宿屋
「もういいの?」
シームァと呼ばれた女性が立ち上がると、子どもたちが「バイバーイ」と口々に挨拶する。
「ピエロー、今度遊んでー」
と子どもたちの興味は完全にピエロのお面の男に向けられる。
「うん、まあ、今度ね?」
とクラルがシームァと帰ろうとした。
「みんな、クラルさんにさよならして」
キョウの指示に子どもたちは素直に従うのだった。
「クラルさん?」
シームァは不思議そうにつぶやき、クラルと一緒に帰って行った。
* * *
夜――。
ケイは、シームァとともに宿屋の一室にいた。
ピエロのお面は外している。
「疲れたでしょう?」
と、ケイがシームァに声を掛けた。
二人は食事を終え、一息ついたところだった。
シームァは夕飯の食器を下げてくれていた。
人前で顔を隠したいケイは、どうやっても人前で食事できない。
結果として、シームァが部屋まで食べ物の運んでくれていた。
食器を宿屋の食堂へと返してきたシームァがこんなことを言った。
「あなたの方が疲れて見えるわ」
「そう?」
実際、ケイは疲れていた。
いつもは環境維持ロボに乗り移ってルウの地内を移動している。疲れたら適当に休んだり充電したりしてるから、疲れたなんて感覚があまりなかった。
自分の本来の肉体で動き回ることがこんなに疲れるとは……
「でも、なかなか新鮮な経験が出来たよ」
視線の高さが違えば見える景色も違うもんだ、と思っていた。
「あなたはクラルさんなの?」
「あぁ、言ってなかったっけ?」
ケイとしては、この地でケイと名乗ることができないから別の名前で過ごすことを昨日説明したつもりだった。
「聞き洩らしたのかも」
と、シームァは言う。
何せ昨日はたくさんのことを説明したから。
「昨日は遅くなっちゃったからね、今日は早く寝よう」
二人は昨日、この宿屋に来ていた。
シームァは犯人を見たという。
ケイとしてはシームァと情報交換をしたいと思った。
じっくり話し合おうにも、ケイの家は自他ともに認める汚部屋で、それなら宿屋にでも泊まろうということになった。




