クラルさんが来た
*
その男はクラルと名乗った。
キョウが名乗るまでもなく、男はキョウの名前を知っていた。
不思議そうな顔のキョウに、クラルは説明する。
「僕はあちこち旅してるんだ。きみのお父さんのユーテム君にも会ったことがあるんだ」
「えぇ。父さんに?」
父親の名前を聞いて、キョウの警戒心がゆるんだ。
「それって、いつ頃? どこで? 父さんに会ったの?」
「あ、いや、かなり前…… 場所は……? どこだったかな。何せあちこち行ってるから」
この時、クラルはかなり動揺していた。
幸いにもピエロのお面のおかげか、バレることはなかった。
「そうなんだ。父さんは元気だった?」
「あ、あぁ、ピンピンしてたよ」
クラルは適当なこと言っていた。
嬉しそうなキョウの顔を見て、少し罪悪感を感じていた。
それと違和感もあった。
「それでね、お腹を空かせていたユーテム君に食事をご馳走したんだ」
言いながら、クラルはバイオリンケースからバイオリンを出す。
「その時にね、約束したんだけど、息子君に一回ならただで仕事頼んでいいって」
「えー!?」
キョウは絶句した。
キョウの父親は真面目な男だ。そんないいかげんな約束をするだろうか? そうは言っても、旅の途中ならよほどお腹が空いてて、そういう事もあり得るのかも。
「このケース、ちょっと壊れてしまってね、きみなら直せるんじゃないかと思って」
キョウの職業は金属加工業だ。
「ちょっと見てもいい?」
キョウはクラルからケースを受け取る。
「あぁ、留め具が掛けちゃってるのか。これなら三日で直せるよ」
「じゃあ、お願いしようかな」
キョウは頷いた。
「僕はいまのところあっちの宿屋に泊まってるから……」
と、クラルは宿屋のある方を指さす。
キョウは頷いた。
宿屋の場所はキョウも知っているのだ。
「じゃあ、三日後、ケースを届けに来てくれる? いや、宿屋に来るのは今すぐがいいな」




