転機、まさかの事実。そして今、始まる
ライブ中の中で、ケイが私と言うところがあります。分かりにくいことだと思うのですが、前後の文脈で判断してください。
放課後、あたしは屋上にいた。
昼休みに、「放課後、屋上で」とだけ、彼は言い残し、去って行った。
恐らく昨日のバンドのことだろう。実は、あれはかなり緊張していたのだ。勿論、自分の歌に自信がなかったわけじゃない。でも、それ以上に、彼らの技術は神がかっていた。
本家顔負けの演奏だったのでは?と、昨日のスタジオで思った。
彼らと組めれば、行けるかもしれない、あの頂きへ…。ガルオワと同じ舞台まで。
そんなことを期待して、あたしは屋上で待っていた。
10分後、来ない。20分後、まだ来ない。
30分後、ひょっとしてこれが不合格の通知なの?そんなことを考えていると、重たらしい音を立てて、屋上のドアが開いた。
屋上に入ってきたのは、一風変わったスーツ姿の、3人の少女だった。
「え、なんで?どうしてガルオワの3人がここに?」
私は驚きのあまり、腰が抜けて、ヘナヘナと座り込んでしまった。
「俺達だよ、夏風さん」
とギターのKEYが手を振ってくる
「誰?」
「え?」
「いや、あたしの友達にガルオワみたいな可愛い女の子達いないんだけど?」
「いや、僕達男っすよ?」
「私を間違えるなんて、ひどいっ」
SEYとHANAもそれぞれ返事をする。
「え?貴方達男の子?」
「「「うん」」」
「・・・・ガルオワの真似?」
「「「いいえ、本家です」」」
「四葉君達?」
「「「はい」」」
「エーーーーーーッ!!!」
嘘だとしか、思えなかった。でも実際、姿も声も背格好も一致する。
まさか、本家顔負けの演奏をする人達だと思ってた人達が、本家だったなんて…。
「今日は話があってこの格好なんだ。」
四葉君が話しを切り出してきた。
「実は君に、ガルオワへ入って欲しいんだ。前話したあいつって、実はKAYOの事なんだ。」
突然色々起きて、脳がオーバーヒートしてる。でも、夢だったことだ、ガルオワは。
ガルオワに追いつくことが目標だったのに、ガルオワからお誘いがきた。まぁ実際入りたかったし、でも、自分で大丈夫なのか。そんな不安が胸を抉る。
「あの、あたしでいいのかな?」
俯いて、スカートの裾をギュッと絞る。肩は震え、今にも涙が落ちそう…
「何を言うかと思ったら、当たり前じゃん。むしろこっちから頼んでるんだよ。バンドに1番大切なのは、技術の高さじゃない、一体感なんだ。そして、それは前のスタジオ練でしっかり分かった。そして、俺は君に勇気をもらった。これ以上いい人材はいないと思う。」
四葉君は照れくさいのか、目線をそらす。
「はい………こちらから、も…よろしく…お願い、しまずっ!」
私の頬に喜びのあまりか、涙がポロポロと滴る。
四葉君達が、ハンカチを渡してくれる。
そして、私はGIRLS OF WARのニューボーカルになった。
「カンパーーーイッ!!!」
ここはこの前行ったファミレス。テーブルには今にも落ちそうなくらい、お菓子やら、料理が散らばっている。
四葉君は、前からメンバーが揃ったらここにくるつもりだったらしい。
とりあえず、色々食べたり、はしゃいだりして少し経ったぐらいで、
「ねえ、何でまた、バンド活動再開しようとしたの?」
するとヒデが、話しだした。
「もともと、活動休止か活動停止かでも、だいぶ揉めたんだ。そのきっかけになったのは、もちろんKAYOの事だよ。
その後、KEYは活動停止、私達は活動休止で対立して、多数決で活動休止にしたんだ。
その後、私とシュウちゃんがボーカルを探し回ってたところ、ケイがあなたを連れてきたってわけ。」
活動休止か活動停止で悩んだのは知らなかったけど、後は想像しやすかった。
その後、シュウ君が話し始めた。
「ケイ君が連れてきたって事で、早速スタジオでやってみたんすけど、これがもうピッタリで!3人で顔を見合わせたのを覚えてるっす。
その日の夜、ケイ君から電話がきて。
