黒い瞳
「じゃあ、三日後、ケースを届けに来てくれる? いや、宿屋に来るのは今すぐがいいな」
「?」
クラルの不思議な提案にキョウは首を傾げた。
「きみに添い寝して欲しいって意味だよ」
と、クラルは言う。
「うん? 面白い冗談で」
と、キョウは言った。
連れの女性がいるのに、男に声を掛けるはずはないと思ったのだ。
「いや、変な意味じゃないよ」
クラルのじっとりした視線を感じる。
「きみ、疲れてるんじゃない?」
「うん、まあ」
確かにキョウは眠かった。
結界の修復に、呪いの浄化にと、一晩寝ただけでは寝足りなかった。
「でも、今すぐ眠いって程じゃ……」
「癒してあげるよ。何なら今すぐに」
クラルが艶っぽい瞳でキョウを見ていた。
クラルが顔を近づけてくる。
キョウは、クラルの黒い瞳を見ていた。
「あぁ、懐かしいな」
クラルの指がキョウの頬に触れた。
「さすが親子だ。ユーテム君にそっくりだ」
その言葉に、キョウはきょとんとなった。
「……あの? 父さんとは血が繋がってないんだけど?」
「え?」
これにはクラルが絶句した。
「あ、ごめんなさい。そういうつもりじゃ……」
キョウは慌てた。
旅の途中でルウの地に息子が住んでるという話をしても、さすがにその息子とは血が繋がってないことまでは話さないだろう。
クラルが似てると言ったのは、いわゆるおべっかを使ってくれたのだろう。
「あ、いや、うん? そうだったね。それは知ってたんだ」
と、クラルは言った。
キョウは、おや?と思った。
父は旅先で出会った相手にそんなことまで打ち明けてたのだろうか。
「僕こそごめん。とにかく頼んだよ」
クラルはキョウから離れた。
「バイオリンケースは三日後、僕が取りに来るよ。頼んだよ」
キョウは頷いた。
「僕はもう行くよ」
クラルはキョウの家をノックした。
二人は玄関先で会話していたのだ。
「シームァ君? 帰るよ?」
だが家の中は妙に静かだ。
あれだけ『ピエロだ!』『ピエロだ!』 はしゃいでた子どもたちは?