ボランティア
クラルが慌てた様子になったのが、キョウには不思議だった。
キョウは自分の家なので、ドアを開ける。
*
しーんとした家には、黙々と勉強する子どもたちとそれを見守るかのような栗色の髪の女性。
「すごい。こんなに集中して勉強してるなんて」
思わず、キョウはつぶやく。
やんちゃ盛りの子どもたちにしては珍しい光景なのだ。
よほど、教え方が上手なのだろう。
「この子たち、賢い子ね。ちょっと説明したらすぐわかったみたい」
栗色の髪の女は笑顔でキョウに説明した。
「キョウ兄ちゃん、すごいんだよ。1つの種から5つの種ができるとして、3年後には125粒になるんだよ」
嬉々として子どもが説明する。
「まあ、理論上の話ね」
と、シームァが補足する。
「あ、うん……」
キョウとしては子どもたちが真面目に勉強して嬉しい反面、初めて会った人物がこうも子どもたちの理解を得られるのか、と複雑だった。
「私、たまにだけど、故郷ではボランティアで家庭教師してるの」
キョウの不満がわかったのか、シームァはキョウに説明する。
キョウがたまに近所の子どもを集めて勉強や剣を教えているのは、さきほど子どもたちに聞いた。
シームァの故郷では子どもが学校に来るのではなく、教師が週一程度、課題を持って各家庭を回る。希望があればシームァも家庭教師として教えに行くこともあるのだ。
まさか、旅先で勉強を教えるなんてことがあるなんて。
「シームァ君? よかった。なんだか悪い予感がしたから」
と、クラルが言う。
「どういう意味かしら?」
シームァはさも心外そうにつぶやく。
「大丈夫よ。この子は子どもが好きだから」
シームァは自身の左肩に手を乗せ、そうつぶやいた。
シームァにはクラルの不安もわかっていたようだ。
「もう用は済んだから帰るよ」
頷いたクラルがそう言った。
 