『今まで迷惑かけてごめん。ガルオワを再開したいんだ。』って言われたことは、一言一句忘れてないっす。その後は今の通りっす〜」
四葉君は耳まで真っ赤にして、外を見ている。ちょっと可愛い。
「ねえ!3人の名前の由来は?何で、女装を?」
と私は、ワクワクしながら聞いた。これには四葉君が答えてくれた。
「俺のケイは、佳広の佳をよしではなく、ケイとよんで、ヒデは英人の英が、ハナってよんで、シュウはそのまま清秋の清をセイってよんでんだ。カヨは本名そのままな。
元々俺達4人は幼馴染で、普通の格好でライブしてるたんだけど、誰にも見られなかったんだ。そしたら、カヨがインパクトが大事って、当時カヨが持ってたコスプレ衣装でライブしてたら、メジャーデビューしちゃったんだ。」
うん。女装の件は聞かない方が、カヨさんの印象が変わらなかったな…。
「じゃあ、私の名前どうしよう?」
これも四葉君が、
「夏風だからFUKAか、夏でNATSUか、翠でSUIだな!」
「みんな下の名前だからスイよね?」
「僕もスイがイイっすね」
まさかの、シュウ君とヒデ君に決められてしまった。ま、あたしも抵抗ないしいっか。
それから2時間程楽しく騒いで、おひらきになった。
あたしがガルオワに入って1ヶ月。事務所にも、慣れて、バンド内のメンバーも全員親しく、下の名前で呼び合うようになったころ。
ケイ君から、まさかの提案が。
いや、いつかは来ると覚悟していたことかな?
「復活ライブをする!告知は公式サイト、ツイッター、動画サイトで。場所は○○公園の野外ステージ、入場料無料!!!
さらに、そこに向けて新曲も作った!!
お前ら、やるぞ!!!」
すごいやる気だ。こんなやる気なケイ君初めてだ。あたしが初めてのケイ君の熱意に付いて行けず、狼狽えていると、
「ケイは、実は誰よりもバンドに熱心なのよ。作詞作曲も彼だしね。」
「っす!」
と、ヒデ君とシュウ君から言われた。すごく意外で、まさかの出来事だった。
このバンドに誘われてから、驚いてばっかだ。
これからのスケジュールを、バンッとケイ君がホワイトボードに磁石で止める。
「ライブは1ヶ月後、今日は、告知動画を撮る。今週はセットリストを考えて、来週はセトリの曲を練習するため、合宿だ!
再来週は、当日の会場の下見や、下準備だ!」
彼はやる気のようで、腕を組んでウンウンと頷いている。結構ハードなんですけど…。
そんな彼の熱意に叩かれまくれ、3人でヒイヒイ言いながら、とうとうライブ当日になった。まさかケイ君がここまでスパルタとは…
「とうとう今日がきたぞ!俺達はやれるだけやった!どんなに人がいなくても、これがスタートだっ!やるぞ!!」
4人の右手が重なる。ケイ君が思いっきり息を吸い込んで叫ぶ、
「絶対成功させるぞーーー!!!」
「「「「おうっ!!!!」」」」
そしてが入場、各楽器のセッティングが終わる。
あたしは最初、ステージ横でスタンバイだ。ちょっとだけ顔を出し、観客席を見た。
そこには、眼を見張る程人が溢れ、ステージ外にも人が鎮座して、溢れかえっていた。
こ、こんな中であたし歌えるのかな?
そんな不安を抱えているのは、私だけでは無かった。
ステージ横から見ると、3人みんな、足が震えていた。
楽器の調整を、終え、ケイ君が声を発した。
「みんな、今日はガルオワの復活ライブに来てくれて、ありがとう。まず、今までの活動休止について話さなきゃ、いいライブになんないから、包み隠さず、本当のことを言おうと思う。・・・・・・」
そして、ケイ君はKAYOさんの死をみんなに告げた。みんなの表情は、暗くなった。中には泣き出す人もいた。
このままじゃ、ライブなんて出来ないんじゃないのか?バンドメンバーの誰もがそう思った。けどケイ君は語り続けた。
「私達も最初は今のみんなと同じだった。でも、それじゃダメだ。それじゃいけないんだ。だって、KAYOは、そんなこと望んでないから…。
彼女はバンドを組んだ時からいつだって、世界に行くと言う夢を忘れなかった!
