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月色の砂漠~コーヒー売りはチート嬢~  作者: チク


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30/60

クラルさんが来た

     *


 その男はクラルと名乗った。

 キョウが名乗るまでもなく、男はキョウの名前を知っていた。


 不思議そうな顔のキョウに、クラルは説明する。


「僕はあちこち旅してるんだ。きみのお父さんのユーテム君にも会ったことがあるんだ」

「えぇ。父さんに?」

 父親の名前を聞いて、キョウの警戒心がゆるんだ。


「それって、いつ頃? どこで? 父さんに会ったの?」

「あ、いや、かなり前…… 場所は……? どこだったかな。何せあちこち行ってるから」

 この時、クラルはかなり動揺していた。

 幸いにもピエロのお面のおかげか、バレることはなかった。



「そうなんだ。父さんは元気だった?」

「あ、あぁ、ピンピンしてたよ」

 クラルは適当なこと言っていた。

 嬉しそうなキョウの顔を見て、少し罪悪感を感じていた。

 それと違和感もあった。


「それでね、お腹を空かせていたユーテム君に食事をご馳走したんだ」

 言いながら、クラルはバイオリンケースからバイオリンを出す。


「その時にね、約束したんだけど、息子君に一回ならただで仕事頼んでいいって」

「えー!?」

 キョウは絶句した。

 キョウの父親は真面目な男だ。そんないいかげんな約束をするだろうか? そうは言っても、旅の途中ならよほどお腹が空いてて、そういう事もあり得るのかも。


「このケース、ちょっと壊れてしまってね、きみなら直せるんじゃないかと思って」

 キョウの職業は金属加工業だ。



「ちょっと見てもいい?」

 キョウはクラルからケースを受け取る。



「あぁ、留め具が掛けちゃってるのか。これなら三日で直せるよ」

「じゃあ、お願いしようかな」

 キョウは頷いた。


「僕はいまのところあっちの宿屋に泊まってるから……」

 と、クラルは宿屋のある方を指さす。

 キョウは頷いた。

 宿屋の場所はキョウも知っているのだ。



「じゃあ、三日後、ケースを届けに来てくれる? いや、宿屋に来るのは今すぐがいいな」

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