死んでしまうかと無我夢中だった。
「あの? クラルというのは?」
クスナは話題を変えた。
「あぁ、偽名でも使ってると思った?」
クラルは一息ついて、
「クラル・ケイ・アルフ。昔の名前でね……」
*
「アルフ!?」
と、声を上げたのはシームァだ。
シームァは、クラルことケイの髪をしげしげと見つめていた。
「……最高位になるとこの地と民のために生きるからね、苗字は捨てるんだよ。まあ、多少の私利私欲は貪るけどね」
とケイが説明するが、シームァが興味津々にケイを見つめている。
「僕のご先祖様は、遠い昔、ルウの地に移住してきたみたいだよ。僕のルーツに興味があるなら今度聞かせて上げるよ。ベッドの中でね。もっとも、その時、きみはひいひい言って僕の話を聞く余裕もないだろうね」
というケイの話を、クスナは聞き流していた。
時々とんでもない下ネタを言うのは、ケイにとっては挨拶のようなものだと思っていたのだ。
クスナは、アルフという名前と、ケイの髪の毛が気になっていた。
シームァと一緒にケイの髪を見る。
「黒い髪だわ」
「あの不思議なツヤはないな」
クスナは、アルフというエルフの少女を思い出していた。きっとシームァも同じだろう。
あのエルフの少女は黒髪に不思議な赤紫のツヤがある髪をしていた。
「でも目元が似てるかも」
と、シームァが言う。
「あの娘、元気にしてるかな?」
「どうかしら? 大きな犬と一緒にいたわね」
「えぇっ!? カメレオンだろ」
クスナは絶句する。
いくら他人に興味がないとしても、カメレオンと犬を間違えるなんて相当なものだ。
「大きな犬も飼ってるわ」
「そうだった?」
その時だった。
「おーい、コーヒー売りー!」という声に、三人は声のした方を見た。