私達もそんなKAYOに付いてきた!だからまた歩き出したんだっ!!!
彼女の残した夢を叶えるために…お前らを、世界へ連れて行くために!!!!!」
会場が盛り上がる。歓声が上がる。さっきまでの暗い表情はどこえやら、今はみんな輝く目でケイ君を見ていた。
「これがガルオワのリーダーか」
そんな言葉が、独り言になった。
またケイ君が叫ぶ。
「そして!ガルオワは進化する!ガルオワは進化して引き継がれていくバンドだ!
そんなバンドのニューボーカルを紹介する!こいっ!!SUIーーー!!!!」
私は小走りでステージまで行く。マイクの位置にきて、一礼する。
足が震える。体が石のように重く感じた。震える息の音が大きくなる。
不意に私の肩に手がかけられた。3人の手だ。とても暖かい。さっきまでの緊張が、嘘のように消し飛んだ。
「皆さん!はじめまして、ニューボーカルのSUIです!あたしも、このバンドが世界に翔けれるように、精一杯頑張ります!!」
みんなからしたら、普通の挨拶だったかもしれない。
でも、あたしには特別な挨拶だった。決意表明でもあったのだ。
みんなの反応は、、、。
拍手喝采の歓声が聞こえた。あぁ、あたしはなんて幸せなんだろう。幸せを噛みしめる。
目尻が熱くなる。
けど、まだライブは始まってないんだ!!!
あたしは叫んだ!
「新しくなったあたし達の最初の曲!聴いてくださいっ!!!“To KAYO”」
ドラムが鳴り響く。それに続くようにギターの音が重なる。Aメロに入る前でベースソロが入る。3つしかない音なのに、こんなにも心に響く重厚感…。
このメロディに乗せて私の声が重なればどうなるんだろう…。
緊張なんか放り出して、この胸の中にある高揚を、思うがままに歌い出したい!!
3つの音にさらに1つの声が重なる。それは凄く重たくて、芯の通ったハリのある旋律で。聴く人の耳に、音の爆弾を投下した。
それは次々爆発していき、爆発で暖められた聴く人の体は、氷を溶かしたように動きだす。
さらに爆弾が増えた。サビに入ってKEYがコーラスに入ってきたのだ。
聴く人の耳はさらに爆撃される。勢いが増したと同時に聴く人達の動きも激しくなる。
瞑った瞼を開いてみると、そこには音の爆弾の勢いと一緒に、激しく踊りだす観客がいた。
私は、本物のガルオワ、GIRLS OF WARのボーカルになった。
〜3年後〜
「おーい!忘れ物してないよな〜?」
あたし達は空港で待ち合わせていた。
KEYの質問に、みんなが答える。
「私はないよ〜♡」
「僕もないっす〜」
ルンルンのHANAとSEY、
『ケータイの充電器忘れたーーー!!』
1人あたふたしているのは、私、SUIだ。
「コンビニで買ってくるーー!!」
私は空港内のコンビニに走りだした。
「あの馬鹿、コンセント類は向こうで買えって言ったろ…」
「本当、面白い方っすね。バンド復帰してよかったす!」
「本当ね」
後ろで3人が、あたしのことを暖かい目で見ているとも知らずに…
あの活動再開ライブから、あたし達のガルオワは動き始めた。あたしの評価は、と言うと、、、。
2代目ボーカルって事で、叩かれることもなく、寧ろ想像以上に優しかった。
それから、全国ツアーを周り。武道館でもライブを成功におさめた。
そして今日、あたし達は海外単独ツアーに向けて、飛行機に乗る。
あたし達は世界に羽ばたく
〜end〜
これで第2作目完結です。次の3作目をお待ち下さい。
これは連載してますが、短編でやりたかったので、最後は展開をすすめすぎましたが、どうしても3話で終わりたかったので、ご理解お願いします?