第5話 いつも、いつもの。
「で、あるからしてーレ点と一二点を考えて、これは『こころのほっするところにしたがえども』と読む」
黒板を叩くチョークと、ノートをなぞるシャーペンの音が聞こえてくる。
カッカツカツカツ
シャーシャッシャッシャッシャー
谷口源五郎先生は、日直殺しの谷口と呼ばれている。ものすごく強い力で黒板にチョークを押し付け、濃い白線を作り出す。
「よし、今日はここまで。黒板はちゃんとキレイにしろよ」
この一言も、彼の呼び名のゆえんになっている。次の授業の橋本薫先生の存在も、彼のあだ名づくりに一役買っている。少しでも白っぽい黒板であれば
「日直!黒板はちゃんとキレイにしなさい!」
と怒鳴るのだ。あれ、どっちかというと日直殺しは橋本先生なのでは?――ある生徒の一言
今日の一限目は谷口先生だった。しゃべり方が優しいから、眠くなっちゃうんだよね。
「ふーちゃんふーちゃん」
後ろの席の春香ちゃんが声をかけてくる。
「ん、なぁに?」
「明日、遊びに行っていい?」
「分かった。お母さんに聞いてみるね。」
「ありがとう!ふーちゃん大好きぃ!」
「ちょっと!先生見てるよ!」
その谷口先生は、若いもんはいいですなぁ、といった目で見ていた。ちょっと恥ずかしかった。
そんなことはお構いなしに、春香ちゃんは満足気にため息をついていた。
「ンフー♪」
「とにかくさぁ、ボーカルが凄いのよ!一回聞いてみてよ!」
春香ちゃんは自分の好きなバンドの話をしている。掃除の時間もお構いなしに。モップ掛けなんだからやりながらでも話せるでしょう。
「へぇー、そんなにすごいんだ。一回聞いてみるよ。それはいいから掃除しよ?」
「ふーちゃんは固いんだから―。先生見てないんだからいいじゃん」
「壁に耳あり、障子に目ありっていうし、良薬は口に苦いもんだよ」
「ちぇー。ほんとに聞いてよー?名曲ばっかりだから!はまるから!」
授業が終わって、部活の時間。私は文芸部に所属している。まだまだ拙い文しか書けないけれども、少しずつ、少しずつ推敲して、最後にはいいお話が出来上がるように頑張っていきたい。
部活終わりの時間は、陸上部も同じような時間なので、大会前でなければ一緒に帰っている。やっぱり一人で帰るときはさみしいけれど、小学生の時と変わらないし。
「ちゃんと言っといてよー、明日行っていいかって」
「ちゃんと聞くよ。聞いたらすぐに電話するから。」
帰り道、それだけ楽しみなのか、彼女たちの声は弾んでいた。




